第87話 魔導車両完成

 車台、所謂フレームだが、駆動車両は、車輪を6個付けようと思う。全部駆動させる感じで。レールの上に、車輪を乗せて、フレームを乗せる感じになるのだけど、タービンユニットとその前方に配置するギヤボックスの所為で、SLを短くしたような恰好になりそうだ。空気抵抗を考えるのなら、新幹線の様に先端を細くするべきなのかな。


 色を黒にしなければ、近代的列車に見えなくもないか。アルシノが作ってくれたレールも質が良い。ドワーフなしでは、とてもこの短期間では出来なかったな。

 そう言えば、運転席をどこにするか考えてなかったな。1番前でも良いか。視界は開けている方が良いよな。

 あ。だけど、事故があった時に死にやすいかな?先端を細くして、その手前を運転席にすると、まんま新幹線になってしまう。


 そんな訳で、タービンの後ろ側に2階席みたいな運転席を作る事にした。操作する物が色々ありそうだしね。

 まあ、まずはフレームを作って、ミスリルを通して回路を組まないとね。タービンで走らせるなら、普通に発電出来そうだな。車内の灯りなんかは、賄えそうだけどね。それは、今後の課題としよう。実験には必要ないからね。


 灯りとは言っても、フィラメントとガラス管がないと電球出来ないし、白熱球を付けるくらいなら、魔道具のライトを付けた方が、明るいだろう。

 うん、課題にしておくのが良さそうだな。


 食堂車とか寝台車とか欲しいかなぁ。いやいや、まずは駆動車両の実験が先だな。頭ばかりが逸ってしまい、思考に収拾がつかなくなっているみたいだ。実験線もまだ出来ていないと言うのに、何を焦っているのだろう。


 フレームも大事だけど、ケネスとマルカムにやらせている橋桁に橋を架けて枕木を置いて、レールを引かなきゃいけない。そっちが先だな。1Kmや2Kmじゃ、実験にならないからね。無計画に始めてしまったツケが、ここにきて出てしまっている様だ。


 1435mmのレール幅のゲージを作って、レールに当てながら、平行を出して行く。そんな作業を繰り返して、街の外に約10Kmの実験線が出来た。

 だが、これでは行ったら最後、帰って来れないじゃないか。実験線だし、持ち上げて反転しても良いのか?


 あ、止まらなかったら落ちちゃうじゃないか。全線高架するつもりなんだよね。事故がありあそうだし、道路を分断するしね。レール敷設だけで、結構な大仕事になりそうだよなぁ。まあ、それでも1年は掛からないだろう、実験線だけならば。

 そう言えば、この世界に来て、1年は過ぎちゃったんだな。忘れてたわ、て事は俺は20歳か。特に感慨はないな。


 ま、最初に考えた様に、隣町予定地まで、実験線を走らせて大回りして帰る様にしようかな。単線ではないからね。片道100Kmあれば、試験走行には使えるだろう。それが出来たら、じっくり実験しながら開発して行くのがいいかな。

