007 朝からストゼロ、俺は幼馴染とファーストキス
「どうしたんだよぉ、りんごぉ?」
立ち上がろうとするさくも。
俺は、咄嗟に「立つな」と酔っ払ったさくもにジェスチャーをする。しかし、俺はバカだからジェスチャーと同時に、口の方も「立つな」と確かに動いてしまった。
その間充子は、ジッと俺の動きを見つめていた。
「死ね」
今、充子の口がそう動いた。決して笑顔を絶やさないまま。そして充子は、何事も無かったかのように電柱の陰からひょっこり出てきて、その場を去って行く。制服姿だし、バッグを手に掛けていたので恐らく普通に登校するのだろう。
「何だよ、りんご!? 朝からどうしたんだ! 学校行く前に乾杯しようぜぇ!」
乾杯どころじゃない ——
「お? 何だ、その窓の黒い粒粒は?」
タピオカだよ ——
ちょっとよく分からないが、結構なレベルのホラー体験だ。これがタピオカじゃなければ、俺も恐怖で失禁していたかもしれない。
「俺、朝、学校に用事あるから、さくもは後で来てくれ! 鍵は玄関にあるから戸締りはよろしく!」
「えぇ!? 一緒に乾杯しねぇのか!?」
酒は飲みたいがそれどころじゃない。床に放り投げていたバッグを手に取り、光速で家を飛び出した。
このまま充子を放ったらかしにしたら危険だ。
俺は走る ——
通学路の風景が昨日とは全く違って感じる。さくもと出会った交差点も、桜並木の道も、全部が淀んで見えた。
「ハァ……ハァ……」
たばこの影響か、体力がかなり落ちている。肺が上手く酸素を取り込まない。日頃の生活習慣の影響がこんな時に出てしまった。
それでも俺は、学校までの数分は全力で走った。
「あっ……み、充子……!」
校門まで残り僅かの所で、やっと充子に追いついた。
「あれ? りんごくん、私を追いかけて来てくれたんだね」
「ち、違うんだ。昨日のことは誤解なんだよ!」
「えなりかずきみたいな声で言われても納得いかないなぁ? 誤解って言ってるけどさ、実際りんごくん、昨夜は一緒のベッドで眠ってたよね? 巨乳は嫌いだった筈だけど、本当は、女だったら誰でも良かったんだね。
やっぱりか。
全部、見られていた ——
「で、でも……」
「言い訳はいいの! ところでりんごくん、黒魔術って信じる?」
「く、黒魔術……? 何だよ急に……」
充子は、鼻と鼻がぶつかるぐらい俺の方にゆっくりと接近して来た。茶色の美しい瞳が、俺の濁った瞳を見つめている。さらに、俺と頭一個分ぐらい身長差のある充子は、少し背伸びして俺の両肩に手を置く。
「え?」
左肩に置いた手を俺の後頭部に回し、手慣れた一連の動きで唇を重ねてきた。一番長く思えた一瞬だった。
唇が離れる ——
「キスした人しか、愛せなくなる呪いよ」
充子は微笑んだ。
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