第251話 グレイフナーに舞い降りし女神⑩



「——動くな」



 気づけば闘技台の上に、セラー教の白衣を着た男が立っていた。

 金髪に銀の混じった髪が一本にまとめられ、やけに整った顔をしている。


 隣には同じくセラー教の白衣を着た女が付き従っている。

 彫りは浅く、鼻が突き出ており、瞳は黒目が八割を占めていた。木の妖精コロポックルみたいな顔だ。


「動けばエリィ・ゴールデンを殺す」


 男は悠々と歩き、こちらへ近づいてきた。

 パッと見はなんかのサプライズイベントみたいだが、雰囲気が尋常ではない。

 あいつ、本気だ。あの目に人間味を感じない。ああいう手合いは何をするか分からない。


「あぐ……」


 モニターに映るエリィの可愛い口から声が漏れた。

 いってぇぇぇっ!

 急に力を込めてきた。くっそ。身体強化がぜんぜん通用しない。


 こうなったらもう落雷魔法しかないか?

 身体強化切った瞬間に押しつぶされて死にそうだ。ちょっとでも隙があれば、オリジナル魔法で抜け出せそうだが……。


『皆さん、動かないでくださいっっ!』

『まず相手の要求を聞きましょうぞ』


 実況者二人が俺の命があぶないと思ったのか、強い口調で呼びかけた。


 会場がしんと静まり返った。


 闘技場へ向かってきたシールド団員数十名が杖を向けて固まり、観客達も二割ほどがこちらへ杖の先を向けた状態で硬直した。


「このような挨拶になってしまい、大変遺憾に思います。わたくしはセラー神国、セラー教枢機卿、ゼノ・セラーと申します。この度はグレイフナー王国魔闘会にお招きいただき、誠にありがとうございます」


 どこか小馬鹿にした態度で、ゼノ・セラーと名乗る男がセラー教の印を空中に切った。


 ゼノ・セラー?

 あれ、スルメが言ってたゼノ・セラーって男、こいつか?


「皆様にはぜひともご覧いただきたいものがございます。ほんの余興にすぎませんが、お楽しみいただければ幸いです」


 ゼノ・セラーが付き人のコロポックル系女子に視線を送ると、倒れていたフォーク・バルドバッドが浮かび上がり、直立姿勢のまま前方へと向き直った。傀儡子の操るマリオネットみたいな動きだ。


 会場が控えめなざわつきに包まれる。


 フォーク・バルドバッドは光の消えた瞳で虚空を見つめ、口を開いた。


「複合魔法の……使い手……死にたくなければ……ゼノ・セラー様のもとへ……向かえ…………じ、じゆうはやくそく……され………る………」



 宙に磔の状態となったバルドバッドがたどたどしく言葉を紡ぐ。

 コロポックル女子が風魔法で拡声しているようだ。



「せ、せかいは……ぜのせらーさま……によって………ももも、もとの……すすすがたたたたにに、もどどどどるの、だかだかだかだかだららららら——」



 フォーク・バルドバッドがおかしな痙攣をはじめ、ぶくぶくと口から泡を吹き始めた。


 特大モニター映し出されたホラーな映像に、会場にいるレディや子どもから悲鳴が上がり、数名が失神する。


 ゼノ・セラーは満足げに手を叩き、仰々しくセラー教の印を切った。


「複合魔法の使い手を見つけ、セラー神国へ連れてきなさい。従うのであれば、この国の名前だけは残す、とセラー様が仰っております」


 ゼノ・セラーの言葉に会場中が息を飲んだ。


 これは……明らかな宣戦布告だ。

 魔闘会に乱入し、貴族の娘を人質に取って、ふざけたことを言っている。


 貴賓席を見れば、グレイフナー国王が憤怒の表情を作っており、隣にいるリンゴ・ジャララバードは国王を守るためか莫大な魔力を練っていた。


 ゴールデン家応援席の方向を見ると、アリアナを筆頭に、クラリス、バリーが怒りで表情を消し、エイミー、エリザベス、エドウィーナが杖を向け、父と母は飛び出そうとするのを使用人に押さえられている。


