第89話 根回し

 王城に入ったマサキは、メアリーを探した。難しい交渉事のストレスを発散したかったのだ。

 探すのも面倒になってきた頃、クレイブとクリス、それにトマスとビーンにばったり会った。

「お?4人揃ってどうした。」


「おお、先生久しぶり~。今は、訓練終わって休憩に行くところです。」

と、クレイブが笑いながら言った。


「その様子だと、大してキツくないみたいだな。」


 クリスとトマスが2人して、手を振って言う。

「いや、先生のお陰ですよ。魔法の本質を体が理解しているから、すんなり出来ているだけです。先生の講義がなかったら、とても付いて行ける内容じゃないです。」


「ほほぅ、魔法師団も頑張ってんのかな?」


「先生にしごかれてから、訓練内容を変えたって言ってましたからね。」


「そっか。まあ、お前達なら余裕だろう。あ、そうだ、クリス。」


「はい?」


「伯爵にさ、俺が会いたいって言ってたと伝えてくれ。」


「了解です。」


「じゃ、頑張れよ~。」

と、手を振って別れた。


 あの4人は頑張ってくれるだろう。元々優秀なんだし、努力家達なのだ。Sクラスにいたのも伊達ではないのである。




 しかし、メアリーが見当たらん。仕方がないので諦めて、王の執務室へと向かった。執務室に入ると、雰囲気は割と明るく、色々交易も順調なんだろう。


「親父どもよ、ハッスルしてるか~?」


 コンスタンが顔を上げて笑った。

「相変わらずだけど、元気そうだね。」


「まあ、それしか取り柄がないからな。そう言えば、うちのメアリーを知らないか?」


「騎士団本部にいる筈だけど?」


「あ、そう……。」


「居なかったのかい?」


「うん、城中見て回ったけどね。いいや、後で団長に聞いてみる。」


「用件はそれだけかい?」


「いや、幾つか話がある。」


 サラビスとコンスタンは顔を見合わせると、ソファに移動して来た。サラビスはまた面倒事ではないだろうなぁと言う顔だった。

「聞こうか。」


「まず、王都の大門の外に駅を造りたい。そして線路を敷設したい。」

 と、マサキは鉄道開通の目途が立ったと紙に書いて説明した。で、鉄道とは何ぞやと言う話を始め、こんな風な路線を造ろうと思っていると計画を話した。

 そして、王国内の各領都の外に駅を設置したいから許可をくれと言う話をした。

「で、それに伴って、そろそろスコットを返して欲しいなぁと思ってね。いい加減俺が死ぬ。」


 コンスタンは残念そうだが、仕方がないと言った。

「戦力的には辛いところだけど、仕方ないね。これが、出来たって事は、商業ギルドと戦うんだよね?」


「うん、そろそろ周りをチョロチョロウザったくなってきたからね。」


「勝算はあるの?」


「うん、負ける理由が見当たらない。ただ、ちょっと相談があるんだ。」


 サラビスが鷹揚に頷いた。

「なんだ?」


「これから各国と交渉しなきゃならんのだけど、王国の法で、知的財産権を認めて欲しい。それは王国の利益にもなる筈なんだ。」


「知的財産権を認めて、それを犯す事は許されない、と言う法律を作れば良いんだな?」


「そうそう。そこまで決めておいてくれれば、知的財産管理協会と言う組織を作ろうと思っているんだ。特許権を設定して、使用許可を出す機関だね。」


「と言う事は、国としては、知的財産の管理を協会に委託すると言う認識で良いか?」


「そうそう、要はね、知的財産を適法に管理していても、勝手に使われたら困る訳よ。発明者の利益が損なわれるからね。だから、管理はこっちでするから、違反者は、取り締まってねと言う話。」


「なるほどな。商業ギルドが勝手に使えない様にする訳だ。」


「そればっかじゃないけどね。嘗てのチュゴセンの様に、他国で開発した物を我が国で開発したとか言わせない為でもあるんだ。みんな、自国の利益は守ってあげなきゃね。」


「確かにな。自国民の利益を守るのも国の仕事だな。」


「うん、親父。ただ、1つ大きな問題もあるんだ。」


「何なのだ?」


「良い?鉄道が開通したら、超高速大量輸送時代の幕が上がる。そして最新技術をロイヤリティさえ払えば、誰でも享受出来る様になる。という事は、国民の収入が爆発的に増える。そして、税収が跳ね上がるんだ。だから、まず税制の見直しが必要になると同時に、通貨の不足が起こると見ているんだ。」


「なんだと?」


「だって、考えてみてくれよ。ここからセベインだって、15日掛かって納品されていた物資が、5時間で届くんだぜ?それも馬車1台分だったのが、10台分位は平気で届く。流通する通貨が150倍になるんだ。」


