来世の面影

滝沢明矩

来世の面影

 いや、こんなことを言うのも気が引けるが、彼は始めから彼女を殺す気でいた。その月夜、彼は彼女の寝室に忍び込んだ。そっと。

「こんなことになるんなら、生まれてくるんじゃなかった……」

 彼はいった。静かな夜だった。あまりにも、静かな夜だった。

 彼女は安らかに睡っていた。ソファにねむり、その睡りを享受していた。何も、知らずに。夢の中にいた。その夢は、彼と森の中を彷徨い歩き、お喋りを楽しんでいた。午後だった。

「明日は晴れるかな」、彼女は徐ろにいった。

「晴れるさ。空が笑ってるから」

「そう?」

 彼女はくすくす笑って、

「晴れるといいね」

 彼は微笑んだ。無邪気に微笑を浮べさえした。

「ねえ、明日になったらさ……」

「ん?」

「キスしよっか」

 彼女の頬に一と粒の涙が流れた。彼は始めて見たような気がした。

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来世の面影 滝沢明矩 @takizawaakinori

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