第10話 everyday life ①



【祝・脱社畜】からのニートwwww


1 孤独の名無し

せやからごっつ暇なんや

こんなワイに本スレよりもぬるくとっつきやすい生配信者のオススメ教えてくれや


2 孤独の名無し

1>>

しょうもないスレたてんなや

まま、ええけど


3 孤独の名無し

>>1 乙

最近マンネリやし逆にオススメ知りたいわ


4 孤独の名無し

そんなんにじ王のトップ5までチェックしとけばええんちゃう?

初心者にゃ無難やろ


5 孤独の名無し

1やけど大手は嫌やねんワイコミュ障の陰キャやからな

陽の者がキャッキャしているのとか無理



6 孤独の名無し

わかる

ノリについていかれへん


7 孤独の名無し

>>4 

あいつら最近拝金がみえみえ過ぎてすかんわ


8 孤独の名無し

>>7

わかる


9 孤独の名無し

どこも最近は投銭前提みたいな感じだもんな


10 孤独の名無し

どうせ金投げるんなら幼女がええわ



11 孤独の名無し

>>10

もしもしポリスメン?


12 孤独の名無し

逆にBBAが好きな剛の者とかおるん?


13 孤独の名無し

おらんやろうなぁ……


14 孤独の名無し

おっそうだ(唐突)ええのおったわ


15 孤独の名無し

>>15

はよ はよ


16 孤独の名無し

まだライバーデビューして3か月くらいなんやけど名前は【チェリー】個人チャンネルで雑談メインでなんか顔半分隠れるマスクしてるんだけど素顔はほぼ見えてるんや

銀髪美少女やな


17 孤独の名無し

>>16

ガタッ


18 孤独の名無し

>>16

ふーん、顔だしとか勇気あるな kwsk


19 孤独の名無し

何故かちゃぶだいの前に座ってんだ 抑揚のない声でなーんも考えてないまま雑談 

そんでおっ〇いみたいなアイスあるやろ?あれ黙々と喰ってんだよな 

そん時はまだ100人もいるかいないかくらいのリスナーがいたっけな 

でっかいアイスをちっちゃい口で半分くらいまるのみしてドヤ顔しながらこうすればエロくないって言うんだけど、溶けたアイスが垂れて逆にエロくなってんの それに逆切れして放送終了


20 孤独の名無し


21 孤独の名無し

草草の草


22 孤独の名無し

ほーん で、ガチで美少女なん?


23 孤独の名無し

多分ガチ中のガチ。見えてるパーツだけで相当なレベル

なんか体型はモデル系の細くて整っている感じなんやけど胸はぺったんこでな

それを必死に気にしていないアピールしてて草不可避


24 孤独の名無し

なにそれ見たい 無知っ娘とか最高やんけ


25 孤独の名無し

とりあえずしばらく追っかけるつもり推すかはまだわからん

一応週一ペースでやっててジワジワ登録者増えてるけど本人は宣伝とか全然しないんだよな


26 孤独の名無し

ワイもちょっと見たいわ


27 孤独の名無し

ほなチャンネルのURLだけ張っとくわ

http://【URL省略】


28 孤独の名無し

>>27

有能 行ってくる


29 孤独の名無し

お前らも気にいったら登録したってや!


30 孤独の名無し

おk





 ☆☆☆☆☆☆☆☆





「うーん、なんか思ったより凄いよ反応」

「そうなの? わかんないからその辺は姉さんに任せるよ」

「さくらちゃんってスイッチがオフの時はほんとダウナーだねえ……」

「やー、なんか別人みたいで楽しいとは思うよ? けどやっぱり他人事にも思えてさ」


 キャンプ放送から帰ってきたオレ達は部屋でゴロゴロしていた。

 今のところ配信も週一でしかやってないしさ。

 なのでキッチンでごそごそしているオレ。

 リビングでは今や姉さんの物となりつつあるPCを見ながら配信の反響を教えてくれる姉さん。


 しかし姉さんの観光熱も落ち着いた様で良かった。

 しばらくはのんびりしたいってさ。

 でも放送は盛り上がったけど結構疲れたよやっぱり。

 運転しながらでも、どうしても配信が気になるしね。

 意識していないつもりだったけど。


 配信はやってる本人としての面白さはあっても、何というか私生活を切り売りしているのは間違いなくてさ。

 トイッターとかでの告知とか、なんか支援絵って言うのかな。

 チェリーをイメージした絵を描いてくれる。

 そんなのを毎日送ってくれる熱心なリスナーが増えた。

 まあ絵描きさんがチェリーの絵を描いてくれた奴をリツイートしたりとかは、姉さんが全部やってくれているけれど。

 そういう宣伝になる事もディレクターとしての仕事! って姉さんはノリノリだったり。


 まあスマホに見られて困る物は何も無いからね。

 パスコードも全部0のままだし。

 指紋認証もかけてない。

 だからこまごまとした仕事はスマホごと姉さんにパスしてるんだ。

 

 だからオレはいまいちと言うか全然? リスナーからのレスポンスがどの程度かって実感はない。

 というか見たくないってのが本音かなあ?

