【異世界マッチングアプリ】
三角さんかく
「マッチング成立」
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電車の中の吊り広告を見て、私は深々と溜息を
マッチングアプリねぇ。
もう、ここ何年も彼氏が居ない。親は「そろそろ孫の顔が見たい」とプレッシャーを掛けてくる様になった。私自身は、結婚適齢期も過ぎて、半分諦めている。
テレビドラマみたいな出会いを求めてしまって、次の恋に中々踏み出せない。前の彼氏がとても良い人で、忘れられないと言うのも原因の1つだろう。合コンにでも行けば出会いもあるのかも知れないが、周りの友人達は皆、結婚して子供も居るので、そもそも機会がない。
マッチングアプリねぇ。
軽薄な男達が、一晩の関係を求めて女を漁る……と言う印象が拭いきれない。こう言うので出会って、結婚するカップルも居るのだろうが、容姿に自信のない私にはハードルが高かった。
仕事が楽しいと言うのも、結婚出来ない理由だろう。最近、昇進して、部下も十数人居る。彼等がモチベーションを上げて成長し、私を慕ってくれるのがとても嬉しい。上司からも、とても良い評価を貰っていて、今月入ったボーナスは例年の1.5倍。しかし、懐の温かさと相反して、心には冷たい風が吹いていた。
マッチングアプリねぇ。
三度目になる迷いを頭の中で呟いて、私は決断した。やらない後悔より、やる後悔。物は試しだ。意外と上手くいって、電撃結婚!ってなるかも知れないし。私はスマホにマッチングアプリをダウンロードし始めた。
家に帰って風呂を沸かしながら、冷蔵庫からビールを取り出した。先ずは一杯。風呂上がりにもう一杯、と言うのが毎日のルーティーンだ。風呂が沸くまで15分。今の内にマッチングアプリの設定をしておこう。
登録料は幾らくらいなんだろう?と思いながら、名前、年齢、住んでいる大まかな場所、性別を入力した。女性と入力した瞬間、登録料は一切掛からないと表示されて安心した。これならじっくりと吟味して、誠実そうな人を選べそう。
顔写真をアップロードする項目になって、数年前に海外で撮った海辺で
趣味の欄になって手を止めた。趣味……私の趣味って何だろう。お酒?仕事?思いつかなくて、趣味の欄を飛ばした。すると「必ず趣味を入力して下さい」と表示されて、前のページに戻される。数個の項目が出てきて、そこから選べる様になっていた。
あー、面倒臭いな。
私は項目を見ずに適当にクリックした。相手がどんな趣味だろうが、多分合わせられるし、こんなの考えてても仕方ない。
ピロピロ〜🎶と風呂が沸いた事を知らせる音楽が鳴った。私はマッチングアプリの設定を終えて、決定のボタンを押した。プロフィールは
30分後、風呂から上がって、冷蔵庫からビールを取り出した。クイっと一口飲んで、その喉越しに、くぅ〜!と声を上げた。やはり酒は良い。机の上にビールを置いて、スマホを見た。おや?
『メッセージが届いています』
あら!と口に手を当てて、急いでマッチングアプリを開く。メッセージの欄をクリックして、私は目を疑った。
めっちゃイケメンだ…
サムネイルに表示されていたのは、金髪碧眼の美青年。外国人かあ。こんな美形の若い男性が、私みたいなオバサンにメッセージを送ってくるなんて、世の中おかしいんじゃないの?と思いながら、ワクワクしてメッセージを開いた。
「こんばんは!とても素敵な笑顔に惹かれて、メッセージを送らせて頂きました。趣味がドラゴン乗りと書いてあって、とても興味を惹きました。私もドラゴン乗りが大好きです。宜しければ、返信頂けると嬉しいです」
んんん??ドラゴン乗り??なんだそれ??
私は自分のプロフィールを確認した。
「ドラゴン乗り」「魔法研究」「錬金術」etc……まるでRPGゲームの世界にある様な項目が並んでいて、私は目をパチクリとさせた。意味が分からない。さっき適当に選んだ項目が、まさかこんな事になるなんて。そもそも「ドラゴン乗り」って何だろう?最近、若い子達の間で流行ってる遊びか何かだろうか?
