能ある者は身を隠し

嶺咲よと

月暦1 少年少女の放課後映画

「鬼狩りだ。■■様がお側で飼いならしていたと。」

「殺してしまえ。鬼も■■様も。」

「高貴な身分の方々は何をお考えなさるのか。いっそのこと滅びてしまえ。」



* * *



「面白い映画だったねー!」



満面の笑みでかなり満足した様子の少女が後ろを振り返り、すでにポップコーンが入っていないごみをさりげなく渡す。



「そうだね。流罪になったあとが気になってモヤモヤ感は残るけど…。」



凛とした少女はポップコーンのカラを嫌そうな顔を一切見せずに受け取ったが、満面の笑みを見せていた少女に手刀が加えられた。



「いったあ~い!若ちゃんひっどーい。」


「大して痛くないだろ。お前はリアクションがオーバーなんだよ。」


「若ちゃん、まだ私のこと名前で呼べないの~?お前じゃなくてこはくちゃんって呼んでみなよ☆」



満面の笑みからにやけ顔をし始めた少女、こはくの態度にイラつき始める少年。



「自分で言ってて恥ずかしくないのかよ。宮浜はお前で十分だ。」



宮浜こはく、まっすぐで長い黒髪を下のほうで二つに結んでいる。

無邪気という言葉は彼女のために作られたのではないかというほど似合っている。



「若倉、宮浜を騒がせるな。人様に迷惑がかかる。」


「そうだぞ有理。そこの頭のねじ外れたヤツをどうにかしてくれ。お前、保護者だろ。」


「星合も陽太もなんであいつの肩を持つような言い方を…こんな面倒なやつの保護者な訳あるか。」



若倉有理、このなかではしっかり者の兄貴というような印象だが、宮浜によくいじられているせいなのか、ほかの人ともそういう関わり方をされる。なんともいたたまれない人だ。本当は女子たちからひそかに人気な彼なのだが、周りの男子共が教えてあげていないため、本人はラノベ主人公になりたいとよくほざいている。



「星ちゃん、星ちゃん、靴下左右違うよ(笑)」


「あ、ほんとだ。松風、ほんとよく気付くよな。」


「いや、桜都がよく見てるっていうより、星ちゃんが全く見てないんだよ。」


「捺記はやっぱ天然なんだよなー。俺はそんな捺記が好きだけど♡」


「…きもい。」



星合捺記、この中で一番頭がよく、冷静沈着、多彩な分野で秀でているが、どこか抜けているところがあり、何を考えているのかよくわからない変人扱いをされる。

松風桜都、見た目の説明からしたら速いだろう。背が低く、なだらかな胸を持ち、頭のサイドは編み込みを、最後にお団子で長い髪をまとめている。

目は大きく輝きを放っている。色白で幼い顔つきをしていて一見とても優しそうに見えるが怒るとかなり怖いらしい。普段からだいぶ優しい。そんなこんなで、彼氏持ち。



「きもいって言葉も一周回って誉め言葉だから。」


「山岸、その考え方絶対やめたほうがいい。」



山岸に対しての心配が込もった星合のアドバイスに、山岸はちゃんと察した。



「こんなこと言うのは捺記にだけだからいいんだよ☆」



山岸陽太、とにかく捺記が好き。社交的でコミュニケーション能力が高く、教師たちに好かれるタイプ。

眼鏡をかけていて真面目そうな雰囲気を出しているが、真面目と書いて"きもい"と読めそうな変態紳士である。そのため女子からはそれ相応の評価をされている。

男子からはかなり評価が高い(なんの評価だ)。



「山ちゃんが私の☆をマネしたぁ~!」



宮浜の語尾に☆が付くのは本人的にはトレードマークみたいなものだと主張する。

が、山岸は先ほどの星合に向けていた表情の真反対で宮浜を見る。



「おい、そこ。山ちゃんって呼んでんじゃねぇ。」



山岸の特徴を追記すると基本的に宮浜へのあたりが強い。何があったのかは知らないが、もう一度言う。

宮浜にだけあたりが強い。



「みなっちゃーん!山ちゃんが怖いよ~」



宮浜は自分のポップコーンのごみを回収してくれた少女に助けを求める。



「こはく、あんたが悪い。」


「よく言った世凪…」


「山岸に褒められたくない。」


「…なんで…なんでだよお、水芽!!」


「気安く下の名前で呼ばないでくれない?」


「酷い…」



世凪水芽、姉貴と呼ぶにふさわしく、この中で唯一のまともな人である(たぶん)。

世凪が宮浜を甘やかしてきた張本人。たまに毒舌なところもあり、凛とした性格をしている。何があったのかは知らないが山岸には冷たい。

一行は映画館から退出し、最寄りの駅へと向かって歩いた。

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