第3話

そんなやつが私の目の前に立っているのだ。


――えええっ!


思わず逃げようとしたが、体は全く動かず、声を出すことも出来なかった。


するとその半獣半人が言った。


「騒がれては面倒なので、動けないようにさせてもらった」


流暢な日本語だが、その声は低くてどこか人間離れした声だった。


「さすがにしゃべれないのは不便だな」


そいつが私の顔の前で手を振った。


その手は人間の手に似ていたが、肉食獣のような爪が生えていた。


「これで話すことが出来る。叫んだり大きな声は出せないが」


「あっ、あんたいったい、何者なの?」


「私か。私は悪魔だ」


「悪魔ですって。まさか」


「おや、この姿を見てもまだ信じられないのかい。まあ、そういうやからは珍しくないがな」


そう言うと、そいつが目の前から消えた。


そしてそいつの巨大な顔だけが現れたかと思うとそれも消え、次にはそいつがいきなり十人ほどになり、瞬時に元に戻った。


「これで信じてくれるかい。少なくとも人間にはこんなことは出来ないだろう」


「……」


「どうなんだい。信じるのかい信じないのかい?」


「しっ、信じるわ」

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