第46話 日本人集落

 翌朝、目が覚めて風呂に向かおうとしたら、セレスティーナに捕まった。面倒だったので、「俺はなんともないぞ、お前がしたいならしても良いけどな。」と言っておいた。俺の下半身も自主規制を覚えたんだ。多分。


 だが、結局一緒に風呂に入ったら、やっちゃったよね。まぁ、仕方ないだろう。エロいセレスティーナが悪いのだ。うん、そういう事にしておこう。


 風呂から上がって、新しい浴衣に替えて、朝飯を食べ終わった時、桜が今日の御召物は何にしますか?と言うので、里に行くから、羽織袴だと言ったら、準備しますと走って行ってしまった。


 寝室に戻って、着替えをしようとしたら、俺の羽織を見て、桜が固まっていた。何か問題なのだろうか。まあ、気にしても仕方ないと思って。黒の小袖と袴を着け、足袋と雪駄を履くと、最後に金刺繍の紋付きの白い羽織を羽織った。そして、扇子を腹に差した。姿見を見ると、時代劇の将軍様には見える。大名程度には見えるんじゃねーか?まぁ、流石にまげにする気は全くないけどな。


 身支度が出来たので、1階に降りていくと、弥助と霧が俺を見て、平伏するので、やめれ!と言って措いた。


「上様。よく似合ってます。」

 と弥助が言うので、


「頭領のところにも、顔を出しておこうかと思ってな。正装の方がいいだろ?」

 聞いたが、


「どうでしょうか、話が出来なくなってしまうかもしれません。」

 と、言われてしまった。


「まぁ、いいじゃないか、国造りにも協力を頼みたいしな。」


「それじゃ、やっぱり……。」

 と弥助が言うので、少しだけ頷いておいた。


 弥助も霧も桜も椿も、本当によく尽くしてくれる。4人の為にも、形だけは作ってやりたいと、マサキは思うのである。まぁ、弥助達が勝手に主君と言っているだけなんだけど、これだけ尽くされたとしたら、主君らしくあろうと思っても良いかな?位には思っているのである。


 弥助と霧には、幸せになって欲しいと思うのだ。4人には、普段着で良いと言い、それでもくノ一3人娘は外出用の小袖を着た様だ。弥助は着流しにした様だ。3人とも髪を団子にしていて、和服なだけに項がセクシーだった。


 和服姿の3人は凄く綺麗だった。もうやばいね、特に霧の美しさが際立っている様に見えた。桜も椿も綺麗だが、祝言を控えた女の輝きなのだろうか。


 支度が出来たので、執務室からローレル屋敷に飛んだ。ローレル屋敷の執務室から出ると、玄関に向かいながら言った。

「お前達、しばらく此処を拠点にするから、一通り見て必要な物を調べてくれ。弥助は馬車を借りて来てくれ。」


「「「承知しました。」」」

「承知。」


 マサキは、1人掛けのソファに座って、考えていた。忍び達の生活水準は、決して高くない。そこを突けば、移動させられるかもな。ただ、先祖伝来の土地とか言われる可能性もあるわけか。


 だがなぁ、陶磁器、味噌、醤油、大豆、やっぱり大きいな。俺1人で出来る事ではない、いくら魔法を駆使しても、限界はある。


 迷宮の攻略と大森林の探索が終わったら、冒険者活動には区切りをつけて、国造りをしよう。冒険者である事は捨てないが、指名依頼のみにする事は可能な筈だ。

桜を抱いたあの日に、責任は取ると決めたのだ。弥助達が大きな顔で生きていける国を造ろう。


 くノ一3人娘は手分けをして見て回っている様だ。キッチンは霧、風呂場は桜、1階の部屋は椿。2階より上は3人で見て回っていた。3階まで見終わって、戻って来た。食器類などは一通り揃っている様だが、酒器が全くないから、買って来ようと言う話だった。あとはタオルの類が全然ないとの事。


 無い物、必要な物は書き留めておいて、この街か、王都で買えばよいと言う話をした。そうしていたら、弥助が馬車を借りて戻って来た。

「準備出来ました。」


「ありがとう。行こうか。」

 と、マサキが言うと、みんながさっと移動して玄関の外へ出た。


 そこには、箱馬車が置いてあった。普通の荷馬車でいいのにと思ったが、恰好が恰好なだけに、最低でも幌馬車じゃないと汚れてしまうね。御者は着流しの弥助が務めると言うので、甘えさせてもらった。


