最終話 そして語り継がれる

 その後は——。


 王都グランシエラに陽光が戻り、元のように賑やかな城下町が広がった。街の人々は魔王が去ったのだと囁き合い、のびやかに広がる青空を見上げた。


 静けさの残る王城には誰も居ず、結局は昔の王族が戻ってきた。しかし大変な苦労があったらしく、何処どこか気さくになった王様達に、人々は微笑みと尊敬を絶やさず、おかげでグランシエラは末永く栄えたという。




 風の便りには遠い異国の何処かに、様々な魔法道具を探してくる『探索者』がいると聞こえてきたものだ。


 なんでもお日様のような明るい雰囲気の調子の良い青年と、強力な魔道具を持つ魅力的な若い女性とのコンビで、なかなか成長しない双子の子どもを連れているという。


 双子はたいそう器用で、魔界由来の魔法道具や魔法雑貨を生み出しているそうだ。グランシエラにもそのうち店を出すらしい。




 それから、御伽噺おとぎばなしが一つ生まれたと聞く。


 なんでも伝説の魔道具『ウイスキー・フラワー』を持つ少年と相棒の少女のお話で、彼等は襲い来る魔物や謀略を、卓越した魔術と知恵で切り抜けて、やがてこの世界を護る世界樹の元へと辿り着く。


 そしてその根元に『ウイスキー・フラワー』を植えたから、この世界の大地が恵み溢れる豊穣の大地になったのだと伝えられる——そんな御伽噺だ。



「……これが、世界樹なのね」


「噂に違わぬ大きさだな」


 そう言いながら、少年は山を覆うほどもある巨大樹の根元に、小瓶から取り出した『ウイスキー・フラワー』を植えた。琥珀色の球体は大地に同化し、今はただ一輪の白い花が顔を覗かせているに過ぎない。


 やがて白い霧が流れて来て、世界樹はその姿を隠して行く——。





「なかなかにくだらぬ話だな」


「そんなこたぁないでしょう? 兄貴は立派に『魔力炉』の始末をつけましたよ」


「あれはわれが手にするべきものだったのだ」


 闇の色を基調とした豪奢ごうしゃな部屋からは真っ赤な夕暮れに似た空が見えた。部屋の中では魔族の青年と人間の老人が不気味な造形の駒を使ってチェスをしている。その脇に大きな水晶玉が置かれ、二人は遊戯の合間にそれを使って人の世を眺めていたのだ。


 水晶玉の中が白い霧に覆われて何も見えなくなると、青年はつまらなさそうにため息をついた。


貴方あなた様はどうも退屈らしいですな」


「……お前とのチェスはそこそこ楽しんでいるつもりだが」


「ははは、お戯れを。ほれ、王手ですぞ——」





 完





◆フルヴラ・ドミタナス……冒険者。世界の果てまで旅したと伝えられる。『勇者』と彼を呼ぶ人もいたが、彼はそれを拒否し、「我が弟こそ『勇者』である」と弟の勇気を褒め称えたという。


◆モリー・ホータス……魔法使い。

薬草をから回復薬や魔法薬を作り出す『賢き女』の一族にしてその長となり、多くの著書を残した。若い頃、旅をして世界樹の葉を手に入れた唯一の人物となる。


◆アナベル・ポータス……『道具士』

誰をも魅了する、心優しき女性。若い頃にこの世に降りた魔王であったとか、魔王に求婚されたとか噂が絶えない。独学で『道具アイテム』の事を学び、人々に正しい使い方を広めたという。


◆フリギット・ポータス……『探索者(?)』

南国の生まれを思わせる彫りの深い容貌と太陽の様な人柄から女性にモテたと伝えられる。『探索者』としての腕前はいまいちだが、妻とその子ども達を大切にした。子ども達の一人は『ドミタナス魔法雑貨店』を再開させ、代々続いたその店は今も同じ場所にあるという。


◆プフ……『魔法道具製造士』

猫のような瞳にギザギザの歯。魔族の双子の片割れ。アナベルに名前を貰った。魔界寄りの魔力が強いので、この子の造る魔道具は強力だが扱いに注意を要する。


◆ノアロー……『魔法道具製造士』

猫のような瞳にギザギザの歯。魔族の双子の片割れ。アナベルに名前を貰った。プフに同じだが、悪戯心から秘密のギミックを組み込みたがる。それが使用者の命を救ったとかそうではないとか……。


◆エル・ケーニッヒ……『魔王』

いまだ魔界を統べる王であると伝わる。二百年ののちに人の世を訪れて、グランシエラの『ドミタナス魔法雑貨店』に買い物に来た。店主がアナベルに似ていた為、求婚するも追い返される。


◆ジャロック・ドミタナス……『語り部』

後の世には『勇者』として名前が伝わるが、それ以外は不明。同じ名前が魔界にも伝わっているが、そちらは魔王に使えた人物とも友人であったとも言われる。




「さてさてこれにて物語はお終い。またいつかどこかでお会いしましょうぞ」




 ◆次回 あとがき

 どうぞお付き合いください。

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