逮捕された話#9

拘置所を出てからの話の続き。


僕は拘置所を出たその足で弁護士事務所へ向かった。そこで、約2ヵ月ぶりに仕切りのないところで彼女と会った。


泣かれました。とても、とても、泣かれました。


僕は泣いたかどうかは覚えてないけれど、そんな彼女を見て、本当に申し訳ないというか、なんともいえない気持ちになった。

そして、二人で弁護士さんにお礼を済ませて、弁護士事務所をあとにしました。


彼女は、会社の人から言われた、やることリストみたいなものを持っていて、僕に見せてくれた。

通帳の銀行印を変えたり、住民票を取ったり、そして一番は、僕が拘置所から出た後のために会社が用意してくれていた賃貸の家を見に行き契約をするということ。

今思えば、本当に僕は恵まれていたと思う。

僕が拘置所にいる間、母親が会社に行って散々僕のことを言い回っている、と弁護士から聞いていた。

だから、本当のことを知っていたはずなのに、僕のことを守ろうとしてくれていた。


でも、僕は弱かった。なんでだろう、僕のために会社から言われて、その通りに動こうとしてくれている彼女に対して、僕はその日最悪の態度を取ってしまっていたと思う。

結局、拘置所にいる間は会社に戻るとか考えていたけれど、いざ出てことが進んでいくと、僕は怖じ気づいたんだと思う。

今まで隠してきた部分全てを知られてしまった訳だから。もう戻れないって。いや、戻りたくないって。

そんな思いを彼女にぶつけてしまった。


結局、家は見に行ったけれど、契約はせず、会社がしばらくの間泊まるとこを予約してくれていたのに、そこに泊まることもしなかった。


その日の別れ際も、彼女にたくさん泣かれた。

その涙は、弁護士事務所で会ったときの涙とは違っていたと思う。


本当に情けないし、弱いし、最低な人間だと改めて思う。でも、思うだけでそれをなんら行動で表すことができなかったのだから、なんにもならない。


結局僕はそこから、お金が尽きて生活保護申請に至るまでの間、スロットをし、ネットカフェやカプセルホテル、車中泊をして過ごす毎日を続けた。

その間も彼女とは会っていた。会うたびに、会社に戻ってやり直してほしい、とお願いされた。彼女は本当に、本当に、こんな僕なんかのことを真剣に思ってくれて、最後まで寄り添ってくれた。


はっきりとした別れがあった記憶はない。けれど、どうなるかわからず、心配ばかりするのは辛い、って言われて、結局それが終わりだったんだと思う。

当たり前だよね。むしろ、本当に最後まで自分のことを考えてくれて、感謝しかない。同時に、逃げてしまって申し訳ない気持ちでいっぱい。

でも、さっきも書いたように、思うだけで僕はなんら行動で示すことはなかった。


きっとこんな自分のことを思ってくれる人とはこの先く出会うことはないだろうなぁって思う。

今でもたまに心配をしてたまに連絡をくれるけれど、きっとそれも良くないことだと正直僕は思ってしまう。


なんか本当に無責任な言い方になってしまうけれど、立派な人と出会って、幸せになってほしいなって。

自分なんかとは生きる世界が違うと思うから。


うん。なんかうまく書くことができなかった。


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