 建国は、それが出来てからで良いしね。別に国が作りたい訳じゃなくて、みんなで楽しく暮らせれば、それで良いのだ。


 要するに、他国や商業ギルドに干渉されたくないだけだから、誰かが壁を越えて来る事が無い限りは問題ないだろう。それが、ちょっと心配なんだけどね。

 他国はないと思うが、商業ギルドは怪しいかな。街の入口を全て封鎖しておけばいいかな。高架していれば、実験線は見えないし。


 商業ギルドも上層部以外は、人材として欲しいんだよなぁ、特に受付嬢。接客も心得ていて、計算が早い。

 即戦力は欲しいからな、あんまり大っぴらに喧嘩はしたくないんだよな。




 後は、黙々と実験線を隣町予定地まで伸ばしていった。実に3週間も掛かってしまった。もっとも、その間に、駆動車両試作1号は出来上がっていたんだけど。

 そして、線路の上に乗せて思った。

 俺は、何故模型で試してみようと思わなかったのか。いきなり走って、止まらなかったらどうしましょう状態な訳よ。怖いなぁ。

 ジオラマ作って、模型でやってみるべきだったね。


 そんな事を考えながら、車両に乗り込んだ。

 操作は基本レバーだけだ。前に倒すと前進、後ろへ引くとブレーキ、あとは非常停止用のレバーを1つ別につけてある。

 運転席に座って、周りを見て進行方向に人がいないのを確認したら、恐る恐るレバーをゆっくりと、前方へ倒した。


 【爆風ウィンドブラスター】の破裂音が1発聞こえて、タービンが回転する音が、キーンと聞こえる。

 ゆっくりと前進を始めた車両を、みんなが固唾をのんで見守っている。そして、段々と加速して行くが、先ずは時速50Km位で定速運行してみる事にした。


 お、順調じゃん!と思ったその時、ピシッドンッと言う音がしたと思ったら、超高速回転したままタービンが飛んでいってしまった。目で追っていたが、どうやら地面に突き刺さっている様だ。

 前方に目をやると、タービンの入っていたハウジングケースが見事に破れていた。

 惰性で前進しながら思う。こうなったらブレーキ効かねーじゃねーかと。


 停止するのを待つ間に考える。これ、持って戻るのか?と。


 面倒だと思って、惰性で進む車両の前方に試しに【ゲート】を開いてみた。スタート地点に戻れた様だ。しかも脱線せずに。

 これは、世界中に線路を繋げる必要がないかも?駅の前後10Km位に線路を敷いて、地下鉄の様に、地下へ潜らせるトンネルを作って、その中で【ゲート】で移動させる。これなら、大森林を開発しなくてもエクルラートに繋げられる。

 それに、スピードもそんなに要らないな、けん引するトルク重視で良い。


 そんな思考に落ちていたのだが、車両の惨状を見て、みんなが落胆していた。

 カズキが、苛ついた顔で声を掛けて来た。

「マサキ、どうなってんだよ?なんで、こんなにボロボロになったんだ?」

「うーん、突然ピシッドンッて音がしたと思ったら、タービンが躍る様に飛んで行った。原因は、今悩み中。」


 さて、原因はなんだ?ハウジングケースが破れて、タービンが外れたんだろうけど、強度不足なのかなぁ……。いや、50Km程度しか出してないし、1発しかブラスター使ってないし、有り得ないな。

 カズキが、思い出した様に言った。

「マサキ、熱対策したか?」

「あ……。それだ。」

カズキは、額を押えてしゃがみ込んだ。


 熱膨張が原因だった。

「熱膨張か、そんな事にも頭が回らないアホだったんだな、俺。」

「お前は、1人で色々考えすぎなんだよ!これだけ沢山の仲間がいるだろうが。」

「ああ、そうだった。すまんな。」


 それから、カズキやドワーフ、姫達、ケネス兄弟を入れて対策を話し合った。

 タービンケースにウォータージャケットを作って、水を通すところまでは、すぐに決まったのだが、通した水をどうやって冷やすか。ここで、頭を悩ませた。

 ラジエータも考えたが、あんなに細かい加工は難しいと思うし、材質的にアルミもないので、考え込んでいた。


 カズキが、変な事を言う。

「あー、アルミがあればな~。マサキ、アルミってどうやって作るんだ?」

「あん?アルミは合金じゃねーぞ。原子番号13番Alの単体金属だぞ。」

「マジで?鋼の様にはいかないのか。で、なんでお前は原子番号まで覚えてんだ!」

「中学校で習ったろうが、原子番号表が教科書に載ってただろ?」

「まさかとは思うが、あれ全部覚えてないよな?」

「全部ではないが……、まあ大体?知らない物質もあるからな。」

「マジか…変態め!」

「この世界じゃ役に立たないがな。鉄くらいは覚えてんだろ?」

「番号まで覚えてねーよ、Feってだけは覚えてるが。」

「26番だぞ。今となっては、どうでも良いが…。九九と一緒で暗記する物なんじゃねーのか?あれ。」

「しねーヨ。」

「そうだったのか……。」


 話が逸れてしまったので、再び話を戻したのだが、そこでセレスティーナが意外な事を言った。

「では、氷で冷やすと言うのは、駄目なのですか?水を冷やすのですから。」

「氷、氷…氷ねぇ……おお!氷か!!セレス、愛してるぞ!」

セレスティーナは顔が赤くなってしまった。可愛い奴だ。

 カズキが呆れた顔で言う。

「で、何を思い付いたんだ?」


 マサキは、紙に絵を描きながら説明した。これは魔法陣の登場だ。シリルに教えながらやってやろう。

 要は、魔法陣で常に氷がパンパンになっている箱にパイプをクネクネと蛇の様に通して、そこに水を流すだけなんだけど、これが、別の事に応用出来る事を思い付いてしまったので、ちょっと興奮してしまったのだ。

