第4話「文化祭どうする?」
いつもの放課後。僕らは教室に集まってテキトーに近くに座っていた。
今いるのは菱谷さん以外の全員だ。
「マコちゃんおそいねー」と塔崎さんがつぶやいた。彼女は塔崎清(とうさき すみ)という。のんびりとした口調といつもほんわかな表情が可愛い感じの女子である。
「そうだね」と僕。
「あの子今日委員会で会議あるから遅くなるわよ」と長村さん。
「文実だっけ?」今年は菱谷さんと同じクラスなので知っている。
「そ」
「てか、うちの文化祭ってさークラス単位での参加しなくていいわけじゃん?」と太田が言う。
「そうだね」と僕が応える。
「みんなは部活とかで参加する感じ?」確かに疑問ではある。僕は個人で参加するつもりだけど。
「太田君はサークル参加するの?」と塔崎さんが聞いた。
「んや~一般参加」
「もったいないなー」
「そか?」
「だって、一般参加は卒業してもできるじゃんさーでもサークル参加は在校時にしかできないのでありますよぉ」塔崎さんの喋り方は特徴的で、文章に起こしても誰かわかると思う。
「んーでも文化祭とか興味ないしなー」
「覇気のねえ子供たちだなぁ」と富岡。
「覇気がないのは太田だけでしょ。一緒にしないでくれない?」と長村さん。
「長村さんはなんかやるの?」
「んーDTMで作った曲を・・・こう。なんかする予定」
「ふわふわしてるなぁ」
「川井君は?」
「僕?僕は同人誌作って配布かな」
「どんなの作るの?」
「自費で無料配布の予定だからそんなページ数のない感じ。短編とか書くつもり」
「へぇーすごいね」
「僕からしたらDTMの方が凄いけど」
「まぁ、小説よりは初期投資はかかってるけどね」
「塔崎さんは?」
「私はアニメつくる」
「アニ研じゃないじゃん」という太田のツッコッミに「うちにアニ研なんてないよ」と長村さん。
「うん。有志によるアニメなのだ」
「どんなのやるの?」と僕。
「決まってないのだぁ」
「それはまずいんじゃない」
「そうなのだーやばいなの。でもでも思いで作りたいぜってかんじでさーみんなに相談しようと思ってたの」
「まぁ、せっかくの文化祭だからね。思い出に残るものがいいよね」と僕。
「あ、そうだ」何か思いついたような長村さん。
「脚本さ」と長村さんが僕を見た。
「川井君が書けばいいんじゃない?」
「え」
「おーそれはいいかもぉー」と乗り気な塔崎さん。苦笑いが出る。
「面白そうではあるけど。責任持てないよ」
「とりあえず話だけ。話だけ聞いてもいいんじゃない?」
「でさ、音楽とか私がやるのはどう?」
「いいのなっちゃん?」
「うん。いいよいい。この際だからうちらのメンバー全員参加しない」どんどん話が進んでいくが。
「それは塔崎のサークルのほかのメンバーの了解もいるだろ」と太田がブレーキをかける。
「あ、大丈夫」と塔崎は軽い。
「何が?」
「他のメンバーマコちゃんと伊出先生だから」
「ただのいつものメンバーじゃん」
「んじゃもう話は決まったようなものね」と長村さんはかなり乗り気だ。
「僕が脚本で、長村さんが音響なのはいいけど」
「監督兼原画兼動画はマコちゃん」
「あー菱谷さんアニメ好きだもんねー」と太田。
「アニメーター志望だからの企画なわけかぁ。こりゃ面白くなってきたな!将来、有名監督になった時にさ、俺たちインタビューされたりしてな。あの監督の学生時代の伝説的短編アニメとか」と富岡が盛り上がっている。
「話を盛りすぎ」と僕はくぎを刺す。
「でもとなるとさ」と塔崎さん。
「私らいらなくね?」と言って太田と富岡を見た。
「「確かに」」
「第一回いい。スタジオ菱谷のアニメーター採用試験を行いますぅう」と塔崎さん。
「何が始まるんだ・・・」