 俺の近くにいる白魔法師五人は青い顔でゼノ・セラーを見つめていた。


 近くにいるとわかるが、こいつの魔力は異質だ。

 重厚で陰惨で、底がしれない密度に練り上げられており、強者の空気を身にまとっている。


「こちらに魔法を撃とうとしている諸君、よろしいのですか?」


 一人悦に入ったのか、ゼノ・セラーが首をかしげた。

 コロポックル女子が手を掲げると、会場から散発して悲鳴が上がった。


 声の方向を見ると、フォーク・バルドバッドのように数十名が空中に浮き上がった。誰も彼もかかしのように動かず直立姿勢だ。

 貴賓席からも悲鳴が上がっているところを見るに、貴族からも犠牲者が出ているらしい。


『これはどういうことでしょう?! 動けずに何人もの観客が浮かんだぁ!』

『ひょっとして——』

『ああっ、王族の方まで!』

『身体に魔道具が仕込まれているのかもしれませんな』


 思わず言ってしまったのか、実況者二人が言い終わってからあわてて口を閉じた。この状況で冷静な分析をする実況者のイーサン・ワールドは職人だ。


「まだ自分達の立場が分かっていないようですね。いいでしょう。では……豪奢な服を着ている貴賓席のあなた、死んでください」


 ゼノ・セラーが指を鳴らした。

 魔法の痛みをこらえ、声の方向へ視線を飛ばすと、二十歳くらいの青年が足先から砂になって溶けていく。

 母親らしい女の絶叫がコロッセオに響いた。


 コロッセオ中が喧騒に包まれた。

 近くで浮かんでいる者を下ろそうと、会場中が動き始める。


「動くな、と言ったはずですが」


 ゼノ・セラーの言葉で、他に浮かんでいた数名が、一気に弾け飛んだ。

 パァンという無機質な音が鳴って砂に変化した肉体がばらまかれる。


 叫び声が聞こえた後、コロッセオがぴたりと静かになった。


 すると、結界を唱えた白魔法師五名のはるか後方にいた、別の白魔法師が闘技台に飛び込んできた。



「孫を離せ——“裁きの白光ジャッジメントスナイプ”!!!!」



 上位上級並の魔力を有した直径一メートルの真っ白な光線が、ゼノ・セラーへ直進する。


 飛び込んできたのは——グレンフィディックのじいさん?!


 どうやら白魔法師に扮装していたらしい。


 白魔法唯一の攻撃魔法“裁きの白光ジャッジメントスナイプ”、その威力は十体並べたAランクの魔物を一撃で貫通せしめると言われいる。


「“絶縁インソリューション”」


 ゼノ・セラーが右手をかざすと、光線魔法が空中へ吸い込まれて、消えた。


『サウザンド家の光線魔法が消えたっ!』

『魔法を使いながら別の魔法を?!』


「——“死霊の手ゴーストハンド”」


 俺を拘束するものとは別の手が現れ、グレンフィディックじいさんの左肩から右腹にかけて、手刀でなで斬りにした。

 鮮血を噴き上げながらグレンフィディックが吹っ飛ばされて闘技台から落ちる。


「おじい様!」


 思わずエリィが叫んだ。

 おいおいおい、じいさん死んでないよな?!


 ゼノ・セラーは不愉快そうに眉を動かし、俺を拘束する“死霊の手ゴーストハンド”とやらへ魔力を注入した。


「う、ああっ……」


 ミシミシと締めつけられ、全身が圧迫される。

 エリィの身体が柔らかくなけりゃとっくに肩の関節が外れてる……!


「もう一度だけ言いましょう。複合魔法の使い手を見つけたならば、即刻セラー神国に差し出しなさい。約束を守っていただけるようであれば、ユキムラ・セキノが作ったというこの忌まわしき国は確実に滅ぼす、という条件付きですが、名前だけ残すことを一考してもいい。そうセラー様は仰っております」


 こいつ……ふざけてんのか……?

 この呼びかけにいったい何の意味があるっていうんだよ。

 グレイフナーは潰すけど複合魔法使いを差し出せば名前だけは残してやるって、交換条件にすらなってねえよ。


 これはあれか?

 相手を怒らせてわざと敵対する営業手法と同じか?


