「大阪城にて」



 大阪城に着いた。


 大阪城の周りは、だだっ広い公園になっていて、ランニングしている人や、サイクリングしている人、小さい子のいる家族連れなどが、公園の中でリラックスしていた。


「取り敢えず、コーヒーでも飲みましょうか」

 香坂潤が先頭になって、公園を歩き始めた。全国的に有名なコーヒーチェーン店が、公園の入口付近にあって、4人で店に入った。コーヒーの良い香りがして、さっきまでの重い空気が少しだけ緩和かんわされるのを感じた。


「アメリアは何が飲みたいん?」

「前に飲んだアイスに似たやつが飲みたいデス」

「あれ、季節限定やねん。残念やな……今月は……イチゴのフラペチーノみたいやで。アメリアはイチゴ好きか?」

「イチゴ?というのは、どんな食べ物デスカ?」

「あー、アルトリアにはイチゴが無いんか……」

「食べてミタイデス」

「OK!お二人は何にしますか?」

 奢りますよ、と財布を出す香坂潤に遠慮して、自分達で注文するわ、と言って、私はカウンターに並んだ。春日部遥も、そこに続く。


 順番が来て、ブラックコーヒーを頼んだ。春日部遥は少し悩んでいる様子だ。


「春日部さん、どの飲み物で悩んでるの?」

「いえ……飲み物はカフェラテにしようと思ってるんですけど、サンドイッチか季節のタルトかで悩んでるんですよ」

「ええ!?この後、4人でランチ食べるんじゃないの?」

「だから悩んでるんです……」

「入りきらないわよ?」

「いえ、入り切るとは思うんです。問題は、ここで食べるとランチのオカワリは出来ないかな……と。う〜ん。やっぱり飲み物だけにしておきます」

 この子の胃袋は、多分、私の倍以上はあるだろうなあ、と呆れながら、私は受け取りカウンターに並んだ。


 4人でテラス席に座った。日差しが少し強いけれど、温度は穏やか。もう夏になる。後、数週間もすれば、外に出るのも億劫おっくうな季節へと移り変わるだろう。


「アメリア、イチゴの味はどうや?」

「スゴく美味しいデス!甘くて、酸味があって……私、これ、スキデス!」

 アメリアは、イチゴをとても気に入った様だ。さっきまでの陰鬱いんうつな表情が消えて、明るく香坂潤と会話している。


 ここでティーファ・オルゼの話を振っていいのか悩んだが、一気に切り込む事にした。


「アメリア、ティーファ・オルゼって人は、どんな人なの?」

 その問いかけに、アメリアは少しだけ表情をくもらせながら答えた。


「ティーファ先生は……端的にイエバ、『自分に厳しい人』デス」

「自分に……」

「ハイ。私の一族……オルゼ家は、ここ十数年、他の錬金術師の開発力に負けてイマス」

 アメリアは、下を向いて嘆息たんそく交じりに言った。


「ティーファ先生は、オルゼ家を代表スル錬金術師で、様々な術式を開発されてイマス。けれど、ここ最近は、同じ様に国を代表すると言われている他の錬金術師の一族……グラス家、カミュ家に、遠く及ばない……それドコロか、今まで国を代表スルトまでは言われてなかった一族にサエ押されてきていて……それをティーファ先生は、トテモなげいていました」

「ティーファ・オルゼは、『イチゴイチエ』で、異世界の……つまり、私達の居る、この世界の技術を知りたいと、ハロルドは言っていたわ。それなら、このまま私から情報を得れば良いんじゃないの?」

「……」

 アメリアは、目をせて数十秒黙った。そして、決意を決めた表情になって、顔を上げて、言った。


「ティーファ先生は恐らく、美咲さんが教えてクレナイ技術……武器や毒の技術が欲しいんだとオモイマス」


 空気が凍った。


「ティーファ先生は、常日頃、カミュ家……あ、カミュ家というのは、軍事技術で有名な錬金術師の一族なのデスガ、そのカミュ家に対して、異常なマデのライバル心を燃やしてイマシタ」

「そんな……人を殺したりする技術が必要なの……?」

「アルトリアは、今は平和を取り戻していてイマスが、軍事国家デス」

 アメリアは悲しい目をして言った。


 ストロベリーフラペチーノを一口、口にして、アメリアは続ける。


「人をコロス技術は、常にアルトリアでは求められてイマス。カミュ家に対抗スルには、この世界の殺戮兵器などの技術が必要ナンデス。私は、この世界に来て、テレビを見て驚きマシタ。警備兵……こちらではケイサツ?と言うのですか?そう言った人達でさえ、拳銃を持っていますヨネ?あの技術をアルトリアに持ち込めば、恐らく隣国のラストリエに直ぐに宣戦布告スルとオモイマス」

「そんな……」

 私は恐怖感を覚えて、コーヒーカップを持つ手が震えた。


「課長……夜になったら、ハロルドさんと話すんですよね?そこに私達も同席して良いですか?」

「勿論よ!むしろ、一緒に聞いて欲しいわ。皆の意見やアイデアが聞きたい」


「取り敢えず、美味しい物を食べませんか?大阪城見た後、お好み焼き食べましょ」

 重い空気になったのを察して、香坂潤が明るい声で言った。


「お腹減ってると、暗い空気になってしまいます。美味しいもん食べたら、良いアイデアも出るかも知れません」

「そうよね!お好み焼き、3枚は食べたいわ!」

 春日部遥も明るい声で言った。


 コーヒーを飲み終えて、4人で大阪城を目指した。有名な城なので、テレビや写真では何回も見た事はあったが、実際に、この目で見るのは初めてだ。しかも、城の中に入れるらしい。大阪城の中は展示室が各階層にあって、8階には展望台があった。


 展望台に着いて、大阪を見渡した。都心に比べれば、確かに高い建物は少なかったけれど、独特の空気感がこの街にはあるなあ、と感じた。


 飛行機が飛んでいるのが見えて、ハロルドが言っていた事を思い出す。そちらの世界に、何百人も乗せて空を飛ぶ船があるのか?と聞かれた。その時は純粋に、人を運ぶ為の技術が欲しいんだろうと思っていた。あれは空から攻撃する為の技術が欲しかったという事だろうか。ティーファ・オルゼ……彼女は、必ず、こちらの世界へやってくる。なんとしてでも阻止しなければ!私は決意を固めて、心の中でえた。

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