 放送中の自分は100%作ってるからね。


 いや思わず素になる瞬間はあるけれど、それは自分を一人称で呼ぶ天然女と言うキャラからスタートしてる訳で、その中で慌てたりしても、結局はキャラの中でのブレでしかない気がするんだ。

 でも姉さんが確認している限り、あのキャンプ放送中も、匿名掲示板で色々拡散されたみたいでさ。

 その後にチャンネル登録者数が一気に2千人くらい増えたってさ。

 ネットってすごいなあ……前世では便利なツール程度にしか使ってなかったしびっくりだ。


 そのリスナーが常駐しているらしい匿名掲示板でチェリーの事を布教するから、放送主としてはペースはスローなのに、今もチャンネル登録者は増えているようだ。

 姉さん曰く、このままだとあと一か月もあれば2万人くらいまでは行くだろうってさ。


 ピンと来ないけど、それってやっぱ凄いとは思う。

 例えばプロのミュージシャンのライブに行くとする。

 地方都市の市民会館的な箱でやってさ。チケットはソールドアウト。

 会場は凄い人で埋め尽くされている。

 それでも1500人とかがいいとこだもの。


 ライブ中は爆音と人の振動で見た目以上に多く感じる。

 けどやっぱ1500人キャパとかなんだよ。

 アリーナやドームとかは別だけどさ、けどそこまで大きい箱ばかりを年に20本とか出来ないでしょ。


 まあそう考えると、たかが個人に数千人の人間がブックマークしているって凄い。

 キャンプ放送でも最高で4000人くらいの視聴者がいたとか。

 平均すると3000人くらいだったらしいけど、それでも凄いや。

 

 まあでもどんどん自分がさくらって女なのだと馴染んでいる感じはする。

 勿論それは性別が女性だという部分すべてが受け入れられるとは思えないけれど。

 ただ母と姉と言う家族がいて、今の自分の状態がこうなんだ、みたいなスタンダードは出来つつある。

 

 結局は姉さんの存在が大きいんだろうな。

 気が付くと甘えてるもの。

 寄りかかれる身内がいるって本当に心強いんだなって思う。

 前世のオレはそんな事を考えたことも無いのに。


 しかし怖いと言えば投銭システムだなあ。

 キャンプの日だけで50万以上行ったってさ。

 頭おかしいよな。平均的なサラリーマンの月収の倍近く。

 悩ましい話だよホント。

 

「よっし出来た。姉さんお茶とスプーンの準備よろしく」

「わーいっさくらちゃんのごはんっ!」


 と言いつつ料理は完成。

 元々自炊は得意だしね。

 今日のメニューはチャーハンとスープ。

 簡単だけど間違いないメニューだね。


 炒飯は白いシンプルなソーサーにお茶碗に詰めてクルっとひっくり返してドーム型にして盛りつけた。

 具はシャケ。ほんとは塩鮭をきちんと焼いたのがいいけれど、無いのでコンビニ産のフレーク。

 それでも馬鹿にしたものでもない。


 スープもコンビニに申し訳程度にある冷蔵食品売り場に売っていた水菜をいれた。

 顆粒の中華スープをベースにごま油と塩胡椒で味付け。隠し味に醤油を何滴か。

 後はとき卵をふわーっとね。


 姉さんは我慢できないとばかりに「頂きますっ!」と手を合わせると凄い勢いで食べ始めた。

 やっぱこの人結構食べるんだよね。痩せの大食いって奴かな?

 でも一緒にお風呂に入ったりして食後の姉さんのお腹を見たりもしたけど、別にぽっこりと膨らむでもなくて綺麗な物だ。

 じゃあどこに消えてるんだろう?

 逆にオレは胃が小さいのかあんまり食べられない。


 キャンプの時の餃子もオレは最終的に6個ほど食べて苦しくなり、残りは姉さんが全部食べた。

 あの後ね、同じく宇都宮で購入した”とちぎ和牛”のステーキもあったんだよ。

 奮発してさ。300グラムで6千円もしたの。

 結局オレ、かなり小さく切った奴を2切れ食べた所でギブアップ。餃子の段階でレッドゾーン行ってたし。

 それも姉さんがペロリ。


 「姉さん、おいしい?」


 無言の姉さんに問いかけると、両頬をパンパンに膨らませて凄い頷いてる。

 時折姉さんの愛らしさに大声を出したくなるな。

 それに作った料理を美味しいって言ってくれる相手がいるって、とても素敵な事だと改めて思う。


 前世のオレの趣味がキャンプだった理由は、他人から逃れたいってのが一番だった。

 キャンプサイトがある場所って言うのは、おおむね人里から結構な距離にある場所が多い。

 もちろん周囲に別の客もいるんだろうけれど、収容キャパの大きいメジャーなキャンプ場ならいざ知らず、オレが行くような地方のキャンプ場ってのは、そこにくる客も色々わかっているからな。


