3話 転移国家の条件 その1


 ガイアは正史地球の人類滅亡シミュレーションの結果を思い出していた。


1つ目


 覇権国家争いにより、核戦争が原因の場合

 アメリカとソ連の冷戦時代にその危機が何度もあったが、ソ連崩壊によって冷戦時代は終焉。

 ソ連の次に台頭してきたのは中国であり、台湾危機で核戦争が高まったことがあったが、中国は当時は力不足で軍事撤退したことで核戦争は回避した。


 だが、中国が経済力を身に付け、再びアメリカと覇権を争うが、アメリカ側の経済戦争により中国が破綻する可能性が高く、中国側がヤケを起こして先制攻撃で核を使う場合も予想出来るが、互いに核戦争の怖さを知っているため、核戦争が発生する確率が50%以下で、覇権国家争いが原因による人類滅亡の可能性は少ないといえた。



2つ目


 人口爆発による食糧危機の場合

 食料不足でアフリカ大陸全体で内戦が勃発し、それが第3次世界大戦に発展して行くのだが、この大戦で地球人口が半分以下になるけど、核を使用しない通常兵器による戦争であれば、人類は滅亡しないから、結果OKである。



3つ目


 地球温暖化が原因の場合。

 海岸地域が海面上昇によって住めなくなり、特に中国国内で内戦が勃発し、国家分裂するが、その一つの国家が軍事国家になって台湾侵攻すると、アメリカと戦争になり、それに伴って日本やヨーロッパに戦火が飛び火して、最終的にロシアがアメリカに核を使用し、アメリカは報復攻撃で核を使用して、最終的に核の冬が到来し、地球全体が放射能汚染されて人類が滅亡するパターンが一番確率が高く、コレの滅亡率が98%である。

 万一核戦争に発展せずに時代が22世紀まで進行して、技術革新出来れば50%以下に落ちるのだが。



「ウーン、どれも核戦争が無ければ22世紀以降は人類滅亡しないわけね」


 ガイアは、中央管理局に以前提出したシミュレーション結果を再検討して、導き出した答えは、PW地球から元素周期表の第7周期元素であるウラン系の核物質を神の手で地球上から消去させることであった。

 それと同時に、放射能廃棄物と放射能汚染された一般放射性廃棄物質も全て消去という形で放射能浄化することとした。


「1つ目は核物質を0でOK、2つ目は農業改革とバイオ作物でクリアと。

 問題は3つ目の地球温暖化なのよね」



 地球温暖化を防ぐ最大のポイントは化石燃料の使用を抑えることだが、元々の絶対量が少なければ、再生可能エネルギー等の早期普及や核融合開発に拍車が掛かり、ガイアはPW地球の石油埋蔵地域の変更等を手掛けることを考えていた。


「中東、南米とアメリカ、それとロシアに偏って石油が集中し過ぎているのが一番問題なのよ。

 特に中東は争いの元になっている石油資源は全て消去しましょ。

 代わりに砂漠化しているところは、少し地球環境の天候を調整し、緑一杯にして農業可能になれば紛争が少しは少なくなるかな?


 それにイスラム教はガヴリエルのAI回路が暴走して、マホメットに天啓を誤った形で与えた結果で起きた宗教だから、コレはいずれ天啓を与えたガヴリエル自身の手で解決しなきゃならない課題なのよね。

 まあ、歴史改変で障害にならなければ放っておいて良いと中央からも言われているし、ま、思想にバリエーションが出るからあえて手を付けることは止めましょうか」



 PW地球の石油資源の偏りをある程度分散し、全体埋蔵量を1/100にした。

 さらに鉱物資源の分布もかなり変更して、特に貴金属関係の分布と埋蔵量を大幅に変更、増加した。


「さてと、ここまで地球環境を調整したが、最終的には人類の活動状況に左右されるけど、問題は歴史特異点と覇権国家の選択なのよね」



 ガイアはまず歴史特異点の年代の選択について悩んでいた。


「まず、第2次世界大戦前後を中心とした場合が、一番ドラスティックに歴史改変出来るのよね。

 この時代でダメならば、改めて別の時代を検討しましょう」



 年代が決まったところで、次は覇権国家の選択作業に入った。


「正史地球の現在ではアメリカが世界の覇権国家であり、最近は中国とインドがアジア全体の覇権を持とうと躍起になっているわけね。

 取りあえず先進国候補はイギリス、ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、日本だが、後は先進国と言えるかは判らないけど、一応オマケで韓国ね」



 ガイアは転移する覇権国家の条件の検討をしていた。


転移する覇権国家の条件


1 ほぼ単一民族で構成されている国家


2 民度が高い民族と民主的な軍隊が存在する国家


3 多神教国家で、1つの神に固執しない民族が大多数占める国家


4 人種差別や民族優越意識が少ない民族が大多数を占める国家


5 技術大国であり、特に職人の技術を重んじる軍事・経済大国



 この覇権国家の条件を出した理由について若干説明する。


 1のほぼ単一民族で構成されていなければ、戦争中に国内での反乱や内乱が起きやすくなるためである。


 2は、民度が低い民族は善悪の判断や道徳心が少ないため、犯罪等を起こしがちで、民主的な軍隊についても同様である。


 3は、無用な宗教的な争いをしない民族が大多数を占めること。

 この世に1つの神しかいないと考える民族は、他の神を信じる民族は異教徒であり、異教徒を排斥することが宗教戦争に繋がるわけである。

 その点、多神教国家では複数の神が存在していることを認識しており、他の宗教も認めることが可能で、許容する心を持ち合わせているからである。


 4は、民族優越意識や選民意識が高い民族は、自分らと違う考えを持つ民族を自分らより能力の低い者とみる傾向が強く、この意識の高さが他民族を自分らより劣った奴隷的存在と考えがちである。