「た、たのむ……家族……が………領地に………頼む………」


 ハッとして見上げると、泡をぶくぶくと吹いていたフォーク・バルドバッドが虚ろな目でつぶやいた。もはや視点が定まっておらず虫の息だ。

 あの状況で意識を取り戻すとはとてつもない精神力だ。


「よくしゃべれますね」

「消せ」


 コロポックルの女がモルモットを見るように言うと、ゼノ・セラーがまばたきをした。


 フォーク・バルドバッドが、足の先から砂になっていく。


「ぐ………ぐううう………」


 さすがにもとの魔力が強いためか、じわじわと身体が砂になり、それがかえって気の毒に思えるほど彼の表情が激痛で歪む。


『あ、ああああっ……バルドバッド氏が……!』

『なんということでしょう……』

『あの男を、誰か……!』

『ダメですぞ! エリィ嬢まで巻き込まれます!』


 実況者の呼びかけで動きだそうとした者が、踏みとどまる。

 ダメだ。フォーク・バルドバッドは助からない。


 誰か……頼む……!!!

 一瞬でいい。隙を作ってくれ……!


 痛みに耐えながら懸命に祈るが、そんなものが通じるわけもなく、フォーク・バルドバッドは膝まで砂になってしまい、残骸が闘技台にサラサラとこぼれ落ちる。


「貴様はここで始末する」


 ゼノ・セラーがつぶやいた。

 そのときだった。



「枢機卿! ここに複合魔法の使い手がおります!」



 貴賓席にいるセラー神国大使団から、大きな声が上がった。

 風魔法で声を大きくしているらしい。


「クリフ様っ!?」


 双眸を黄金に輝かせ、クリフが座席に乗ってこちらを見下ろしていた。

 他の大使団の人間はグレイフナー国民に袋叩きに合うことを恐れて逃げ出そうとしたが、クリフの奇行を見て止めようと動き出した。


 ゼノ・セラーは一瞬目を見開いたが、声を上げたのがクリフだとわかると、少しばかり落胆し、興味をなくした表情になった。


「クリフ・スチュワード。セラーの教えに背くのか?」


 ゼノ・セラーの魔力が揺れ、怒りが周囲に充満する。

 大使団の連中がその姿を見て固まった。


 こいつは仲間や身内が裏切ることに怒りをおぼえるらしい。相手の性格分析は営業でも必ず役に立つ。こんな状況でも覚えておく。


「いいえ。僕はエリィさんを救いたい。ただそれだけです」


 カメラ魔道具が映像を追っているのか特大モニターにクリフの姿が映し出された。


 クリフは真剣な目をこちらへ向けると、軽く微笑み、ローブからナイフを取り出して、何の躊躇もなく自分の胸へと突き立てた。



 ……………え?



 クリフの身体がゆっくりと後方へと倒れ、座席のあいだに隠れて見えなくなった。


「……」


 さすがのゼノ・セラーもこれには驚いたのか、眉を上げて息を吐いた。

 そのとき、ほんの少しだけ“死霊の手ゴーストハンド”の拘束がゆるんだ。



 ッ———!!



「“電花火スパーク”ッッ!!!!!!!!」



 バリバリバリバリバリッ!

 と凄まじい雷音が轟き、俺の身体から強烈な電流が発生した。

 新オリジナル雷魔法“電花火スパーク”は自分の周囲に強力な電流を起こす防御魔法。球体状に発生するため全方向の攻撃に対応できる。


 花火のごとく弾ける電流が“死霊の手ゴーストハンド”を焦がし、消滅させた。


『な、な、なんだぁぁぁっ?!』

『エリィ嬢が脱出ッッ!?』

『雷? 雷の魔法??』

『ま、まさか……』


 続けざまに魔力を練り上げ、無表情ながらも驚いているらしいゼノ・セラーとコロポックル女に向かって吼える。



「“電衝撃インパルス”!!!」



 ギャギャギャギギギギギッッ!