 馬車に乗り込み、扉を閉めると、弥助が声を掛けて出発した。大門から街の外へ出ると、街道と草原が広がっていた。馬車に揺られながら、うつらうつらしていると、霧が膝を貸してくれた。ちょっと抵抗はあったものの、眠気に勝てず、寝てしまった。


 この辺境にあっても、冒険者と騎士達が頑張っている為、街道付近では殆ど魔物が出る事は無い様だ。流石カルロスである。家臣も大変なのだろうな、魔物が出たと言うと、自分が飛び出して行きそうだしな。だから、間引きはさぼれないのだろう。冒険者も迷宮ばっかりという訳にはいかないのだろうな。


 馬車に揺られる事、1時間程度だろうか、半分寝ていたので、時間の間隔がないので、霧に聞いたら大体そのくらいだと言う事だった。霧の膝から体を起こし、窓の外を見ると、水田が広がっていた。


「水田か……。懐かしいな。」


「今でもあるのですか?田圃。」


「ああ、あるぞ。今でも日本人の主食は米だからな。それに水田農法と言うのは、凄く良い方法なんだ。山から流れて来る水や土には栄養があって、そのまま肥料になるからな。」


「へぇ、そうなんですね。」


「もち米もあるのかなぁ、食べてないなぁ、餅。」


「ありますよ、御赤飯とか餅つきもします。」


「赤飯があるのか、ならば小豆もあるな?」


「ええ、あります。」


「ほほう、汁粉に善哉も出来そうだな。」


「それは、美味しいのですか?」


「甘いんだ。」


「食べてみたいです。」


「やっぱり砂糖がなぁ……。白玉粉も出来るから白玉団子も作れるじゃないか。うむ、江戸時代それも元禄以降の日本の実現は可能だな。」


 そんな話をしていたら、板塀に囲まれた、比較的大きな村と言うか街と言うか、そんな集落があった。この集落かな。うん、日本家屋っぽいな。異空間から大小を取り出し、脇差を腰に差した。大刀は手に持ったままだ。


 馬車は集落の中へ入って行き、広場で止まった。路地が狭くて入れないのだろう。弥助が扉を開けてくれたので、馬車から降りた。


 そこで大刀を腰に差し落とし、周りを見回すと、見られてはいるんだけど、近寄って来ないと言う、なんとも居心地の悪いものであった。

 弥助の先導で、まずは、弥助の家に行く事にした。弥助の家は、何と言うか広い三和土たたきがあって、履物を脱ぎ、上がり框を1段上がる日本家屋の造りだった。


 弥助に促されて、土間から板の間にあがると、その先には、畳の部屋があった。と、言う事は藺草いぐさもあると言う事か…。と考えていたら、弥助に促されたので、大刀を腰から抜き、右手に持って奥へと進んだ。


 襖の代わりに木製の引戸があり、開けたら床の間がある部屋まで来た。中に入ると、弥助の両親が上座を開けて待っていた。マサキは畳の縁を踏まない様に、上座に着くと、床の間を背に正座し、刀を右側に置いた。


 弥助と桜と霧と椿は、マサキから見て、右側に両親と相対する様に座っていた。何と言うか、マサキがお誕生日席の様な恰好だ。


 まず、弥助が口を開いた。

「父上、母上、こちらが、私が主と仰ぐ、立花雅樹様です。そして、この度、霧と祝言を挙げるにあたり、私に紋付き袴を、霧に小袖と打掛をご用意頂きました。また、村垣家の家紋として、丸に二つ引きと言う、上様の家の替紋を下賜して頂きました。そして、桜を上様の側女に迎えて頂けるそうです。」

 と言って、家紋入りの風呂敷を見せた。


 両親は平伏した。

「弥助と桜の父、弥一に御座います。この度は過分な物を頂きまして、ありがとうございます。両名とも、末永くご高配を賜れます様、よろしくお願い申し上げ奉ります。」


「うむ、苦しゅうない。と言いたくなる様な挨拶を頂いたが、主君とは言っても、何も持たない身、気楽にしてくれ。今日は、挨拶を兼ねて、2人の祝言について、少し話をしたかったのと、これからの事で相談出来ればと思っている。」


 弥一はキョトンとした顔で言う。

「と、言いますと?」


「まず、弥助と霧の祝言は、俺の王都屋敷でやろうと思っているんだ。まだ日にちは決めていないのだけどな。俺の結婚式も近いから、色々考える事があって、そこまでは決まっていないんだ。