直ぐに趣味の欄を間違えて登録した事を伝える。悪い事してしまった。
「そうだったんですね。ドラゴン乗りはとても楽しくて、ご一緒出来ればと思ってました。これも何かの縁なので、これからもメッセージ送らせて頂けませんか?仲良くして下さい」
情熱的な人だなあ。私は、こちらこそよろしくお願いします、とメッセージを送って、趣味の欄を修正する事にした。
次の日、朝、目覚めてスマホで時間を確認しようとすると、またメッセージが来てると言う通知があった。なんだか楽しくなってきた。仕事以外でメッセージのやり取りをするのは家族くらいだ。
「おはようございます。今日、ドラゴンに乗ってきました。とても良い天気で、素晴らしい景色だったので、画像を添付させて貰います」
そのままメッセージをスクロールさせて、表示された画像を見て、私は言葉を失くした。
え……ドラゴン乗りって、本当にドラゴンに乗って空を飛ぶ事なの!?
CGにしてはリアル過ぎる画像がそこにはあった。ドラゴンに手網を付けて、背中に乗っている美青年が微笑みながらこちらを見ている。二枚目の画像は、雲の上から地上を写し出した物だ。
からかわれているのだろうか……でも、こんな手の込んだ事をわざわざする理由が分からなかった。文面も真面目で、誠実そうな印象を受ける。私は覚悟を決めて、美青年にメッセージを送った。
「私の住んでいる世界にはドラゴンと言う生物は居ません。貴方の住んでいる国の名前は何ですか?」
パジャマからスーツに着替えて、朝食の準備をしていると、スマホに通知が来た。ドキドキしながらメッセージを開く。
「私が住んでいる国の名前はアルトリアです。貴方の住んでいる国の名前は何ですか?もし宜しければ、外の景色を写して、画像を送って下さいませんか?」
アルトリア……聞いた事のない国の名前だ。Googleで検索すると、アニメのキャラクターが出てくる。国ではない。
私は住んでいるタワーマンションのベランダから、外の景色を写真に撮って美青年に送った。
暫くして、返信が来た。
「こんな不思議な景色を見たのは初めてです。ひょっとして、私達の住んでいる世界は別物なのでしょうか?どうして言葉が通じるのでしょうか?」
「そちらには『電話』と言う道具はありますか?遠くの人と声のやり取りをする機能のある物です。もし可能なら、このアプリから話す機能があるので、試してみませんか?まるでその場で対面してる様に、画面越しに話す事が出来ます」
「『電話』と言う物はありませんが、このアプリで話す事は出来ます。水晶を使います。是非、話してみたいです」
私は電話のマークが付いた通話ボタンを押した。
「おはようございます。聞こえますか?」
「聞こえます。からかわれているのか、魔物に化かされているのかと思いました」
「その……こんな事ってよくあるんですか?」
「私の国の言い伝えに、異世界から現れる人の伝承はあります。けれど、実際にこうして話すのは多分、とても珍しい事だと思います」
スマホの画面に映っているのは、鎧を着て目を大きく開いている美青年。後ろの窓からは巨大な城や神殿が見えた。
「信じられないかも知れませんが、現実です」
「通話するまで、私も信じていませんでした。でも、貴方の周りの景色を見て確信しました。貴方は別の世界に生きているんですね」
「この事は二人だけの秘密にしましょう。私の国は軍事国家です。未知の国があると知られれば、侵略する事になるかも知れません」
悲しそうに言った彼を見て、その誠実さに惚れてしまった。
「あの、本当はアプリを消して何も無かった事にするのが一番良い事は分かってるんですけど……」
私は意を決して、彼に言った。
「これからもメッセージのやり取りしませんか?これも何かの縁と言ってくれたので」
彼は微笑みを浮かべて、返答した。
「私も貴方に興味があります。毎日、メッセージ送りますね」
こうして、私と彼との異世界マッチングが成立した。
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