瑠璃に白蝶
猫と暮らしたい
序章
熟れた果実のように濡れそぼった、はしたない陰部。まるでべつの生きものみたいに成長したその陰唇をくぐり、細くしなやかな指が侵入した。漏れた喘ぎ声は艶やかで少女性を帯び、梅雨時期の空気みたいに室内を満たしていく。それは悦びを得たことを示しており、よゆうがある証拠でもあった。
快楽に流されてしまえば、愛らしい声など出ない。壊れた獣みたいに求め狂うようになる。幼く整った顔立ちに似合わず、より奥にある快感だけに手を伸ばすようになる。
艶やかで甘い女性の声が、優孤(ゆうこ)を呼んだ。
「脚、閉じないで」
銀のロングヘアを乱れさせる少女は、瞳を潤ませながら首肯した。どんな状況であっても主の指示は絶対であり、閉じようとしていた脚を開いていく。
「いい子ね。好きよ」
肉厚の唇が優孤の唇を奪った。グラマラスな裸体が強張る痩身に重なり、大きな手のひらが控えめな乳房を揉む。乱れなく傷のひとつもない肌が形を変えていく。
薄桃色を灯すの唇のあいだから、震えた声が発せられた。
「紫(ゆかり)さま……」
「もっとほしいのかしら?」
かぶりを振る優孤に、紫の美貌が迫った。左目のそばにある泣きボクロが、愉悦に染まった笑みを妖しく演出している。
「ほしくないの? 本当にいらないの?」
意地の悪い問いかけをしつつ、紫は優孤の頭へと手を這わせた。狐のようにぴんと立つ三角の耳をなで回していく。
その耳はささやくような刺激にぴくぴくと反応し、腰から生える尻尾は総毛立って快感の程を示す。くねる身体はうっすらと汗ばみ、少し大きめのお尻がシーツにしわを作る。
「身体のほうは、ほしがっているみたいね」
ふたりの身長差が、紫による蹂躙に拍車をかける。
繰り返されるキスが優孤の口内を煙草のにおいで満たし、丁寧な愛撫で乳首は硬くなり、瞳から零れた涙がこめかみに向かって一本の線を描く。
紫は機嫌をよくし、二本目の指を膣へと入れこんだ。なかをかき回しながら、蜜をまとわせた親指で陰核に触れる。
こうなってしまうと、どちらもとまらない。はしたなくなっていく優孤に紫が興奮し、興奮した紫がさらに優孤をはしたなくさせる。一度ついた炎は、燃え盛ることをやめられない。
されるがままに、優孤は二度達した。腰を浮かせ、身体を波打たせた。だらしなく口を開けたまま、乱れた息を吐く人形と化した。
長い黒髪をかきあげ、紫は覗き見た。
「ひとりだけ満足しないで」
何度目かわからないキスが交わされた。
唇を離すと、紫は命令した。
「優孤」
名を呼ばれただけで、優孤はベッドからおりた。すべてを察した従者は、忠犬のようにおすわりのポーズを取った。
紫はベッドの端に腰かけ、脚を広げた。濡れた陰部が露わになる。ヘアはしっかり手入れされ、Iの字に近い形で整っていた。
優孤は、口のなかいっぱいにだ液を溜めた。陰裂を眺めるだけで、だ液腺の働きが活発になった。
ふだんは見られない欲しがりな口。主人である紫の一番いやらしい場所。優孤が考えうる、この世でもっとも美しく醜いもの。
早く舐めたくて、優孤は行儀悪く舌をだした。ひだのそばにあるホクロにそそられつつ、顔を近づけていく。
「まだだめよ、優孤」
忠犬が飼い主を見あげた。
「ふふっ。冗談よ、そんな目で見ないで。ほら、きなさい」
許しを得た瞬間、優孤はむしゃぶりついた。紫の身体が、びくんと震えた。
「こら、いきなりは……」
怒られても気にせず、優孤は陰部に舌を這わせる。陰核は音を立てて吸い、分泌される体液は喉を鳴らして飲みこむ。
紫の控えめな喘ぎ声が室内を満たす。他人のことは限界まで乱れ狂わせたのだが、守り気味にしか喘ごうとしない。しかし、紫が優孤の気持ちいいところを知っているように、優孤もまた紫の気持ちいいところを知っている。お人形とて、やるときはやるのだ。
「紫さま。脚を閉じないでください」
「いま喋らないで」
悶える飼い主の姿に、毛量たっぷりの尾は左右に揺れた。
優孤は陰核を中心に攻めた。舌を尖らせ、ときには弄ぶように、くちゅくちゅと音を立ててた。紫は、なかよりもこっちが好きなのだ。いつもは艶やかな印象があるのに、こんな小さな突起をいじくるだけで弛緩していく。蕩けた顔も、苦しそうな声も、汗ばんでしっとりした肌も、優孤にはご褒美でしかなかった。
やがて紫が果て、肢体が痙攣した。ふとももを閉める力がきゅうっと強くなり、優孤は陰部のにおいに溺れそうだった。
緊張が解けると、優孤は這うように抱きついた。
「紫さま、お綺麗です。きょうは、いつにも増して美しいです」
「優孤もかわいいわよ」
「もったいないお言葉です」
髪をなでられた優孤は目を細めた。
「本当にかわいい」
「紫さまには敵いません……んっ」
ふたりの唇が重なり合った。終わりの合図ではなく、続行の印。甘い時間は延長され、喘いでは果て喘いでは果てをくり返した。シーツはぐちゃぐちゃになり、蜜やよだれが染みついて、むせ返るようなにおいが充満した。
互いに動けなくなったころには、明けがたになっていた。いつものことだった。互いに求めすぎて、途中でやめられなくなってしまうからだ。
すべてが終わると、静かに眠りについた。体温を感じ合い、肌の感触をたしかめるように抱き合いながら心地よい世界に旅立った。
嵐のような激しさのあとに訪れるこの時間が、優孤はたまらなく好きだった。水面に浮かんで柔らな陽射しを浴びているような、穏やかな温もりだけをもらっていられるから。
けれども、目を覚ましたときにはひとりだった。まるで、祭のあとに佇むように。
ご主人さまは、太陽と入れ替わるように姿を消した。
――二〇一〇年 十二月十八日。
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