「マジかぁ!そんなにすぐ対処は出来ないぞ……。」


「そんなに直ぐには、営業運転はさせないから心配は要らない。ただ、金銀銅貨の貨幣制度を紙幣に替える必要が出て来るんだ。製紙技術と印刷技術は提供しよう。そして、偽紙幣の防止の対策も考えてある。」


「開発出来ていたのか!」


「いや、今やっている所だけどな。俺の頭の中にある物を、ドワーフ達に具現化する手伝いをしてもらっているんだ。」


「目途は立っているんだな?」


「うん、問題ないと思う。」


「それを各国に依頼しに行くのだな?」


「そうだね。各国の合意が取り付けられないと、権利が保護出来ないからね。」


「分かった。法案を作っておく。各国の合意が得られたところで施行しよう。」


「うん。お願い。じゃ、メアリーを探して、帰って開発の続きに取り組むよ。」


 そう言うと、マサキは執務室を後にした。




 マサキは、騎士団に顔を出し、団長にメアリーの所在を聞いた。すると、学校へ行ったと言うのだ。

 理由がさっぱり分からなかったが、マサキも学校へ向かう事にした。


 校門を入って行くと、丁度メアリーが帰るところだった。

「メアリー。何してんだ?」


「あ、旦那様。えっと、そろそろ教員が必要かと思いまして、リネット先生を勧誘に来ていたのです。」


「リネットって、あのミニスカ教師?」


「はい。彼女は若いですし、旦那様好みだろうと。」


「まあ、嫌いではないが、教員も探そうとは思っていたけど、なんでメアリーが?」


「私も、旦那様のお手伝いがしたかったので。」


「そうか。城に居ないから心配したぞ。まあ、帰ろう。」


「はい。」




 メアリーを伴って、【ゲート】を開き、プロミスの城へと戻るのであった。メアリーの話だと、リネット教諭は来てくれそうだと言う事だった。

 あのミニスカは1度捲ってみたいとは思っていたが、姫達の視線が怖くて、出来なかったんだよねぇ。


 他にも、メアリーに聞いた話として、エルスの城の厨房に有望な若いシェフはいないか聞いてみたが、1人心当たりがあるから聞いてみるとの事だった。


 この日は、みんなに交渉して来た内容と、少し展開を急ぐ必要がある事などを話しておいた。

 エルラーナとセリアには、この辺は魔物が少ないから、迷宮を作ってもらうかも知れない事を伝えておいた。

 特に、紙と活版印刷機は急いで欲しい旨を伝え、王国は承認が取れたから、王都以外の領都にエクルラートの様な駅を設置したいから、設計に入ってもらうようにケネスとマルカムに頼んで措いた。

 王都は工事に入るのが早いと、商業ギルドに嗅ぎ付けられるのが、面倒だったのだ。折角、ミリアが上手く誤魔化してくれたのだから。態々、教えてやる必要はどこにもないのである。


 明日からは、各国回らないとね。ついでに商業ギルドには気を付けてもらわないといけないし。

 協会や商工ギルド(仮)は、人が居なければ、姫達を総動員してでもやれば良いし、立法化してもらわないといけないな。


 しかし、商業ギルドも良い面の皮だよな。

 命令書を見ると、技術の保全を図りたいから、設計や技術の詳細を提出しろ、技術を盗まれない為の措置だから、タチバナ商会に命令するんだってさ。

 俺達が何も知らないと思っているのだろうなぁ。技術を盗んでいるのは、お前達だろうと声を大にして言いたい。


 彼らの手口はこうだ。

 新しい物を作った職人や研究者に、技術の保全を図ろうと持ち掛け、詳細を提出させる。そして、これは秘匿すべき技術だからと言って、公表しないで自分の工房だけで製作する様に指示を出す。

 で、世の中に出回る前に、その技術を使って商品を子飼の職人達に作らせて、王族貴族の、大口が見込まれる所に先に売り込みを掛ける。

 結果、ギルドに巣食う爺どもは大儲け。開発者は、そんな事は露とも知らず、大口の注文なんか入る訳もなく、意外と売れなかったと諦めるのである。

 当たり前なのだ。欲しい人には行き渡っているし、ギルドの爺が高額で販売してしまう為、高額商品だと思われて注文が入らないのだ。


 これでは、折角良い物が出来ても、普及する訳がない。そして、各地商業ギルドのギルド長は全員知っているのだが、総ギルド長から還元される利益を懐に入れているのである。

 したがって、窓口にいる人間や、事務員達は何も知らないのである。


 これを公表する前に、受け皿になる組織を作ろうとしている理由は、ここにもあったのだ。

 公表した結果として、商業ギルドやギルド長達がどうなろうと、俺の知った事ではないのである。希望するギルド員を受け入れる組織は作ってしまうので、あとは、本人が決めれば良いのだ。




