愛人の真実

 さらに三ヶ月が経過した。

 

 なんかダンディなおじさんが現れたので、誰だろう? と思ってじろじろ見てたら、メイド長に殴られた。

 

 アンドリュー様でした。

 

 ……もうすっかり顔を忘れてたよ。

 会うの半年ぶりだし。

 そもそも私、人の名前とか顔覚えるの苦手だし。


 メイド長に殴られた頭をさすりつつ、アンドリュー様の後ろに付いて部屋に向かう。


 基本能天気な私だが、さすがに緊張感が高まってきた。



 いよいよか、いよいよなのかっ!?

 


 ちっとも愛人らしからぬ六ヶ月間だった。


 来る日も来る日も、黒コートの男に妙な技術を仕込まれる日々。


 途中から、アンドリュー様が特殊な性癖の持ち主なんじゃないかと疑ったくらいだった。


 そう……気配もなく近寄ってきた愛人に、後ろからブッスリお尻を刺されたい、とか、そんな感じの。


 …………


 違うよね?


 違うことを祈ろう。


 一応念の為に、黒コートからもらったナイフを取り出しておく。

 

 自然と、私の視線はアンドリュー様の臀部でんぶを追いかけていた。




 ◇



  

 違った。


 アンドリュー様の部屋に呼ばれたのは、私がこの屋敷に連れてこられた理由を明かすためだそうだ。


 そして、その内容というのが……



「宰相閣下を、暗殺してもらいたいのだ」



 とのこと。


 ……………


 ん? 


 ……あんさつ?


 いま、あんさつって言った?


 ……あ、かんさつ・・・・? 観察ですか、アンドリュー様?


 宰相閣下を観察かぁ……


 昨日より2センチ大きくなりました、とか?

 青い綺麗な花が咲きました、とか?


 鉢に植わって頭に花を咲かせなが、らゆらゆらと風に揺れる宰相閣下を想像していると、アンドリュー様が「ごほん」と咳払いをした。



「突然のことで、驚く気持ちはよくわかる。だが、事態は深刻なのだ。この国の存亡は、君が宰相閣下をしいすることができるかどうかに掛かっていると言ってもいい」


 

 ……やっぱり暗殺でした。




 ◇


 

  

 それから私は、宰相閣下がどれだけ悪いやつなのか、宰相閣下を暗殺することがどれだけ正義の行いなのか、途中休憩を挟みつつ、八時間に渡って教え込まれた。


 だが、アンドリュー様が語った内容は長すぎて覚えきれなかったので、私は頭の中で箇条書きを作り出しておいた。


 こんな感じだ。

 

     

~~~宰相閣下の極悪非道列伝~~~~



1.宰相閣下は、特定の貴族、商人から賄賂を受け取り、それらを優遇することで、国を腐敗させている。


2.宰相閣下は、自分の領地に不当な重税を課し、その余剰分の税を自らの懐に入れている。


3.宰相閣下は、年端もいかない少年少女を自らの欲望の犠牲にしている。


4.宰相閣下は、夫があるご婦人に権力を笠に迫り、強引に関係を結んでいる。


5.宰相閣下は、夜になると凶暴化し、処女の生き血を啜る。


6.宰相閣下は、貧民をさらい、魔術の実験台として何人も殺害している。


7.宰相閣下は、6で研究した魔術を用い、国家転覆を目論んでいる。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 …………


 ……つまり、宰相閣下は汚職をしていて、ロリコンでショタコンで、熟女もいけるうえにネトリスキーで、吸血鬼で、人攫いかつマッドな魔術師で、テロリストなわけですね?


 なるほど。


 これが全て事実だとするならば、必要なのは暗殺者じゃなくて騎士団だと思うんだ。私は。

 

 さらっと入ってたけど、吸血鬼な時点で普通に討伐対象だよね?



「はいっ!」


「なんだね、モニカ君」



 勢いよく手を挙げる私を、アンドリュー様が指で指す。

 なかなかノリのいい貴族様だ。


 そんな貴族様に質問!



「なんで! 私なんでしょうか!?」



 そう、なんで私だ!?

 侯爵様ともなれば、私みたいなド素人をわざわざ鍛えなくても、伝手つてはいくらでもあったはずだ。

 

 現に、私に色々と教え込んだ黒コートの男は裏社会の人間だろ、あれ。


 だが、そんな私の疑問に対し、アンドリュー様は、



「君でなければ、だめなんだよ」


 

 と、にっこり微笑むだけだった。


 ……答えになってないっす。

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