002 彼女のご飯は爬虫類、俺は自炊するタイプ
放課後 ——
「ほら、生徒手帳……朝、落としてたぞ」
真木に手渡す。危うく渡し損ねる所であった。
「あら、ありがとう。気が利くのね。見直したわ」
酔いが覚めたのか、朝より口調が上品だ。朝のフトアゴヒゲトカゲ事件の時は最悪だったぜ。しかし、「見直した」とは、随分上から目線で来られたものだ。
「今から近所のペットショップに行くから、アンタも一緒に来て。えなりかずきくん」
「えなりかずきじゃねぇよ! 俺は、有江だ!」
「知っているわよ。朝、散々怒られていたじゃない。下の名前は何て言うの?」
「えっ……? り、凛悟だよ……」
「ふーん……。あたしは真木 咲萌。さくもって呼んでいいわよ」
美人だ ——
酒を飲んでさえいなければ、間違いなく美人に部類する。言葉遣いが美しく、貧乳だったら何も言うことはない。
「よし、りんご。あたしのカバン持って」
「ほ?」
「女の子に、こんな重たい物持たせるつもり?」
さくもは、強引に俺の手を握ってカバンを持たせてくる。ちょっと手が触れ合ってドキッとした。色白の手には、俺がときめく程の温もりが十分にあった。
「行くよ、ペットショップに……」
「本当にフトアゴヒゲトカゲ買うのか!?」
「いや、次はコーンスネーク……」
スネーク? 爬虫類が好きなのか? コイツは朝、間違い無く食パンと同じノリでフトアゴヒゲトカゲを食べようとしていた。
渋々ではあるが、制服を着た女の子と歩くのは青春っぽくて良い。ちょっと暇だし、付き合ってみるか。
「あれ、りんごくん?」
早速、二人で教室を出た時だった。ちょうど幼馴染の
「お、充子……。お前、クラス何組になった?」
「私は2組よ。また、同じクラスになれなかったね。りんごくんは3組なんだ……」
「どうしたんだ、充子? 何か用事か?」
「う、うん、いや、何でもない……。ま、またね、りんごくん!」
充子は、小走りで去って行った。いつもと様子が違ったように思える。
「へぇ、りんごって意外にモテるんだぁ」
さくもが上目遣いで見てくる。何か、変な想像をしているようだ。
「アイツは、超昔からの幼馴染だよ」
「ふーん、まあいいや……。とにかく行きましょうか」
俺らは、ペットショップへと向かった。
今朝出会ったばかりのさくもと、会話が盛り上がることもなく、二人で並んで歩く。学校から目的のペットショップまで徒歩10分。そこは、俺の家の近所だった。こんな隠れ家的ペットショップがあったのか。
コンクリートの壁には
「店長、コーンスネークの一番安いヤツ頂戴!」
さくもがドアを開け、勢いよく店内に入る。俺もその後に続いた。ペットショップ独特の臭いが鼻を通る。薄暗く、外よりも若干暖かい。寧ろ、ちょっと暑いぐらいまであるかもしれない。
「さくもちゃんか。おめぇ、いい加減にしねぇと動物愛護団体に怒られるぞ」
店主は、ニーソの悪い、ヤクザの様な男だった。体臭なのかどうかは知らないが、僅かに昆布出汁の匂いが香ってくる。
「そう言うなよ。あたしがいねぇと、潰れるぜ?」
「
店主は、円状のプラスチック製カップに入ったコーンスネークを袋に入れ、さくもに手渡す。
「ほらよ」
「ありがとう。ちょうどだな」
さくもは、5000円札をカウンターの上に優しく置いた。
「今度来る時、安いヒョウモントカゲモドキを貰うね。また来る」
買い物は一瞬で終わった。さくもがそそくさと外に出て行くので、俺は店主に軽く会釈をし、俺も足早にその後を追った。
外の空気が美味しい ——
「さくも、なんで爬虫類食べるんだ?」
「りんご、やっとあたしの名前を呼んでくれたね」
「え……?」
自然と下の名前で呼んでしまった自分に気付き、ちょっぴり頰が熱くなる。
「可愛い男……」
「うるせぇ、男に向かって可愛いって何だよ!?」
「興奮しないの。そんなことより、あとで一緒にコーンスネーク食べる?」
さくもは、白い歯を見せながら、にんまり顔でコーンスネークが入ったビニール袋を俺の顔の前に近付けた。
「食べねぇよ!」
食べる訳がない。そもそも、なんで爬虫類を食べているのかという俺の質問の答えをまだ聞いていない。
「久しぶりに、ちゃんと料理して食べたいからさ、りんごの家について行ってもいい?」
「じ、自分の家で料理しろよ!」
「家無いんですけど」
ただでさえ回ってない俺の頭が自転を止めた。家が無いとは一体?
「ほ?」
「あたし、今年からあの学校に編入して来たんだけどさ、アパート契約するの忘れちゃってね」
「バカじゃん。どうすんの? 実家は?」
「今、野宿しているの。それに、両親は二人とも死んじゃってるし……」
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