「アメリア・オルゼ」
新幹線が、キィーと言う耳障りな高音を放って、停止した。東京から新大阪まで、3時間弱の長旅だった。座りっぱなしで、腰が痛い。出口に列が出来ていて、最後尾に春日部遥と共に並んだ。
「課長、
「そうね。香坂さんに連絡しとかないと」
「あ、私が連絡しときます」
「ありがとう」
人の列が、ゆっくりと動き始めた。1分程して、出口へ辿り着いた。新幹線から降りて、軽く伸びをする。少し疲れたな。
大阪。何度か来たことはあるが、東京とは国が違うんじゃないか?って程に文化が違う。例えば、エスカレーターの並び方。普通、左側に立つ筈が、大阪は右側に人が並ぶ。
諸説あるみたいだ。1970年の大阪万博の時に海外の観光客を意識して、当時、欧州で主流であった右側に立つルールが大阪万博以後に定着したという説もある。
歩くスピードも違う。大阪の人の平均歩行速度は毎秒1.6mらしい。速い。
外国に来たような気分で、エスカレーターへ移動し、スーツケースと共に右側に立った。
「課長、潤くん、もう着いてるみたいです」
スマホの画面を見ながら、春日部遥が言った。
「そうなんだ!急ぎましょう」
「えー、慌てずに行きましょうよ。そんなに変わらないですよ」
早くアメリアに会いたい。異世界から、自分の想い人の居る世界へ、一生、
足早に、中央改札を抜けた。
「羽生さん!遥さん!」
紺色のジャケットを羽織った、背の高い爽やかな青年が手を振った。香坂潤。満面の笑みで、私達を出迎えてくれた。
隣に、目鼻立ちのハッキリした、金髪碧眼の女性が、緊張した面持ちで立っている。アメリア・オルゼだ。アルトリアから来た女性。
本当に、異世界から、こちらの世界への移動する事が可能なんだ、と感動しながら、2人の元に駆け寄った。
「初めまして、香坂さん、アメリアさん」
「やっほー、潤くん!」
丁寧にお辞儀した私の横で、軽いノリで春日部遥が挨拶した。
「大阪へようこそ!羽生さんも、遥さんも、ビデオ通話で見るよりも、べっぴんさんで
大阪人って、皆、こんな風に口が上手いのだろうか?
「潤?私の目の前で、他の女性を口説クノ?」
「ちゃうちゃう!アメリア!これは挨拶みたいなもんや!」
「
「アメリアはNHKばっか見てるからや!」
笑ってしまう。
「コンニチハ、羽生さん、春日部さん。アメリア・オルゼです。潤の妻デス」
少しだけ、
「こんにちは、アメリアさん。日本語、凄く上手ですね」
「日本語、今、必死で勉強シテマス。とても難しい」
「小型水晶使ったら?って言うてるんですけど、アメリア、ちゃんと自分の力で話したいって言って聞かないんですよ」
香坂潤は、苦笑しながら言った。
「まあ、立ち話もなんですし、車で移動しましょう。少し観光しませんか?」
「お!何処に連れてってくれるの?」
春日部遥が明るい声で尋ねた。
「先ずは大阪城かな?って思ってます」
「良いね!そう言えば、課長は、行きたい所とかあるんですか?」
「私は皆に合わせるわよ」
「スーツケースだけ、ホテルに預けてから行きましょか。何処のホテルに泊まるんですか?」
宿泊するホテルの名前と住所を伝えると、香坂潤はスマートフォンで検索し始めた。
「ああ、ここから近いです。取り敢えず、駐車場まで行きましょう」
香坂潤に案内されながら、新大阪駅の中を移動した。
「羽生サン」
「はい?」
4人、無言で移動していると、アメリアが突然、話し掛けてきた。
「羽生サンも、アルトリアの人間と恋に落ちたと聞いてマス」
「そうなんですよ」
少し照れながら、私は答えた。
「不安になりマセンカ?」
「
「私は、そんなに悩まずに、潤の所に来まシタ」
「愛しているんですね」
「ハイ。とても愛してイマス。同じ様に、アルトリアの家族の事も愛してイル。今、とても辛いデス」
暗いトーンで、アメリアは呟いた。
「もしも、その人と結婚したいと考えているなら、自分の居る世界へ呼ぶのがイイデスヨ」
「そうですよね」
アメリアは落ち込んだ表情で、続ける。
「潤に、アルトリアに来て貰えば、良かったデス」
下を向いて、アメリアは泣きそうになっていた。
「それだけ、香坂さんに愛情を持っていたんですよ。これから、どうなるかは分かりませんが、協力出来る事があれば、協力させてください。今、色々と情報を集めてます」
「羽生さん、ありがとうゴザイマス」
直ぐに笑顔になって、アメリアは先頭に居る香坂潤の元へ駆け寄った。アメリアが、腕を絡ませて、香坂潤は少し照れくさそうにした。
数分後、駐車場に着いた。香坂潤が駐車場の料金を払って、私達を車の元へ案内した。黒いレクサス。流石、
「シートベルト、してくださいね。」
後部座席に座った、私と春日部遥の方に顔を向けて、ニッコリと微笑む。香坂潤は、エンジンを掛けて、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
車内で雑談しながら、1日のスケジュールを決めた。アメリアも楽しそうな表情で、会話に参加した。本当は悩んでいると思う。それを香坂潤の前では、表情に出さずに、気丈に振舞っているのが分かって、見ていて痛々しかった。
「着きましたよ」
ホテルの前で、車を停めて、香坂潤は運転席から降りて、トランクを開けてくれた。スーツケースを丁寧に降ろして、そのままホテルへ運ぼうとしたのを見て、私も春日部遥も遠慮した。
「私達は、自分でやるから、アメリアの傍に居てあげてよ」
「分かりました」
香坂潤は、ぺこり、と頭を下げて、運転席に戻った。
ホテルへチェックイン。手続きを素早く終わらせて、部屋へ移動する。
「あら!?課長と私の部屋、遠いですね」
「本当ね。でも、階は一緒みたい」
「じゃあ、荷物置いたら、エレベーターの前に集合しましょう」
「分かったわ」
部屋へ入って、荷物を置いた。すると、スマートフォンがピロン、と通知音を鳴らした。
ハロルドからのメッセージだった。
急いで、画面をタップする。
「美咲、今、合同軍事演習中なんだけど、ティーファから連絡があった。アメリアと
「どういう事?」
「ティーファが異世界人とマッチングした。彼女は
ハロルドからのメッセージに、私は驚いて、その場に立ち尽くした。
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