第76話 イケメン、ジャンジャン、商店街七日間戦争①
砂漠の国で一番楽しかったことは? と聞かれたら、俺は間違いなく『商店街七日間戦争』だ、と答えると思う。
あまりに凝縮された七日間プラス五日だったので、俺は東と西の商店街勝負のことを、『商店街七日間戦争』と呼んでいる。俺とアリアナ、ポカじい、コゼット、ジャンジャン、そして獣人三人組のギラン、ヒロシ、チャムチャムなど、商店街の面々のことを思い出すたび、あの一週間は怒濤だった、と笑みがこぼれてしまう。
大きなイベントや商談準備をしているビジネスマンみたいだったな、と日本がちょっとばかし懐かしくもなった。
商店街七日間戦争の序章は、勝負開始日の五日前から始まった。
○
商店街七日間戦争・五日前――
俺たちは改装をした治療院に集合していた。
ステンドグラスが新しくなり、ボロボロだった床がしっかり修繕されている。中は教会を彷彿とさせる造りになっていて、映画で見たことのある古い教会とほぼ一緒の内装だ。違う箇所はオルガンや天使の像がなく、代わりに診察台や治療器具があることだろう。
「ということで、今日から商店街勝負終了の日まで、治療院を格安でオープンします!」
ジャンジャンを筆頭に、準備に携わってくれたメンバー十二名が拍手を送る。
「受付さん、準備オーケーね」
「はい、エリィちゃん!」
「会場整理さん!」
「オッケー!」
受付嬢は機転が利いて愛想のいい、クレームを起こさないであろう二十四歳、服屋の新妻。
会場整理には芯が強くて頼りになり、どんなことにも全力で立ち向かう二十六歳、桶屋の息子。
「治療士さんたち!」
「いいわよ~」
「いいぜー!」
「まかしとけ!」
「頑張りますエリィしゃん!」
「ほっほっほっほ」
治療士は俺を含めて全部で六名。
まず、スーパーイケメンの俺こと最近痩せて可愛くなってきたエリィ。
使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“
『光魔法・下位の上級“
『白魔法・上位の下級“再生の光”』
次に、コゼットにベタ惚れのC級冒険者ジャンジャン。
使用可能魔法は
『水魔法・下位の上級“
冒険者協会からは、俺たちに散々いちゃもんをつけてきたときの悪さはどこへやら、唇がめくれ上がったビールことよい子のクチビール。報酬はいらないからエリィしゃんとデートがしたいでしゅ、とのこと。C級冒険者。
使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“
商店街で唯一光魔法が使えるお調子者男女ペア、マッツーニとボックル。二人会わせてマツボックリ。
使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“
最後に砂漠のスケベ賢者、ポカじい。
彼にはスーパーバイザー的なポジションにいてもらい、俺や他のメンバーの補助に入ってもらう。どうしようもない時だけ魔法を使ってもらう予定だ。
使用可能魔法は
『光魔法・下位の中級“
『光魔法・下位の上級“
『白魔法・上位の下級“再生の光”』
『白魔法・上位の中級“加護の光”』
『白魔法・上位の上級“万能の光”』
『水魔法・下位の上級“
『木魔法・上位の下級“緑の微笑”』
『木魔法・上位の中級“緑の浄化”』
『木魔法・上位の上級“緑の慈愛”』
『木魔法・上位の超級“緑の豊穣”』
その他、治療に使えそうな派生系魔法数十種類。どんだけすげえんだよ…。
「あとは“アリアナ遊撃隊”ね。まずは治療院の宣伝よ。東西南北を練り歩いて噂を広めてちょうだい。人が集まってきたら、たこ焼き屋と治療院のサポートに入ること。タイミングは私から指示を出すわ。私がいないときや手が離せない場合、遊撃隊リーダーであるアリアナが指揮を取ってちょうだい」
「まかせて…」
「了解エリィちゃん!」
「がんばるニャ!」
「よろしくお願いします。エリィちゃん、アリアナリーダー」
“アリアナ遊撃隊”はアリアナを含めた四名。
アリアナと獣人三人組の娘達だ。
