#6署長からの挑戦状事件

「警察署に入る許可が欲しい?」


 長年警察官を勤め凶悪事件と対峙してきた署長が面食らった顔をした。


「はい。コーくんや皆さんのお手伝いをしたいんです。おじ様も私の実力は知っているでしょう?」


 お母さんの父親と署長は若い頃からの親友で、もちろん小さい頃のお母さんの事も知っていた。


「それは分かっているさ。君が学生の時何度か事件の解決を手伝ってもらった事もあるしね」


「じゃあ」


「早合点しないでくれ。有難い申し出だが私は反対だ。警察は恨みを買う職業だ。君が犯罪に巻き込まれたらあいつに何と言って詫びればいいのか」


「おじ様。私は簡単に諦めませんよ」


「……じゃあ私が考えた謎が解けたら許可するというのはどうかな?」


「謎解き……望みところです」


 署長は左腕につけた金の腕時計を見て、次の仕事まで余裕がある事を確認した。


「ルールは簡単。君に外に出てもらっている間に私は室内のある物を動かす。それが一分で分かったら君の勝ち。署内に自由に入る許可をあげるよ」


「分かりました」


 お母さんは退室する前に室内を見渡す。


 今自分が座っているのは部屋中央にあるソファー。その奥には署長の机と座り心地の良さそうな本革張りの椅子。


 右側には数々の功績を称える表彰状。左側には大きな振り子時計がある。


 部屋の配置を覚えたお母さんは外に出て扉を閉めた。


「入ってきていいよ」


 きっかり十秒後、扉越しに署長の声が聞こえたので中に入る。


「じゃあ制限時間は一分だ。スタート」


 お母さんはミルクキャンディを舐めて集中し、部屋を右から左に見渡す。


 壁に掛かった表彰状、中央のソファー、奥の机と革張りの椅子に振り子時計。


 そして最後に右腕につけた金の腕時計で残り時間を計る署長の方に視線を向けた。


「一分経った。何が動いたか分かったかい?」


 署長の顔は絶対謎が解けないだろうと自信に満ち溢れているが、お母さんは動じずに胸の前で両手を叩く。


「はいおじ様。謎が解けましたよ!答えは……」


 回答を聞いた署長が、お母さんに許可を出したのは言うまでもない。



 問、署長は何を動かしたのでしょう?



 答

 え

 は

 こ

 の

 下

 に

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓

 ↓



 答、おじ様が動かしたのは腕時計よ。

最初確認した時は左腕にしていたのに、二度目に確認した時は右腕になっていたの。

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