035 特殊性癖、俺は比較的まとも
「特殊な事故物件……? 俺のバカな頭でも分かるように教えてくれ」
「そうだな……。先ず、家を借りたいって言っているお嬢さんは、そもそも事故物件でも大丈夫なのかい?」
濃月さんが、さくもに尋ねる。
「ええ、あたしは事故物件でも気にしないわ。安ければ何でもいいの。ストゼロさえ飲めれば十分よ」
「そうかい……。それは頼もしい」
濃月さんは立ち上がり、腐りかかったような木の本棚から、色褪せた分厚いファイルを引っ張り出した。埃がぶわっと舞って、鼻がムズムズしてきた。
「えーっと、この近くにも、ちゃんとあるよ……。刺激的な事故物件がね……」
ページをぺらぺら捲る濃月さんの手が、ある所でピタリと止まった。そして、そのページを開いたファイルをさくもが座っている正面へと置いた。俺も内容が気になったので覗き込む。
「場所は、帯人2丁目……。帯人高校までは歩いて5分。距離は問題無いはずだ。築13年だが、2LDKで家賃は1万円。敷金無し……」
なん……だと……?
レオパレスに住んでいる俺は一体何なんだろう。高い家賃を払った上で、壁が紙みたいな家で生活しているのだ。事故物件とは言えど、俺も引越しを夢見た。
「ええ、良いわね。あたし、ここに決めたわ」
さくもは即決だった。
「おい、さくも……! いくらなんでも怪しいぞ! 事故物件って、一体ここで何があったんだよ!?」
俺は、真実を知りたかった。
「お嬢さんが知りたいのなら答えよう……」
何故か、濃月さんの瞳孔が開いている。口元も緩み、明らかに興奮しているのが分かる。
「興味無いけど、念の為聞いておこうかしら。幽霊が出て、あたしのストゼロを飲んだりしたら大変だから……」
「多分、君らが生まれて3、4年後ぐらいの出来事だったかな……。そこは、大量殺人があった部屋なんだ」
聞いたことがある。日本の歴史上、トップに入るレベルの大量殺人が、かつてこの帯人町であったのだ。まさか、その部屋が……。
「犯人はとある少年だった。被害者は、十代から二十代の男性合わせて17人……。亡くなった人達は、皆、美形だったらしい。しかも、全ての遺体に共通していることがある。何だか分かるかい? 首だよ。全て、首が切断されていたんだ!」
濃月さんの一定だった声のトーンが、ここに来て最大値を記録した。事件の話になった途端に豹変した。いや、正確に言えば、「首」と言うワードが飛び出て来た時からだ。
「私が扱う物件では共通して、バラバラ殺人があったのさ!」
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