狐、虎、猫、豹、四種類のケモノミミが勢揃いするという、キュートすぎて可愛さがインフレーションし、俺の脳内ケモノミミ株価が爆裂に上昇するという訳の分からない状態で、もう本当にどうにかしてほしい。しかも全員、背が百五十センチ前後とちっちゃい。四人が集合すると、きゃいきゃい、というか、きゃぴきゃぴ、というか、なんか見ているだけで顔がほころぶ。
年齢は十四歳から十七歳だ。
全員が薄手のヴェール法被を着てねじりハチマキを巻き、ギャザースカートにサンダルを履いた時点で俺の自制心は大恐慌を起こした。とりあえず我慢できなかったので全員の耳をもふもふしておく。
あー癒されるわーこれー。
「と、和んだところで作戦開始よ!」
「エリィ…耳のうしろもうちょっと触ってほしい…」
「エリィちゃん私の左の耳撫でてないっ!」
「撫でるよりつまんでほしいニャ」
「あ、あの…できればでいいのですが…もう少しだけお願いします」
なぜがおねだりをされ、狐娘、虎娘、猫娘、豹娘に囲まれる。
もふもふもふもふ。
もみもみもみもみ。
つんつんつんつん。
さわさわさわさわ。
「ん……」
「ひあっ!」
「ニャニャニャッ」
「わっふぅ」
あーこれ世界平和だわー。
癒されるー。
一日中こうしていたいが、今日から大事な決戦だ。
アリアナ遊撃隊が満足したようなので気を取り直して俺は口を開いた。
「……今度こそ作戦開始ッ!」
オウッ、よっしゃ、了解、など全員が気合いの入った返事をしてくれる。
いよいよ作戦がスタートした。
と、まあ勢いよく号令したものの、急に客が来るわけもなく、俺は治療院と路面販売をしているたこ焼き屋を行ったり来たりして様子を見ていた。
アリアナ遊撃隊の話を聞いて治療院に来る客はほとんどが軽傷者で、簡単に“
怪我人たちは半信半疑でやってきたようだったが、ちゃんと格安料金で治療を受けられて喜び、宣伝を約束して帰っていく。北東にある治療院は“
両者の料金表の看板はこういう表記になっている。
―――――――――――――――――――
北東の治療院
「光」
“
“
「水」
“
「白」
“再生の光”→75000ロン
“加護の光”→300000ロン(ジェラで使える魔法使いはいない。なぜか表記をしている)
※3倍の料金を払って頂ける方、優先致します。
※診断状況によって順番が前後する場合がございます。
※治療士不足のためお並び頂いても治療できかねる場合がございます。
※院内での犯罪行為は即刻警備兵に通報致します。
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
西の治療院
「光」
“
“
「水」
“
「白」
“再生の光”→20000ロン
“加護の光”→使用できません(重傷患者が来た場合のみポカじいにやってもらう)
※重傷・重体・危篤状態の方を優先させて頂きます。
※診断状況によって順番が前後する場合がございます。
※この格安料金は西の商店街の協力とご厚意により成り立っております。
※現在、正規の治療士は従軍しており一人もおりません。治癒は有志の方々によるものですので突然終了する場合がございます。
※上記を守れない方、納得できない方は利用をお控え下さい。
※院内で暴れる方には強制退去して頂き、その後キツイおしおきを致します。
―――――――――――――――――――
とまあこんな感じで、“再生の光”については五万五千ロンもの差額が出ている。あと、表示金額の三倍の金を払えば優先してやる、という北東治療院は一般人からは批難轟々だろうが、金持ちからしたら素晴らしいシステムだ。必要悪とまでは言わないまでも、治療士が少ないこの状況では必要なシステムなのだろう。
ちなみに後から文句を言われないよう、ルイボン14世から「何をしてもいいわよ。どうせ勝てないから」というお墨付きを、領主のサイン付きで書状でもらっている。なので、勝手に治療院を割引しても問題なしだ。
あの自信と豪快さはある意味すげえよ。まじで。
間違いなく治療院格安解放なんてやるとは微塵も思っていないだろうな。ルイボン14世のびっくりする顔が楽しみだ。
この日と次の日は合わせて五十名ほどを治療して終わった。
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