 だが、当日は俺の魔法で迎えに来るから、是非、来て欲しい。

 それと、Sランク冒険者主席。これが、今の俺の身分なんだが、何れ、近い将来に国を造ろうと思っている。そこで、弥一夫妻にも協力してもらいたいんだ。

 どこの土地に、と言うのも決めていないんだけど、移住を視野に入れておいて欲しい。」


「私達に出来る事が、ありましょうか。」


「当然、弥一も忍びなのだろうが、現実は、半農半忍と言ったところだろう。その両方の技術と知識を生かしてもらいたい。俺は、貴方達の先祖と同じ世界の450年後の同じ国から来たんだ。だから、日ノ本の文化を、その国で謳歌させたいのさ。見通しは、立っている、後は人材だけだ。それでも、1年か2年は掛かると思うがな。」


 弥一は驚いた顔をしていた。

「え?1年か2年で国が出来ちゃうんです?」


「まあ、可能だろう。」


「そうですか、愚息と愚女がお世話になっておるのです。私達で出来る事があるのであれば、お申し付けください。」


「それは、非常に助かる。礼を言う、ありがとう。」


「いえいえ、そんな。」


「では、2人には元気になってもらおう。若返ってみるか。」

 そう言って、マサキは立膝をつき、弥一の前まで行った。


「両手を出してくれ、少々魔法を使う。」

 マサキがそう言うと、弥一は両手を前に差し出した。


 マサキはその手を握り、魔力を循環させて、【回復リカバリー】【復元レストレーション】を掛けた。弥一の体は7色に光り、治まった時には、25歳位の青年になっていた。


 マサキは、母親の前に移動した。

「母堂、名前は?」


「蘭に御座います。」


「では、蘭。両手を前に。」

 と言って、蘭が差し出した両手を握って、魔力を循環させた。そして、同じ手順を繰り返した。そうしたら、22,3歳の若く美しいくノ一になっていた。


 桜が慌てた。

「上様、これは?」


「あれ?桜には見せた事なかったか?エリザの時と一緒だが?」


「あ!理解しました。」

 と、桜が下がった。


「これ、桜。主様に意見するとは何事ですか。」

 蘭がオコモードだ。


 桜は首を振った。

「父上も母上も、今、ご自分がどうなっているか、お分かりですか?」


「おう、力が若い時分に戻った様だぞ。」

 弥一は嬉しそうだ。


「そうねぇ、体力が戻った気はするわねえ。有難い事です。」

 蘭は、ニコニコしているだけだ。


 桜は溜息を吐いた。

「父上も母上も、今すぐ鏡を見て来て下さい。上様がして下さった事は、どういう事かを目で確かめて来て下さい。」


 そう言われた弥一と蘭は、立ち上がって鏡を見に行った様だ。


 マサキと霧は笑っていた。弥助と桜は微妙な顔をしていた。

「何だ。気に入らなかったか?」


「いえ、そうではないんですがね、両親が男と女になっちまったんで、ちょっと複雑なだけですわ。」


「ああ、まぁそうかもな。弥助が物心つく前の姿だろうしな。だが、2人にも若い頃はあったんだぞ。また、弟か妹が出来るかもな~。」


「それは、それで楽しいですね。」


「だろ?サラビスにも、新しい嫁とれって言ってんだけどさ、ルチアとシルビアを若返らせたから、励んでんじゃないかな。」


「上様は、時々、冗談か悪戯か狙いがあるのか、分からなくなりますね。」


「ないと思うか?」


「あるんです?」


「そりゃあるさ。国を造るのには、相当な数の人間の力が必要になるんだが、年を食っていると、疲れるのも早いし、新しい事に挑戦出来なくなるんだ。だから、若い時の自分を思い出してもらうのさ。」


「なるほど。本気なんですね?」


「ああ、だが、お前達以外に言うつもりはない。そこは理解しておけ。前にも言ったが、根回しが全て終わった後でないと、情報が洩れるのは、上手くない。だから、考え無しに喋る奴がいるから、知られたくないんだ。どんな邪魔が入るかわからないからな。」


「「「「承知しました。」」」」


 弥一と蘭が戻って来た。

「立花様。若返っておりましたが、大丈夫なんでしょうか。」


「ん?何がだ?」


「反動で急に老け込んだりは?」


「ああ、大丈夫だぞ。確かに若返っている様に見えるが、時間を戻したわけじゃない。体の組織を内部から回復させて、復元しただけだから、今の年齢で、見た目通りの体で体力だ。因みに、蘭は生娘になっている筈だ。子作りも可能だぞ。」


