第104話 スルメの冒険・その9
冒険者協会へ戻ると、魔闘会のお祭り騒ぎばりに野次馬が集まっていた。協会の人間が怒声を上げながら人員整理をしてようやく中に入れる道ができるほどだ。
三次試験が終わると成績発表があるからな。野次馬連中の賭け券を見る目が血走っている。
三次試験は指名を受けたメンバーだけ現役冒険者と一対一の戦闘をすることになっている。呼ばれたのはゼノ・セラー、ガブリエル・ガブル、エリクス・サウザント、アメリアさんの四人だ。この時点で四名が上位得点者であることは間違いない。
この個別戦闘は誰も見ることができない。技の秘匿が主な理由だ。
クソ狼人ガブル、エリクス・サウザント、アメリアさんが終わり、ゼノ・セラーが試験会場へ入っていく。すると、三十秒もしないうちに神官オンナ男が涼しい顔をして出てきた。
出てくんのはやくね? 緊張して便所か?
「便所ならあっちだ」
親切で教えてやると、ゼノ・セラーはにこにこと笑顔のまま会釈をして、付き人らしきメンツのところへと移動する。
なんだあ? なんか癪に障るな、あいつ。
あと異様なまでの胡散臭さを感じるのは気のせいか?
「で、どうだったよ?」
結果発表をカウンターの前で待っているサツキに質問した。
サツキは自信ありげに胸を張ると、背中に垂れていたポニーテールを片手で持ち上げて、右肩に乗せる。髪が長いからできる芸当だな。
「壁際から百メートル付近まで行けたから期待していいと思う。そういうスルメはどうだったのよ」
「オレは余裕だ。余裕」
「そんなこと言ってCランクになれてなかったら怒るわよ」
「大丈夫だ」
「…心配だけど信じるわ。あなたって何だか土壇場で強そうだもんね」
「あたりめーだろ。男が大丈夫って言ってんだ。大丈夫なんだよ」
「何それ。根拠が全然ないんだけど」
「そんなもんだ」
「どんなもんよ」
「男に二言はねえってことだよ」
「スパイシィィィイ!!」
突然、テンメイがオレとサツキに向けてカメラのシャッターを切った。
「なんだよ急に! 心臓にわりいな!」
「ああ、申し訳ない。ついね」
「どう“つい”なんだよ」
「いやあ何ていうのかな。唐突に婉美の神クノーレリルが微笑みを分けてくれたかのような、かけがえのない温かさを感じたんだ。あ、いや、その表現では誤解を生んでしまう。恋慕の神ベビールビルが朝ぼらけのなか湯浴みをし、それを嫉妬の神ティランシルが覗き見て暗い情念を憶えるが最後は契りの神ディアゴイスに諫められて改心するようなそんな心情になった――」
「だあああっ! うるせえよ耳元でピーチクパーチク!」
「これでもだいぶ噛み砕いているんだけど?」
「わかるかっ!」
「スルメ…テンメイ君のそれに付き合っていると疲れるだけよ」
「ああ、ちげえねえ…」
「君たち、ちょっとひどくないかいその言い方は?!」
「みんな、結果発表が来たよっ」
エイミーがオレ達の肩を叩いて冒険者協会のカウンター上を指さす。
協会の職員が二人がかりででかい用紙を持ってきて、脚立に上って順位表を貼り付ける。
「さあさあ皆さまご覧あれ! 第402回グレイフナー王国首都グレイフナー冒険者協会定期試験の結果発表がついにきたぁ! さあ一位はどいつだ! 賭け券はハズレても投げないようにお願いしまぁす!!」
―――バンバンバンバンッ
賭け屋のハリセンが建物中に響き、否が応でも期待が高まる。
高額を賭けたであろう連中が両目をかっぴらいて、順位表を見つめる。受験者が生唾を飲み込み、自分の点数と順位を確認しようと見やすい位置へ移動した。
オレ、ガルガイン、サツキ、エイミー、テンメイ、アメリアさん、沿海州出身で現役シールドのジョン・ボーンも加わり、全員で結果表を見つめた。
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冒険者協会定期試験
(グレイフナー王国首都グレイフナー・第402回)
参加人数389名
Sランク(1000~980点)
―――――――――――――――――――――――――――――
1位 ゼノ・セラー 995点
Aランク(979~750点)
―――――――――――――――――――――――――――――
2位 ガブリエル・ガブル(冷氷のガブリエル)883点
3位 アメリア・ゴールデン(爆炎のアメリア)879点
4位 エリクス・サウザント(白光のエリクス)876点
5位 ロー・マウンテン(木盾のロー)801点
6位 ササラ・ササイランサ(シールド第一師団)796点
7位 イッチー・モッツ(巨木のイッチー)792点
8位 ターキー・ワイルド(情熱のターキー)788点
9位 センティア・ライスフィールド 780点
10位 ラッキー・ストライク(幸運のラッキー)777点
11位 ヴァイオレット・サークレット 758点
12位 ジョン・ボーン(シールド第二師団)756点
Bランク(749~650点)
―――――――――――――――――――――――――――――
13位 ・・・・・・・・・・・・・・・・
14位 ・・・・・・・・・・・・・・・・
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30位 サツキ・ヤナギハラ(グレイフナー魔法学校首席)652点
Cランク(649~500点)
―――――――――――――――――――――――――――――
31位 ・・・・・・・・・・・・・・・・
32位 ・・・・・・・・・・・・・・・・
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40位 エイミー・ゴールデン(Eimy専属モデル)592点
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・
55位 ガルガイン・ガガ 550点
55位 ワンズ・ワイルド(スルメ)550点
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・
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76位 テンメイ・カニヨーン(Eimy専属カメラマン)500点
Dランク(499~400点)
―――――――――――――――――――――――――――――
77位 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
78位 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・
・
・
118位 ベスケ・シルバー(ヅラ) 401点
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うおおおおおおおっ!