「今から私たち三人は制限時間内に絵を描きますそれで動画マンになれるか判断しよう」
「おう。俺の力を見せてやるぜ」と根拠のない自信満々な富岡。
「望むところだぁ」と太田は緩かった。
30分後。
「何これ。心の闇なの?」
三人の上げた絵はとてもではないが採用できないレベルだった。
「まぁ、最初から分かってたことじゃない。富岡には最初から期待してないわ。富岡には特に。まぁ、言うまでもないけど富岡の画力は最初から分かっていたわけだから」と長村さんは富岡に厳しい。
「さっきから俺だけ攻撃されてる気がするぞ!。三人とも同罪だろ!」
「まぁ、雑用でも何でもさ。仕事はあると思うよ」と僕。
「下手な慰めはやめろおおお川井ぃい。俺たちは役立たずなんだぁあ」
「いや、川井のいうことには一理あるぞ」と太田。
「というと?」と塔崎さん。
「聞けばアニメを作るには制作進行という仕事があるらしい」
「五分くらいのアニメ一本作るのに三人も進行いらないでしょ」と長村によって粉砕。
一同沈黙。
シーンとした空気に誰も言葉を発さなかった。
その時。
「話は聞かせてもらった」と声。
ガラ。
見ると引き戸が開き菱谷さんっていた。
「マコちゃん」
「お疲れ」
菱谷さんは僕らのところまで来ると「私のアニメ企画が私のあずかり知らないところで進んでいるとは思わなかったよ」
「ごめんマコちゃん勝手なマネして」
「いいよ。どうせ近いうちに相談するつもりだったし」言いながら机に腰を下ろした。
「で、大体状況は伝わってるみたいだからぶっちゃけるけど。ほとんど決まってない」
「夏休みがあるとは言ってもかなりやばいんじゃないか?」
「うん」とあっさり。
「コンテとかは描いてるの?」と僕が聞くと。
「んにゃ。私動かしたいだけの人だから。動き以外の能力がない」
「んー私も手伝いたかったんだけどーさー絵描けないし、お話も作れないし・・・困ってたんだ」
「なるほど。でも思ったんだけど、無理して話にしなくていいんでない?」
「というと?」
「例えば、走ってるシーンとか爆発するシーンとか格闘シーンとかだけでもアニメって成立するんじゃないかな?」
「・・・そうだね。そうなんだけど。さ。完成度の高い。作品を作りたいんだ。練習作じゃなくて」と菱谷さんは言った。それは望みが高すぎなのではと正直思った。その時。
「いいね!その野望。野望は大きければ大きい方がいい!!俺は乗ったぜ!」と富岡。
「んーま。サークル参加の申請は夏休みの後だからやってみてから決めてもいいんでない?」と長村さん。
「そうそう。何よりもまず、やる気が大事だと思うのです」
「音楽は使う?」と僕が問うと「できれば」
「んじゃ、なんかミュージックビデオとかそんな感じのやつ作るとかは?」というと「ぽん」と手を打った。
「あーそれは盲点だったかも。なるほど。それなら五分くらいで一つの完結した作品になるね」
「ストーリーも説明的じゃなくていいし」
「音楽の出番だね」と長村が腕を組みながら言った。
「MVだったら、全部アニメである必要もない・・・な」と菱谷さんはつぶやいた。
「なるほど。実写にアニメをはめ込むのか」
「そうそう。これなら作画カロリーの高いのを見せ場にバンっと出せるかも。それでいて手抜きに見えない。一石二鳥だ」
「んじゃー今日はアイディア出ししようよぉ。せっかくいい感じに暖まったからさぁー」
「もちろんいいよ」
「もち」
「てか、話聞いた時からそのつもりだったぜ」
文化祭まで二か月。
その時の僕らはまだそれが実に甘い考えだったかを知らないのだが・・・それはまた別の話。
●了
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