 怪鳥の鳴き声のような凄まじい雷吼が空気を揺らし、莫大なエネルギーの雷撃が、俺とエリィの怒りとともに突き進んでゼノ・セラーにぶち当たり、放射状に電流を撒き散らした。


 魔力循環が上達した“電衝撃インパルス”の衝撃は土でできた闘技台を真っ黒に焦がす。


 クリフの持つ天視魔法は補助系で攻撃ができないらしい。

 あいつはどうにかしてエリィを助けたいと思い、エリィが自力で“死霊の手ゴーストハンド”から抜け出すと信じて自分の胸にナイフを突き立てた。


 他の人間が自害したところでゼノ・セラーは反応しなかっただろう。クリフがやったからこそ、意味のある行為だった。


 ゼノ・セラーはクリフが天視魔法の使い手だと知っていた。

 だから動揺した。


 クリフ……絶対に死ぬなよ。

 俺とエリィに魂を分離する方法を探すと約束したよな?


 助かる方法があってナイフを自分に刺した。

 俺はそう信じる。思い込む。


 能天気とポジティブは紙一重だけどな、エリィのためにも俺だけは絶対にお前が死んだと思ってはいけないんだよ。


 だってな、エリィの心が、こんなに……痛いんだよ……!

 くそっ………泣くな、エリィ!



「忌まわしきユキムラ・セキノの落雷魔法とは少し違う、か」



 “電衝撃インパルス”を魔法で耐えたゼノ・セラーが、学者みたいにつぶやく。


「ゼノ・セラー様、バルドバッドの仕込みが破壊されました。落雷魔法によるものかと」


 コロポックル女が言った先を見れば、バルドバッドの砂化が止まって地面に落ちてきた。生きているかはあやしいが、人としての原型は保っている。


 落雷魔法の電気ショックで仕込んでいる魔道具が破壊できる?

 ナイスな情報ッ!



「“落雷サンダーボルト”!」



 最弱出力の“落雷サンダーボルト”で浮かんでいる人間を片っ端から撃ち抜いていく。距離はかなりあるが今の実力なら百発百中。


 雷の閃光が数十発またたくと、次々に浮かんでいる人間が観客席に落ちた。

 すぐさま近くにいる者が回復魔法を唱える。

 見た感じ、あの威力の“落雷サンダーボルト”なら死なない。

 落雷魔法を受けて落ちる様子を見る限り、仕込まれた魔道具は落雷魔法で破壊可能らしい。



「——“死霊の手ゴーストハンド”」



 ゼノ・セラーがすかさず魔法を唱える。

 足元に紫の魔法陣が輝いた。


「“電打エレキトリック”“!!」


 地面を蹴りつけて“電打エレキトリック”をぶちかます。

 魔法が相殺されて、掻き消えた。


 さらに“落雷サンダーボルト”で浮かんでいる人間を打ち抜き、救出する。


『ら、落雷魔法ッッッッッ! エリィ嬢、なんと落雷魔法を使ったぞ!!』

『伝説の……落雷魔法ですぞ……』

『エリィ嬢、本気で怒っているのか髪の毛が逆だっている!』


 実況者が叫ぶと、コロッセオが怒気をふくんだ大歓声に包まれた。



「クリフ様……」



 エリィと俺の怒りがぐるぐると渦を巻いて、電流が独りでに身体から放出される。


 ゼノ・セラーはこちらを見て感心したようにうなずき、コロポックル女は杖を取り出した。



「“死霊の行進リビングデッド晩餐会ホームパーティー”」



 ゼノ・セラーがふざけた名前の魔法を唱えた。

 迎撃するため“電衝撃インパルス”をぶつけるも、魔法を同時使用できるのか「“絶縁インソリューション”」という防御魔法に防がれ、電流が霧散した。


 歪んだ黒い魔法陣が闘技台からはみ出てさらに闘技場まで伸び、そこらじゅうの土がぼこぼこと盛り上がった。

 土の中から人の形をした何かが湧き出してきて、ゆっくりとこっちへ方向転換する。


 100?

 いや、そんなもんじゃきかない。1000体はいるぞ……!


『ゾンビ!? ゾンビの群れが現れたぁ!!?』

『これは、複合魔法では……?!』

『複合魔法、ですか?』

『失われし複合魔法の一つに、死体をあやつる禁忌の魔法があると聞いたことがありますぞ』


 やっぱそうかよ!

