018 温泉街、俺は熱い温泉は苦手
亜房先生は、適当な駐車場を見つけ、ついに長いドライブの時間は終わりを告げた。
「ありがとう、亜房先生」
「いいえ。さあ、楽しみはこれからだよ。行こうか」
俺は、亜房先生にお礼を一言告げて、車の外に出た。山中だからか、俺らの生活圏内より気温は一段と低かった。暑くもなく、寒くもなく、旅行するには最適な温度である。
そして、温泉街ならではの硫黄の匂いがする。
「この道沿いを歩けば、色んなお土産やらグルメやらも満喫出来るよ。ボクらの泊まる宿は、この道の一番奥……山の
石畳の一本道、賑わう店の数々がずっと先まで続いていた。
「さあ、飲みながら行くわね」
ずっと我慢していたさくもであったが、とうとう常備していたストゼロを開けた。やっぱり、りんご味だ。
「ぷはぁー、やっぱストゼロは最高だぜぇ! 行くぞ、お前らぁ! かんぱぁい!」
さくもは、何故か俺の隣にべったりくっついて来た。
「お、おい、さくも……止めろって」
だって、充子の目の前なのだ。
「りんごくん、逃げて……その女のフェロモンが付いちゃうよ?」
充子は、さくもを睨みつけていた。
「ほら、さくもちゃん。今日は、ボクが付き合うから? こっちおいでよ」
見兼ねた亜房先生が、さくもを俺から引き剥がした。亜房先生がさくもと腕を組み、まるでカップルの様な体勢で歩き始める。亜房先生は、中性的な見た目をしているし、ボクっ娘だし、周りから見ればカップルと勘違いされても不思議ではない絵面だ。
「ほら、亜房先生も一口飲めよ!」
「え、ボクと間接キスになっちゃうよ?」
「いいじゃねぇか! 女同士、気にすんな! かんぱぁい!」
亜房先生は、さくもの飲んでいたストゼロを一口ぐびっと喉に流し込む。
「美味しいね。ありがとう」
「だろ!? 亜房先生、味が分かるねぇ!」
意外と二人の波長が合っているように感じる。
「りんごくん、なんか私、悔しいな……。見せ付けられているみたい……。りんごくん、腕組んで」
「ほ?」
「早くしないと、私、死んじゃう……」
「腕?」
「私、本気だから……本当に死ぬよ?」
よく分からないが、俺は、りんごに腕を差し出した。遠慮なく、しがみ付いて来るりんご。
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