 そのため、選民意識が低く他民族の存在価値を認め、他民族を許容出来る心を持ち合わせている人物が多数存在することが重要である。


 5は、職人の技術はローテクであるが、同時に基礎技術の塊であり、これらの技術の積み重ねが、最先端技術の向上に繋がるわけである。

 このように職人を大事にしない国家は、技術の継承が出来ずに衰退して行くことが確かである。

 故に職人技術を守ることが出来る国家は経済的に豊かで、かつ軍事的大国である。



「さてと、正史地球でこの5つの条件に当てはまる国家はあるかしら?」


 アメリカは確かに覇権国家ではあるものの、多民族国家が故に人種差別大国でもあった。

 自由主義だから人々の人権は尊重され、人種差別が無い国と思われがちだが、過去には奴隷制度を巡って内戦(南北戦争)を起こし、白人至上主義の果てにKKKという結社を生み出し、現代でも黒人、ヒスパニック、アジア系等の人種差別を巡った殺人・傷害事件等は数限りなく発生している。


「アメリカは国内外共に無双し過ぎるのよ。自由主義という御旗を掲げて弱小国家に軍事脅迫して、自由主義の押し売りを続けることがダメね。

 自由主義だと言っても、一神教国家なので他国の考え方は受け入れしようとしないから、常にテロリストの標的にならざるを得ないのよね。

 それに、国民全体が無駄使い主義者と言えるほど浪費家が多いのが問題よ。

 こんな人々ばかりの国家だから、地球温暖化がストップしないのよね」


 ガイアはアメリカを転移国家として選択すると、転移先の時代が不幸になる情景が思い浮かび、二度と転移国家候補には選択しないと心に誓った。



「次に中国ね、ココは絶対選択しないわ」


 中国は古代から中世にかけては覇権国家であった。

 現在はその座を滑り落ち、再び過去の栄光ある覇権国家を目指しているようだが、この国は国民の民度が低く、全ての国民が利己主義と拝金主義に凝り固まっている。


 さらに共産主義国家故に、共産党政府が人権侵害、民族・思想弾圧等に手を掛けているが、大部分の国民は見て見ぬ振りをして自己保身に精一杯である。


 こんな国が覇権国家になったら、世界中が不幸せになることは間違いない。

 近い将来に中国に内乱が発生する可能性が高く、国全体が民族ごとの国々に分かれて、連邦制に移行した方が他国への圧力が無くなり、世界平和に繋がることは間違いない。



「それからインドね。この国と国民性は二面性があり、理解不能なところが多くて、覇権国家には程遠いわ」


 インド人の性格は

・他人にフレンドリーなのに自己中心的で平気で人を騙す。

・せっかちなのにマイペースで、時間にルーズ。

・おしゃべり大好きなのに人の話はほとんど聞かない。

・真面目なのに平気でウソをつく、誤魔化す、謝らない。

等で、このようなインド人の考え方が国家に反映され、覇権国家を目指すには国民全体の民度が少し低いと言わざるを得ない。



 ガイアは、残りの先進国について国家・国民性の特徴について検討するとともに、理想の覇権国家の或るべき姿を模索していた。


イギリス

 第2次世界大戦前までは覇権国家で、現在も英国連邦として覇権国家の名残が残っている。

 国民の大半は礼儀正しく謙遜を重んじ、民度は大変高い。

 しかし、プライドが高いが故に他国人を見下す傾向が強い。

 さらに、階級社会が存在して民族優越意識と人種差別意識が大きい。


ドイツ

 国家としての経済力は世界4位で、技術力は世界一、二を争う位に高い。

 国民の大半は真面目で親切、秩序とルールを重んじ、責任感が強い。

 だが国民の心の底では、民族優越意識が極めて高くて、この優越意識が欧州人種以外の差別意識に繋がる。


フランス

 経済力は世界6位で軍事力もそこそこある。

 多民族国家の割には、自国優越意識が高く人種差別意識は極めて高い。

 国民は自己中心的でプライドが高く、保守的で頑固で他の考えを認めようとしない傾向が強い。

 

イタリア

 古代にはローマ帝国として覇権国家として君臨したが、現在ではその片鱗は遺跡にしか感じる程度である。

 国家としての経済力は世界9位で、軍事力はそこそこある。

 国民は陽気で親切だが、ルーズで他力本願で投げやりで責任感が薄い。

 だが、フランス以上に人種差別意識が高い。


ロシア

 元ソ連で、共産主義が崩壊して自由主義、民主主義的な経済体制が導入されたものの、それは上辺だけの見せ掛けで、政治体制的には全体国家に近い。

 多民族を多数抱えているため、故に絶えず民族的内乱が絶えず、弾圧と粛正の歴史を今も繰り返している。

 経済的には上位に入り、軍事的には一時期ではアメリカと争うほどであったが、それも全てアメリカ、日本、ドイツ等の自由主義国家から先進技術を盗用して応用開発したもの。

 陸地的には世界最大の面積を誇り、ランドパワーとしては中国以上の実力を誇るが、海軍力が乏しいためアメリカのように世界中に覇権を展開する能力は乏しい。

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