 異常な魔力、聞いたことのない魔法名、ありえない効果。

 複合魔法だと言われれば納得だ。


 イーサン・ワールド、物知りだな。

 是非顧問として雇いたいぞ。


 敵さんが魔法を唱えているあいだに、闘技台にいる白魔法師五名が身体強化でフォーク・バルドバッドの身体を抱きかかえ、安全圏まで離脱した。

 よし! 期待していた動きをしてくれた!

 ひょっとしたらフォーク・バルドバッドを元の状態に戻せるかもしれないからな。回収は絶対だ。


 ゼノ・セラーはなんの感想もないらしく、ゴミを見るような視線だけ送り、すぐこちらへ戻した。

 こいつにとってグレイフナー国民はただの駒でしかないってことかよ。


 それなら、こいつはどうだ!



『エリィ嬢、身体強化で大きく距離を取った!!』

『バルドバッド氏が救出されました! いまですぞ!!』



 実況者二人が待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。


 コロッセオが怒号で揺れ、約十万人がゼノ・セラーに向けて一斉に魔法を撃ち込んだ。


「“ウォーターボール”!」「“ウォーター”!」「“ウインド”!」「“鮫背シャークテイル”!」「“鮫牙シャークファング”!」「“鮫刃シャークナイフ”!」「“サンドボール”!」「死にさらせぇぇぇ“土槍サンドニードル”!」「死ねぇ“ウインドブレイク”!」「“ウインドカッター”」「“ウインドストーム”」「“ウインドソード”!」「“エアハンマー”!」「“空弾エアバレット”」「“空斬エアスラッシュ”!」


 水魔法、風魔法が示し合わせたかのように飛んでいく。

 青と白に杖先が光、数万の一斉魔法攻撃で空中が埋め尽くされる。


 俺と白魔法師五人はグレイフナー国民が反撃すると分かっていた。

 誰が何と言おうとグレイフナーは武の王国。国民のほぼ全員が攻撃魔法を使えるというとんでもない国だ。


 緩慢な動きのゾンビをかわしながら退避する。

 白魔法師の一人が、ゾンビに喰われそうになっていた血だらけのグレンフィディックじいさんを回収して、別方向へとダッシュする。

 じいさん、死ぬなよ。俺とエリィはまだまだじいさんの私財を使いたいんだよ。


 それにしても、この魔法量は……ガチでヤバすぎる!!!


「“睡眠霧スリープ”」「“混乱粉コンフュージョン”」「“聴覚低下ロスヒアリング”」「“食欲減退アノレクシア”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」「“腹痛アブドミナルペイン”」


 闇魔法師が水と風に呼応するかのごとく、状態異常魔法を連発する。意地でも腹痛にさせたいらしいな!?


 一秒も間を開けず、もっとも攻撃的な火魔法使いがありったけの魔力で乱射し始めた。


「くたばれぇぇぇ、“ファイアボール”!」「“火矢ファイアアロー”!」「“複写コピー”いかんクセで!」「“火槍ファイアランス”!」「“火蛇ファイアスネーク”!」「“ファイアボール”!」「“ファイアボール”!」「“ファイアボール”!」「“火槍ファイアランス”!」「“火槍ファイアランス”!」「“火蛇ファイアスネーク”!」「“火蛇ファイアスネーク”!」「ソイヤッ!」「“ファイアボール”!」「“火槍ファイアランス”!」「“ファイアボール”!」「“ファイアボール”!」“火蛇ファイアスネーク”!」「“ファイア”!」


 さらに貴族達が上位魔法を放ち、ゼノ・セラーとコロポックル女子のいる場所は煙と水蒸気と魔法の光で何も見えず訳のわからないことになった。

 俺達が完全に闘技場から逃げたのを見計らうと、ゾンビ達にも攻撃を開始する。


「“竜巻トルネード”!」「“炎弾フレアバレット”」「”氷矢アイスアロー”」「“氷傷噛付アイシクルバイト”」「“空矢・狙撃エアアロー・スナイプ”!」「“空槍エアランス”!」「“空撃エアショック”!!」「“球炎スフィアフレア”!」「”氷弾アイスガン”!」「“炎弾フレアバレット”」「”氷矢アイスアロー”」「“氷傷噛付アイシクルバイト”」「“空矢エアアロー”!」「“空槍エアランス”!」「“空撃エアショック”!!」「アシル家奥義ぃ“ウォータースプラッシュ”!」「“空烈衝撃ショックウェーブ”」「“球炎スフィアフレア”!」「”氷弾アイスガン”!」「“双炎ツヴァイフレア”!」「“空刃斬撃エアスラッシュソード”」「“氷突剣山アイシクルスパイク”」「“球炎スフィアフレア”!」「“掌炎フレアハンド”!」「“爆発エクスプロージョン”」「“地面爆発グランドプロージョン”!」「“馬炎車輪フレアチャリオット”!」「エェェェクセレンッッ!」



