#7忍びの遺した暗号事件

「コーくん。殺人事件かしら」


 殺害現場にひょっこり現れた母さんに僕は目を見開く。


「何でここに、ああそうか家が近いから――って勝手に入った駄目だろ!」


「あら。署長さんから許可もらってるの忘れたの?」


 署長の名を出されたらもう何も言えなかった。


 殺された衣蛾イガさんは苦悶の表情で事切れている。


「毒殺ね」


「そう。ほとんど即死に近い状態だったみたい」


 被害者は顔を横に向け、両腕で喉を抑えてうつ伏せに倒れていた。


「コーくん。被害者の方の手をよく見たいのだけど」


 鑑識の人に手伝ってもらって仰向けにすると、被害者は両手の指を互いに組んで内側に入れているのが分かった。


「喉を抑えようとしてる。かなり苦しかったんだろうな」


 母さんは僕の言葉に全く反応せず、被害者の両手を見つめていた。


「容疑者は分かっているの?」


「怪しい人物が三人。被害者含め忍者同好会の人間なんだけど……」


 歯切れの悪さに母さんがこっちを見て視線で『続けて』と促してくる。


「どうやら衣蛾さん。忍者みたいに人の秘密を調べる悪癖があったみたいで、三人とも強請られていたみたいなんだ」


「まあ。じゃあ三人とも犯行の動機があるのね」


「うん。ただ三人とも犯行は否定してるよ」


 母さんは飴を舐めると、もう一度被害者の両手を見る。


「その三人のお名前は」


「えっと、植杉(ウエスギ)さん。陣内(ジンナイ)さん。それと得川(トクガワ)さん」


 名前を聞き終えた母さんがパンと両手を叩いた。


「お母さん謎が解けたわ!」


「えっ、もう犯人わかったの?」


「犯人は陣内さんよ」



 問、何故犯人が陣内さんだと分かったのでしょう?



 答

 え

 は

 こ

 の

 下

 に

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓



 答、被害者は両手で九字法のひとつ『陣』を意味する内縛印を結んでいたの。

 つまり犯人が陣内さんが犯人だと遺したのよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る