034 事故物件専門不動産屋、俺は怖い
充子は、多分あの夜の秘密を知っている。即ち、亜房先生の本当の性別と、俺と亜房先生の真夜中の大運動会を……。
このタイミングで言ってくるなんて恐ろしい。
「あそこよ……」
さくもが立ち止まり指差す。ボロい木造アパートの1階部分にそれはあった。本当に学校の裏側だが、知らないと見つけられない場所にある。山も近いせいか、空気が他より冷たい。
「りんごくん、何だか気味が悪いわ……」
充子は、俺を盾にする。
木の看板に、『濃月不動産』と書いてあった。腐りかけていて、軒下には蜘蛛の巣が張り巡らされている。時代に取り残されたような建物だ。ドアも、昔の学校みたいなガラガラのスライド式である。
さくもが、それを開ける。
「失礼します」
さくもに続いて、俺らも中に入る。中の灯りは、天井から豆電球がぶら下がっているだけだった。
「お、久しぶりの客だね。
木のカウンターの向こうに、長髪細身の男性がいた。亜房先生を細長くしたような人である。つまり、女性のような美しさも兼ね備えているのだ。しかし、背が高い分、可愛いよりもカッコいい成分が強い。
「へい、
「ああ。椅子になってやってくれ」
炭崎と呼ばれる筋肉の塊みたいな男性は、俺の前で膝をついて丸まった。要するに、俺に座れと言うことらしい。
「さあ、お客さん。遠慮なく座ってください」
濃月さんは立ち上がり、椅子を指差して座るように促した。充子とさくもは木の椅子に、俺は謎の男、炭崎の背中に座る。
「ようこそ、私が濃月不動産代表の濃月です。本日は、どのような物件をお探しに?」
今気付いたが、濃月さんは右腕だけに手袋をしている。
「おや、そこの可愛い少年。私の腕に異変でも感じましたか?」
「あ、いえ、すみません」
「いいんですよ。普通気になりますよね? これは、義手なんですよ。ちょっと昔ね、やってしまいまして……」
そうなのか。義手なんて、実際に見たのは初めてだ。
「あたしが家探しているんだけど、出来るだけこの辺りで、安い所は無いかしら?」
「君たちの制服は、
「ええ、一人暮らしだから、とにかく安い方がありがたいの」
「仮にそれが……事故物件だとしてもだね?」
濃月さんの目が怪しく光った。
「事故物件!? それ以外に安い所は無いのかよ?」
俺が尋ねる。
「無いよ。私らは、事故物件専門の不動産屋さ。それも特殊なね……」
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