 もう中心部がどうなってるか分かんねえよ?!


 最後のシメと言わんばかりに、ひときわ大きい赤い光と魔法陣がゴールデン家応援席から輝いた。


 あ、これ———



「死んで地獄で詫なさいッッ“怒れる愛妻の七爆発セブンアンガープロ−ジョン”!!!!!!」



 アメリアおっかさんの上位上級魔法が解き放たれた。

 怒りそのものとなった大爆発が七発、竜の咆哮のごとき破裂音を響かせ、ゾンビごと中心部をふっ飛ばして闘技台をまっさらな更地に変えた。


『わ、わたしは今歴史的瞬間に立ち会っているのでしょうか……』

『間違いありませんな。この人数での一斉魔法攻撃など聞いたことがありませんぞ』

『中心部はどうなっているのでしょう?』

『煙で見えませんな』

『爆裂魔法の煙を観客が“ウインド”で散らしておりますわ………え??』

『跡形もなくなっているとは思いますが…………なんですと?』


 実況者二人が絶句した。


 ゼノ・セラーとコロポックル女は何事もなかったように立っていた。


 そんなことだろうと思ってたぜ……。


 おそらく、ゼノ・セラーが魔法攻撃を遮断する複合魔法を使ったんだな。服に汚れ一つついてないって、どういう原理だよ。


「だからこの国は下劣なのだ」


 ゼノ・セラーが苦々しく言う。


「退避すべきかと」


 コロポックル女の淡々とした提案にゼノ・セラーはうなずきもせず口を開いた。


「エリィ・ゴールデン。いずれ、生きたまま我の傀儡にしてやろう。せいぜい足元に気をつけることだ」


 こっちの口調が本性か。

 コロポックル女が距離の離れたこちらを睨みつけ、杖を構える。


『離脱するつもりですわ!』

『なんですと?』

『行かせるなぁぁぁぁぁあぁぁっ!』

『再度攻撃ですぞ!』


 実況者が叫ぶと同時に、コロポックル女が杖を振った。



「“空理空論飛翔移動キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン



 二人の身体が消えた。

「上だ」という叫びを聞くと、空に浮かんでいる。


「クリフを回収しろ」

「かしこまりました」


 魔法が雨あられと撃たれる中、コロポックル女が杖を振るとまたしても姿が消えた。


 あの魔法、超級魔法——高速で移動できる飛翔魔法だったはず。

 ポカじいの話では、魔力循環に高負荷がかかるため、一度使うと数時間他の魔法が使えなくなる副作用付きの魔法だ。おまけに長距離移動はできず、一時離脱くらいにしか使えない。その代わり、機動力が他の飛翔魔法よりずば抜けている。


 超級魔法を無詠唱で使うってのは非現実的だな。

 コロポックル女が持っている杖がアーティファクトでその力を使用した、と考えるのが妥当か。


 セラー神国どんだけアーティファクト持ってんだよって話だよ。

 グレイフナーにアーティファクトはないのか?


 ゼノ・セラーとコロポックル女は貴賓席に行き、クリフを小脇に抱えた。

 ちらりと見えたクリフの胸元にはナイフがざっくりと刺さり、血がしたたっていた。



「クリフ様ぁーーーーーーーーーーーーっ!!!」



 エリィが叫んだ。

 “落雷サンダーボルト”を撃とうとするも、クリフに当たることを恐れたのかエリィが躊躇し、うまく発動しない。

 もう一度試すが、ダメだ。


 ゼノ・セラーとコロポックル女はコロッセオを見下ろし、俺を見ると、薄気味悪く笑って、瞬く間に消えてしまった。


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