「カズキ。これ、水を通す所に風を通したらどうだ?」

「風?……クーラーか?冷蔵庫か!?」

「正解!楽しくなってきやがった!」

「だな!」


 それから、タービンケースを作り替えたり、冷却システムを作るのに、シリルの尻を撫でながら教えたり、ギヤ比を速度よりトルク重視に変えたりと、何度か試作を繰り返し、やっと出来上がったので、試験走行をしてみた。

 それでも、時速200km位迄は普通に出せる、細かいトラブルはあったものの、概ね成功と言って良いだろう。簡単な手直しで済みそうだしね。

 後は、客車と貨物車、それにロイヤルファミリー車を作って、トンネルゲートの実験をしてみて問題なければ、魔導列車の完成だ。超高速輸送時代の幕開けだ。 




 冷却システムと同じシステムで、城の食料庫の半分を冷蔵庫にしてみた。良い感じだ、5℃位で安定している。勿論、常温で備蓄出来る場所も作ってある。こちらは、温度固定の魔法陣で18℃に固定してある。酒の熟成にも使える事だろう。


 そして、本格的に日本人の移住を始めるべく、住居建築を始める様に指示を出した。ただ、あんまり日本人だけで固まらない様にと、釘は刺しておいたが…。同時に、エルフとドワーフにも移住希望者の募集を掛ける事にした。

 なぜかと言うと、ニルフェスのお陰で作物の出来が良いのと、実りが早いので、そろそろ酒蔵や味噌、醤油の蔵を稼働させたいのだ。

 酒蔵は、日本酒・ビール・ウィスキー・ワイン・ブランデー・焼酎と醸造酒も蒸留酒もやる予定。主に俺が飲みたいだけだけど。




 街の大門の外に駅とロータリー、馬車の停留所などを造っていった。エルフェリーヌに協力してもらって、エクルラートの大門前に、同じ様な駅と、貨物車切り離し用の引き込み線を敷くスペースを提供してもらい、そこから線路を高架させて大森林に向かって伸ばしていった。

 そして、大森林手前で今度は地下へ潜る様に、下っていくのだが、地面に穴を開けて、地下に10両くらいが収まる程度の場所に、【ゲート】を魔法陣で固定すると言う、新しい方法を試してみる事にした。

 【ゲート】自体はそんなに魔力を使わないので、周囲の魔力を集められるようにしておけば、維持できるはずなのだ。


 次に、カルロスの所に、Tバックセットをお土産に訪問し、線路の敷設許可をもらった。まだ、少しの間は内緒にしておいてくれと頼んでおいた。まだ実験中なんだと。

 成功すれば、エクルラートに繋がるから、エルフのお姉ちゃんとウフフアハハだぞと言っておいたら、大興奮していたので、大丈夫だろう。


 そんな訳で、ローレル側の大森林手前に線路とトンネルを敷設して、【ゲート】を魔法陣で固定した。

 エクルラート側もローレル側も誰も入れないし、覗けない様にしてあるので、魔法陣が洩れる事はないだろう。この魔法陣は日本語なので、ブラックボックスにしてはあるのだけどね。


 10人位で作業をしていたのだけど、あっと言う間にローレル側も10km程度の線路が出来たので、異空間から駆動車両を出して、線路に乗せた。ちょっと怖いけど、早速エクルラートに向けて走ってみた。勿論徐行だが。