 一口にキャンプと言っても、その形態には大まかに2つに分けられると思う。

 ひとつは仲のいい友人とか、家族とかで行くグループキャンプ。

 逆に一人気ままに行くのがソロキャンプ。

 まあソロキャンの中でも自然信仰というか、出来るだけ野外の環境をそのまま利用したキャンプをするブッシュクラフトなる派生もあるけど。


 前者はまあ、皆でキャッキャと騒ぎたいのがメインだろう。

 だから場所もメジャーで便利な所を選びがちだ。

 集団だしトイレや炊事が楽な方が煩わしくないもんね。


 後者の場合は他人に依存をしない。

 例えば複数人で行ったとしても、それぞれがキャンプを設営し、焚火もそれぞれがおこす。

 料理も別で、ただ同じ空間にいるだけ。

 だから気が楽で、愛好家も多いんだろう。


 なら一緒に行く意味はあるのかと言えば、どうだろう?

 あると言えばあるし、ないと言えばない。

 要はそれぞれがキャンプをしたいから行くのだけど、ただそれだけなんだな。


 オレはこのパターンで言うと後者のほう。

 山とか自然の中での暗黙的なルールに則り、その中で自分なりに時間を過ごす。

 これはある種、人の少ない野外に引き篭もっているとも言える。

 外に出かけているから健全ではある。


 けど実際は、仕事なんかで煩わしさを感じている他人との会話を廃除したいのだ。

 別に凝った料理なんかもしない。

 クッカーで湯を沸かしてカップメンを啜ったりとか、レトルト食品をお湯で戻し、それを肴に酒を飲んだり。

 

 ランタンの灯りの下、買ったはいいけど忙しくて読んでいない新刊を開いたり。

 でも結局、読みきる事はできず、気が付けば眠っている。

 木々のざわめきとか、風の音とか。

 都会にはない雑音も多いのだけど、それが眠気を誘う子守歌になるんだな。


 つまりオレにとってのキャンプというのはそう言う物でしか無かった。

 慢性的に疲れを抱えた社会人の現実逃避の手段と言う意味で。


 料理にしてもそうだ。

 凝るのはそれに没頭できる時間はすごく無心になれるからだ。

 プロの料理人が作る様な手順でカレーを作ってみたりとか。

 仕事に縛られて生きていると、何もない時間なのに気が付くと色々考えてたりする。

 だから休んだ気がせず、それが慢性的な倦怠感をうむんだろうな。

 

 けどまあ料理を作った所で、結局それは一人で喰う訳で。

 半日かけて作ったのに、食べる時はもそもそと侘しく食うだけ。

 でも今は目の前で姉さんが美味しそうに食べている。

 反応を求めれば、義務的じゃない返事が返ってくる。

 これは地味に感動をした。


「さくらちゃん?」

「…………ん?」

「食べないの?」

「あっ、うん。……食べるよ」


 気が付くと思考に溺れているな。

 不思議そうな表情で姉さんが見ている。

 慌ててスプーンで炒飯を掬うと、姉さんがオレの手を掴んだ。


「さくらちゃん、焦らなくてもいいんだよ」


 姉さんは静かに微笑んで、そう言った。

 見透かされた気がして慌ててしまう。

 背中に変な汗が流れて来た。


「あ、焦ってはいないけれど、その……」


 何か言わなければ、そうは思う。

 けど何も出てこない。

 

 さくらとなって今日まで、目まぐるしい状況の変化があった。

 その中で少しずつ折り合いをつけ、自分の中ではこの状況をどうにか生きる決意はした。

 そこに母や姉さんが登場し、受け入れてくれた、そう思っていた。


 けど、罪悪感は消えていない。

 日々、何か楽しいと感じるたびに、その思いが蝕んでくる。

 さくらは死んでいるのに、オレが楽しんでいいのだろうか?

 ポジティブに生きようと思っているのに、ある一線から先に踏み出すのが怖い。


「さくらちゃんがどこか変わった事は理解しているよ。それはお母さんもそうだよ。でもね? さくらちゃんがどうであれ、私達はそんなさくらちゃんが大好きなんだ」

「姉さん……」

「昔はお姉ちゃんって呼んでくれてたでしょ? ふふっ、なんだかさくらちゃんが大人になったみたいで、私、寂しいなぁ……」


 気が付けば姉さんに抱きしめられていた。

 どうやらオレは震えていたらしい。

 

 そんなオレに、母親が子供にする様に背中を撫でてくれる姉さん。

 心音にシンクロするように、背中を小さな掌でノックされる。

 気が付けばオレの視界はにじみ、涙がボロボロと零れていた。

 声をあげて、それこそ子供みたいに嗚咽する。


 ねえさくら、人前で泣くって思ったよりも悪か無いんだね。

 君の家族を奪ったみたいで嫌だけれど。

 でも今は許してほしい。


 こうやって縋りついてると、とても安心できるんだ。

 その後のオレはどうしたのか、いまいち覚えていない。

 それ程に情緒不安定だったのだろう。


 ただ翌日、ベッドで姉さんの胸に顔を埋めて眠っていた。

 気持ちはまた少し整理出来た様な気がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る