半分半分
はねうさぎ
黒と光り
「お姉ちゃん、どうしたの?
お目々痛い痛い?」
すれ違っただけの小さな子がそう言う。
私はその子の頭をそっと撫で、ふッと笑う。
「ありがとう、君は優しいね。
大丈夫だよもう慣れたから。」
すると女性がその子に駆け寄る。
「ごめんなさいね、
さ、○○お姉さんのお邪魔しちゃダメでしょ。
こっちに来なさい。」
言葉ではそう言いながらも、
まるで汚いものを見る様に私の顔をちらと見る。
「いえ。」
私も慣れ切った返事を返すだけ。
私の事を気にしながらも、
母親にまるで引きずられるように連れて行かれる優しい子。
出来るなら、その優しいまま大人になってほしいけれど……。
宿に戻り、うっとおしい眼帯を外す。
鏡に映るのは怪しく光る真っ赤な目。
「人間の目だけじゃ不自由だな。」
人間の目は真実を移さないから。
一つでは遠近感もつかめないし、眩しくてかなわない。
私は入り口に置いた傘立てに、杖を無造作に放り込んだ。
窓の無い狭い安宿。
私にはここが相応しい。
私の半分は光など必要無いから。
それでも私が日の光の中を出歩くのは、
やはり私の中のもう半分の血が騒ぐからだろう。
「ねぇロバーナ、あなたは今何をしている?」
何も無い暗い空間に向かい、私はそう問いかける。
彼女もまた半分を持ち、半分を持たない者。
自分は呪われていると言っていた。
それは黒い血の事を言ったのか、赤い血を言ったのかは分からないけど。
「まったく人間って厄介よね。
こんなに暑くて眩しくて、なぜこんな所に好き好んで出かけるんだろう。」
本当はこんな所に来たくは無い。
でも私の中の半分が、私にもその必要が有ると言う。
遠くから子供が数人、こちらに向かって走って来る。
あぁ厄介だ。
心を持ったあいつらは、人の事などに気を掛けない。
自分の欲望だけで生きている奴らだ。
私はそれをやり過ごすべく、道の脇に移動した。
だが、子供は予想を違わず、じゃれ合い、いきなり方向を変える。
そして私に向かって突っ込んで来た。
思わず転んだ私に、また数人の子が追い打ちをかける。
倒れた私に足を引っかけ、倒れ、泣き出す子。
私に向かって倒れ込む子。
勘弁して………。
するとその中の一人がじっと私の顔を見つめる。
気持ちが”すごい、綺麗…。”と言っている。
周りに集まった人が、泣いている子供あやし、
子供のケガの具合を見ている。
一番ダメージを受けたのは私なのに、気にもかけない。
「お姉さん、すごく綺麗ね。
赤くて、お日様の光できらきら光っているよ。」
それを聞いて、私は外れた眼帯を慌てて探す。
それは一人の女の踵の下に踏まれていた。
私は慌てて拾おうとして、思わずそれを引っ張ったけれど、
びくともしないどころか、音を立てて破れた。
そこで初めて私の存在に気が付いたふりをして、
大人達が私を見る。
そして驚愕し恐怖した。
「ゴーラン………。」
忌み嫌われる名、諦めた私の名前。
私は慌てて、赤い目を左手で隠す。
嫌い、嫌い、嫌い、
あっちへ行って。
一人の男が馬用の鞭を振り上げ、私を打とうとする。
あなたは自分を英雄ぶり、正義の為と、
何も手も出していない私を痛めつけようとする。
いいでしょう。
あなたの正義感を十分発揮すればいい。
私は男を魔犬の群れの中心に置いてあげた。
「どうして隠しちゃうの?
とても綺麗なのに。
お姉さんの目、僕見た事有るよ。
あそこのお店に有った。
赤くてキラキラしている石。
でもお姉さんの方が大きくて、ずっとキラキラしている。
まるで冬に出るお星さまみたいだね。」
そう言って、笑う。
無垢の微笑み、何の概念にも囚われない天使の微笑み。
人はあなたを馬鹿だと言うかもしれない。
でもあなたは、どの人よりも天使に近い。
でもだめ!そんな顔を私に向けないで。
それは私達にとって猛毒。
そう思いながらも私は安堵した。
私は開放される。
そして私は、空気の中に光となって消えて行った。
半分半分 はねうさぎ @hane-usagi
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