 結果、脱線する事もなく、スムーズに移動出来たので、実験は成功だ。これで、見通しはたったので、城に戻る事にした。




 城に戻ったマサキは、嫁ズとカズキ、カズキの彼女になったエルフの姉ちゃん、弥助と霧、それに勘治などの配下の者を会議室に集めた。

「色々見通しは立ったんだが、外から人を入れる前に、街の名前と区の名前を決めておかないといけない。それと、弥助と霧の祝言も済ませようと思うのだが…。」


 弥助は、笑いながら言う。

「私らの祝言については、後で相談させて下さい。今は、その他の事を。」

「そうか。じゃ、街の名前は何か思い付く奴はいるか?」


 カズキは言う。

「お前が考えりゃいいだろ?」

「俺のネーミングセンスを知っているだろ?」

「だから、面白いんじゃねーか!?」

「街の名前を面白くしてどうすんだ。」

「じゃ、スタンドフラワー。」

「立花じゃねーか!」


 弥助と勘治から声が上がった。

「カズキさん。国名がタチバナ王国に決まってるんで、他のにしましょう。」

「ああ、そうか。分かった。」

「決まってねーよ!」

「上様。駄目です、もう決定事項なのです。配下全員で決めました。」

「あ、そう…、国名は俺も考えていたんだけどな…。」

「どんなです?」

「プロミスランド。約束の地と言う意味なんだ。神様とか弥助達日本人とかエルフ、ドワーフに約束した、差別のない国と思ってな。」

「じゃ、それを街の名前にしましょう。国名は駄目です。でないと上様は国王を名乗らないでしょ?」

「名乗る気ないんだけどねぇ。国王なんて、誰でも良いじゃん?」

「「「「駄目です!!」」」」

「アッハッハッハッハ!!面白れー!腹が捩れる。」

 カズキは大爆笑なんだが……。


「俺が国王にさせられるなら、カズキは摂政だな。異論も反論も認めない。」

「あーてめー、道連れはねーだろー!!」

「ふっ、仕事しない国王に苦しめられるがイイ!」

「働かせるからな!」

「ま、当分は建国なんかしないから心配するな。」


 弥助達に押し切られる形で、街の名前がプロミスランドになった。区名は結局、北区、南区、東区、西区、商業区、工業区、農業区、学術区となった。そのまんまじゃねーか、まあいいか。


 弥助は霧の他に2人を娶ると言う話になっているので、揃ってから祝言かと思ったのだが、もう2人は決まっているのだそうだ。ただ、側室なので祝言は必要ないという事だった。弥助…素早い。


 で、祝言の方は、みんなの家が出来て、移住してからで良いと言う希望があったので、要望通りにしようとは思うのだが、何かあるんだろうか。


 ならば、と住宅地に家を建てていった。姫達も総動員して、洋風和風色々織り交ぜて。500軒位になっただろうか、そこで一旦止めて、日本人を連れて来る事にした。酒蔵や味噌蔵、醤油蔵は蔵ごと異空間に収納した。自分の家に愛着がある者の家も収納した。刈り取った麦も大量にあったので、要らないと言う物以外は全部収納した。


 そして、全員を【ゲート】で移動させ、商業区に醤油蔵と味噌蔵を出して、酒造所に酒蔵を出してやった。建っている家で気に入らない者は、治吉に言って建ててもらえと言っておいた。どうせ売れるだろうし。

 日本人から金は取っていない、来年から税金は取るけどね。まあ、500軒あっても全然ガラガラなんだがな。広いわ、この街。馬車を循環させないとな。




 最近、放置気味のミリアとオリビアの店も移転しないとな。店より工房か、王都でも商売は続ければ良い訳だし。店の奥に魔法陣を描いてしまおう。そうすれば、通えるしな。


 城のシェフをなんとかしなければ……。普段は、どうせ霧が作るんだろうし、来客があった時と、社員食堂だな。パスタ屋の親父来ないかなぁ。誘ってみるのも良いだろう。


 クロードにも少し相談をしてみよう。商業ギルドには思う所があると見た。サイモンも勧誘出来れば最高だ。


 そうそう、弥助。あいつ2人決まってるって言ってたが、エルフとドワーフを1人ずつ、もう女にしちゃったんだってさ。あと2人娶れと言った時は、もう向こうから口説かれていたそうだ。俺より手が早いのでわ?



 そろそろ神様たちを呼んでも良いのかな。








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