 次の日は、スコットに出来るだけ早く、引継ぎを終わらせるように頼んで、各国王に会いに行く事にした。

 帝国からお邪魔したのだが、エルスロームでした話とほぼ同じ話をして、理解を得られた。駅の設置も是非頼むという事で、すんなり話は纏まった。

 ラーメリア、カステール、パルミナでも同じ話をしたのだが、概ね賛同してもらえた。勿論、駅の設置も問題なく。

 各国を回って思ったのだが、各国王は一様に商業ギルドのやり方には、おかしいと感じていた様だ。

 ただ、表立って抗議をすると、国内への物資の流入を止められてしまったり、国内の行商人が、国外で商売する時に、邪魔をされてしまう等の弊害があった様だ。それ故、王家としても目に余る行為がない限り、目を瞑っていたのだと。

 だから、今回も勝算が無ければ乗れないよ。と釘は刺されたのだが、そこは心配いらないと言っておいた。

 そもそも、もっと高度な金融システムの中で、ずっと営業の畑を歩いてきたのだ。刀を抜いた戦いより、こちらの闘いの方が得意分野と言っても良いのだ。

 商業ギルドは、物流と金で世界を支配している様な気になっていたのだろうな。


 商業ギルドは理解していない、誰に命令をしているのか。自分達が命令など出来る立場ではない事を。俺はもう、嫁取りで世界を征服しているのだ。各国王家は、全員身内なのだから。

 そして、冒険者ギルドの実質的トップでもあるのだ。世界を相手に命令している様な物なのだ。

 欲に目が眩むと、時勢が見えなくなるのかもしれないな。まあ、そんな事は、俺の知った事ではないのだが。


 しかし、事情を公表してしまえば、彼らの命は風前の灯になるだろう。俺が手を下さなくとも、今まで騙されてきた職人や研究者は、黙っていないと思うのだ。

 こんな世の中なので、協会に再登録してくれれば良いのだけど、恐らく腹の虫が治まらない者も出て来てしまうだろう。

 そこは、各国騎士団に警戒してもらうしかないだろうと思う。自分が助けようとは思わない。起死回生を期して提出した技術もあったと思うのだ。そして、それが潰えた時、絶望した人間は少なくないだろう。

 そういう事があるから、クロードはサイモンを隠しているのだ。


 根回しも終わったので、そろそろ商業ギルドに、引導を渡しに行こうと思う。考えてみれば、列車など直ぐに通せるのだ。急ぐ必要はない。

 それより、組織を作っておかなければ、商売が停滞してしまう。

 それに、紙幣が完成してからでないと、一気に貨幣不足が起こってしまう。それまでに、組織を稼働させる必要があるのだ。

 だから、商業ギルドから、ごっそり人材を頂く事にしたのだ。綺麗なお姉様が多いので。




 最初におかしいと思ったのは、最初のミニスカメイド服が出来上がってきた頃だ。同じ様なデザインの偽物を見かけたのだ。

 この世界のメイド服は、足首まである様な、スカートになっているので、ミニスカートと言う発想はなかなか出て来ないはずなのだ。

 ところが、帝国で見かけたのだ、ミニスカートタイプのメイド服を。それも同じ様なデザインで。うちに納品されて間もない頃だったので、首を捻ったのだが、デザイン保護の為に、商業ギルドにデザイン画を提出していた事を思い出した。

 だが、それをギルドに追及すると、【ゲート】の魔法が公になってしまう為黙っていたのだが、暫くしてやっぱりおかしいと思って、くノ一達に調べさせたのだ。

 うちのくノ一達は、優秀なのだ。ただエロいだけではないのである。


 王都エルスの街を歩きながら、そんな事を振り返っていたが、商業ギルドに到着したので、1番美人な受付嬢の窓口へ行き、命令書を見せて、これの件で来たからギルド長を呼んでくれと言った。

 できれば、君達にも聞かせてあげたい話だから、ギルド長の部屋ではなく、そこの応接セットで話をしたいと告げた。

 受付嬢は、頭の回転が速い様で、委細承知いたしました。と、ギルド長を呼びに行った。


 さて、総ギルド長は出て来ないだろうな。商業ギルドという権威に商売人は弱いと思っている節がある。

 だからこそ、戦い易いのではあるが。

 きっと彼らは、俺が技術の詳細を持って来ていると思っている筈なのだ。自分達に喧嘩を売る者などいないと、高を括って。


 残念な奴らである。






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