全員Cランク以上達成ッ!
「一位はなんんんんと! 995点! ゼノ・セラー! さあ賭けた奴ぁいるかぁっ!」
賭け屋が腕の血管が切れんばかりにハリセンでテーブルをぶっ叩く。
やべえええええええええええええええええええ。
995点だと!?!?
現役時代のアメリアさんでも910点が最高ってさっき聞いたけど、それより上ってことか!?
あいつまじで何者だよ!
やべえ。ぜってーやべえ奴だよあいつ。
つーか落雷魔法がどうちゃらこうちゃら聞いてきやがったけど、リアルに複合魔法を探してんのか?
「995てんッ!?!?!?!」
「俺の五百万ロンを返せーーーーーっ!」
「ふざけんなぁ!!」
「うちのパーティーにスカウトしろっ。早く!」
ぎゃーぎゃーと野次馬から悲鳴が上がり、賭け券が宙を舞う。
肝心のゼノ・セラーはどこを探してもおらず、騒ぎを嫌って消えたらしい。
あとでアメリアさんに聞いたら、ゼノ・セラーは二次試験中に黒魔法上級“
セラーと名が付いてあの強さ。おそらく、というか十中八九、セラー神国の回し者で、身分が相当上にある人物だと予想されんな。部下のような信者のような奴らが十人ほどゼノ・セラーの周囲を取り巻いていたから間違いないだろう。
一応、アメリアさんに「落雷魔法を使える少女の噂を聞いたことがあるか」という質問をされたことをさっき伝えておいた。すげえ眉間に皺を寄せてたな…。
「見て見てみんな! 全員Cランクだよっ。サツキはBランク! よかったぁ~」
そんなことを一瞬考えていると、エイミーに肩を叩かれた。彼女は全員の成績を見て嬉しそうに飛び跳ねている。
相変わらず美人っぽくない行動をする奴だ。まったくいつでも―――
――――!?
――――ばいんばいん
――――!!!!!!???
な、なにかが胸のあたりでばいんばいん荒ぶってやがる。
エイミーが飛び跳ねるたびに、その二つの何かが重力に対抗してクッソ揺れるじゃねえか。アレこそ本当の化け物かもしれねえ…。クッソ、両目が吸い寄せられるぜ。
サツキがこっちを睨んでいるのは気のせいだろう。
「おおおおおっ! 戦いの神パリオポテスよ! 契りの神ディアゴイスよ! 神は我をお見捨てにならなかった! まさに奇跡ッ! これを奇跡と呼ばずして何と呼ぶんだっ。500点のギリギリ合格ライン滑り込みセーフ! 麗しのエリィ嬢の思し召しとしか思えない! テンメイ・カニヨーン、今ここにCランクになったことを宣言するぅ!!」
テンメイが喜びのあまりバカでけえ声でピーチクパーチク言って、全員と抱き合っている。エイミーと抱き合ったとき鼻血を大量出血させて死にかけていた。アホだ。
にしても嬉しいぜ!!
つーかテンメイまじでギリギリすぎだろぉ!
金の玉がヒュンってなったわまじで!
「エリィ救出隊、全員Cランク以上達成だぜッ」
「うおっしゃあ! スルメと同じ点数なのが不満だがな! あといい加減酒が飲みてえ!」
「待っててねエリィ」
「私が……Bランク…」
「エエエェェェェェェェェクセレントッ!!!」
オレたちは両手が赤くなるまでハイタッチをし、お互いを褒め称え、これから始まるであろうオアシス・ジェラへの冒険に向けて激励し合う。後ろではアメリアさんが満足そうにうなずき、優しい眼差しで拍手を送ってくれていた。
長かった地獄の訓練が今日をもって終了したんだ、とオレは思い、最後に言っておかなけりゃならない事案について叫んだ。
「せっかく修正した名前の横にスルメって付け足した奴ぁ誰だ! ご丁寧に括弧までついてるじゃねえかよ! 括弧スルメって何だよ括弧スルメって! オレはあのあだ名を認めた覚えはねえからな、まじでええええっ!」
メンバー全員が目を背けた。
っざけんなよ!
○
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