「まぁ!」

 と、蘭は嬉しそうだ。女はいつでも若い方が良いのだろう。


「恐れ入りました。これからは、御屋形様と呼ばせて頂きます。」


「あ、まぁそこは立花でもいいぞ?」


「いえ、恐れ多いです。御屋形様か上様と呼ばせて頂きますので。」


 弥助を見たら、首を振ったので、仕方ないから頷いた。

「承知した。今日はまだ、霧の実家と、椿の実家にも、顔を出したいから失礼するよ、また来る。」


「承知仕りました。」


 では、とマサキは立ち上がり、霧を促して玄関へ向かった。次に霧の実家に向かい、同様の話をして了承してもらったので、若返らせておいた。椿の実家では、霧の従妹と言う事で、祝言には来てもらう事になった。そして、台所のGの様な奴と言う、許嫁がいるにも関わらず、側女にすると言ったら、泣いて喜んでくれた。なぜ?


 その後、頭領と呼ばれる人物に会いに行く事にしたが、どんな人物なのか、弥助に聞いてみたら、苦労性な人らしい。この集落に縁談が来る事は、まずないらしいので、血が濃くならない様に頭領が管理しているのだそうだ。決して嫌がらせの様な物ではなく、集落の存続の為らしい。


 なので、本人から色々聞き取りをして見ようと思う。



 頭領と呼ばれる人物の屋敷に訪問し、弥助の紹介で挨拶を終えると、この村と言うか里と言うか集落の話を聞いてみた。


 聞くところに依ると、頭領の家名は昔から、藤林なんだそうだ。伊賀っぽい気がするが、詳しい話は伝わっておらず、忍びを生業にする一族の頭であったと言う事しか判らないと言う話だ。


 この集落は、先祖が転移して来た時に、周辺から集まった日ノ本の人間が作ったらしく、忍びもいるが、他には、侍や百姓、職人も多数いる様で、決して忍びの里ではないとの事だった。逆に言えば、此処とは違う場所にも、忍びや侍はいるんだそうだが、交流はないそうだ。


 許嫁の件は、他所から縁談の話がない事もあって、伝わっている技術や伝統を失う訳にはいかないと考えた先祖が、当時から頭分であった藤林家に一任すると言う事で、受け継がれてきた様だ。集落を作った当時は、200名程度だったらしいが、現在は、1500名程度の人口に増えたんだそうだ。


 集落には、剣術道場もあるし、登り窯もあるし、醤油蔵、味噌蔵、造り酒屋もあって、芸者の置屋もあるそうで、ローレルに派遣する事もあるそうだ。そうして、醤油、味噌、酒などを売って外貨というか、こちらの通貨を得ていた様だ。その為、醤油や日本酒は純粋な進化を遂げた様だ。


 陶磁器は、見せてもらったが、信楽焼や美濃焼に近いと思う、これだけの品質の物が作れるのなら、便器も作れる事だろう。あれは、手で成形しなくても型でいいからな。


 そんな話をしていって、将来的に移住する気はないか、聞いてみた。集落に囚われず、大きな顔をして普通に生活出来る国はどうかと。


 頭領の返事はこうだった。

 そもそも、ここは島国ではないし、血が混じる事に抵抗はなかったと。この世界は女性も美人が多いし、普通に恋愛をして結婚して子を生すのは、悲願であったらしい。頭領自身も、人口が増えるにつれ、血が濃いの薄いのと管理するのも面倒なんだと言っていた。そりゃそうだわな。


 その為に、家系図をしっかり付けていたが、複雑怪奇になり過ぎて、もう投げ出したいと思う位には、疲れると言う事だった。だから、もし国を造ってもらえるのならば、協力は惜しまないと言ってもらえた。



 これを聞いた俺は思った。 

 桜も椿も、好きの嫌いの言っちゃいけねーんじゃねーか?これ。と。女達の気持ちも分かるが、生まれながらに頭領を任されていた男には、荷が重いと言う事も、また、理解出来てしまうのである。


 何とかせねば、と気持ちも新たに、この日は、うどんを食べて、ローレルに戻ったのである。うどんは、出汁と醤油の味付けで、めっちゃ美味かった。


 考えてみれば、電話や新聞などの情報発信媒体がなかった頃の日本人は、閉鎖的であったもんな。現地人との交流も進まなかった事だろう。


 それは、それとして、明日からは、迷宮に行こう。トイレとかは、国を造ってからの産業にでもすれば良いと思ったのだ。






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