ブルちゃん
はい来ました!
宰相閣下のお屋敷です!
私は高そうな服や装飾品をいっぱい買ってもらった上、モニカ・メルディスという新しい名前まで貰ってご満悦だ。
なんでも、貴族の娘として、宰相閣下のところに行儀見習いとして入り込む為なんだとか。
……成人(16歳)を迎えてから行儀見習いって、どう考えても怪しいんじゃないですかね?
そう思っていたのだが、あっさりと入り込むことが出来た。
…………宰相閣下って、アフォなんだろうか?
まあ、それはいいとして、これから宰相閣下にお目通りだ。
近くに仕える為には、第一印象で気に入られなければならない。
アンドリュー様は「それは問題ないだろう」って自信満々だったけど、なんでだ?
アンドリュー様の自信の理由がわからない私は、内心かなり緊張しながら、メイドさんに案内されて宰相閣下の部屋にたどり着いた。
◇
「メルディス様をお連れ致しました」
「……入れ」
低い声が響き、扉が開けられる。
開かれた扉の内側は、意外なことに普通の部屋だった。
熊の剥製も、拷問器具も、邪神の祭壇も、人間の頭蓋骨も置いていない。
広さもアンドリュー様の部屋よりだいぶ小さい。
その部屋の中央に、ふたりの人物が立っていた。
あれ、ふたり?
どっちが宰相閣下だろうと一瞬迷ったが、直ぐに見当をつけることができた。
なんたって、見た目が違いすぎる。
一人はスラリとした長身のナイスシルバー。
ただ立っているだけで漂う気品と風格。
その貴族指数は、なんと驚きの95だ(外見のみで測定)。
なぜか目を見開いて、驚いたような顔で私のことを見ているが、なんでだろうか?
対するもうひとりは、比べるのが可哀想なほど哀れな外見だった。
身長は私と同じくらい(160センチ)。
お腹が出ていて、頬が垂れ下がっていて、頭頂部は光輝いている。
貴族指数は……23くらいか。雑魚だな。
……っていうか、息荒くない? すごくはぁはぁ言ってるし、だんだん頭や顔がテカってきてるんですけど……
不整脈か?
宰相閣下がスマートなのに、その使用人がデブでハゲで不整脈ってどうなの?
……あれ?
でもなんだかこのハゲデブ、どこかで見たことあるような気が……
…………はっ、わかった!
私が孤児院でこっそり飼ってた、ブルドックのブルちゃんに似てるんだ!
「ブルちゃん……」
懐かしさのあまり、私は思わずその名を呟いてしまった。
すると、私の声を聞いたブルちゃん……いや、ハゲのおっさんが、さらに目を見開いた。
やばい!
さすがに、初対面の相手をブルドック扱いはまずかった。
私はごまかすために、宰相閣下の方に向き直る。
そして、
バッ!
ババッ!
バッ!
優雅なカーテシー!
頭、肩から手首、腰、膝、つま先の角度も完璧!
「モニカ・メルディスと申します。
…………
…………
元の姿勢に戻る。
…………
…………
なんか、宰相閣下が固まってる。
ついでに、ハゲのおっさんも。
「あの…………」
私の声ではっと我に返った宰相閣下は、一度咳払いをすると無駄のない優雅な動作で手を上げ……
「旦那様は、こちらでございます」
「…………」
「…………」
「…………」
……しまった!
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