クイズスタウルヴルフルド

エリー.ファー

クイズスタウルヴルフルド

 日々の疲れが少しずつ、染み出してくる路地裏の真夜中。

 乾ききった憂鬱だけが、今の俺を静かに締め付ける。

 何もしらずそのまま帰って来なくなった歌舞伎町の午前零時の魔物たち。

 あいつらを知らぬ存ぜぬで葬り去った政治だの、なんだのは俺には分からん。

 飲み干した酒の底で眠る自分と同じ顔の赤ん坊を。

 まだ何も知らないその笑顔で俺に甘えようとする赤ん坊を。

 何度も何度も繰り返し無視をしてきた自分の人生に。

 誰の祝福もないのは言わずもがなだけど。

 それでも見ていたい、この東京の星の下。

 それでも知っていたい、この東京の星の下。

 それでも泣かずにはいられない、この東京の星の下。

 考えなしに走りだせるほど、どうにも俺は子供ではいられないけれど。

 差別も、虐殺も、暴力も、不埒も、外道もやったのに。

 捨てきれない自分だけが今日も野ざらし。

 影を縫い付けてしまうはずが、喉元かっ切ってとち狂って候。

 お詫びの品も何もなく北風と共に歩く、裏通り。

 寄せては返す期待と裏切りの終着点。

 今、何度も忘れようとした東京タワーまでの道を行く。

 暗がりに足を取られ、明るさを少しでも捨ててしまおうと躍起になる。

 水辺に一人。角部屋に二人。

 孤独をかみしめるためにわざわざ都会を目指すことが自分の生き死にをリアルにしてくれる。

 姉も、妹も、父も、弟も、母親も。

 皆。

 亡くなった。

 皆。

 消えてしまった。

 皆。

 この都会に来ることができなかった。

 画面の中だけで綺麗なドキュメンタリーというコンテンツと。

 誰かに伝えることのできないリアルの繰り返しが、今も俺の半径一メートル以内で起きる真実。

 完全に道を外れたのに。

 まだ。

 自分は歌舞伎町の端ではなく、真ん中を歩けていると本気で思っている。

 しかも。

 それが。

 まともなのだと信じている。

 食えぬ食えぬと叫び倒して。

 呼べば呼べばと会わずとも分かる。

 凍えて死ぬか、生えて食うか。

 先んじて殺すか、哀れと思われ凍えて泣くか。

 いつになっても何も変わらない日本のどこかの裏道の常識が。

 時計の針のような当たり前の答えを持って国会議事堂の中で踊りだす。

 変更のきかない未来と過去の狭間で作り出した文化は、誰の目にも映りながら誰の手にも触れないままに形を変えていく。

 カルチャーやら文化やらストリートやらエロスやらグラフィックやらサウンドやら音楽やらを言葉で分断することに何か意味があったのか。

 分かりやすくなったことで、細分化された世界で横断できるものが藝事以外に何があるのか。

 糞喰らえ。

 完全にお前以外の人間の話をしている。

 完全にお前ら以外の人間の話をしている。

 右の指が全部吹き飛んだはずの片目の男が、微笑んだ先に渦巻く闇の中の紫煙。

 きっとそんな思いだけでは何もかも消えん。

 あいつを殺すために利用したエンターテイメントのための私怨。

 受け継がれなかったこの町の誇りとそのための支援。

 あんなに笑顔で楽しそうに体を売った女の子たちが、次の日の夜には手首を切り刻んで落下する東京の真夜中。

 あまりにも乖離した理想と現実が、いつの間にか首に巻き付いて離れない。

 その苦しささえ喜びに代わる頃には、きっと体と首の仲は悪くなっているに違いない。

 

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