第35話戦いの後に

古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン討伐戦、無事に完了した。

 いきなり一刀両断で絶命したのだ。


「えっ……終わり? これで終わったの⁉」


 まさかのことに、自分の目を疑う。

 でも間違いない。

 アバロンは粒子となり、完全に消滅した。


 跡に残ったのは巨大な魔石と、大量の竜の素材。

 爪や牙、骨と竜の鱗など山盛りだ。


「ん? あれは何かな?」


 素材の中に、金属製のものもあった。

 見てみると無数の剣や槍、金属鎧や盾などの武具だ。


「あっ……もしかしてアバロンに敗れた人たちの装備品か」


 話によると古代竜エンシェント・ドラゴンに挑む冒険者は、過去に無数にいたという。

 この武具の数々は、数百年間の冒険者の激闘の証なのであろう。


 その証拠に、微かな成仏できない魂の反応がある。


「成仏してください。冒険者の先輩の皆さん……」


 聖魔法で浄化を発動。

 祈りを捧げる。


 シャーーン


 英霊たちの魂は、天に昇っていく。

 古代竜エンシェント・ドラゴンを討伐したことによって、彼らの魂も解放されていたのだ。


「あっ、あっちにも、あるぞ」


 素材の下にも、他の遺留品もあった。

 探知の魔法で探して、一個ずつ浄化の魔法をかけていく。


 かなり大変な作業だが、苦にはならない。

 何故なら彼らは古代竜エンシェント・ドラゴンに挑んでいった、先達の冒険者たち。

 ボクは心より敬意を払っていた。


 そんな作業も、ひと段落する。


「ふう……終わった、さて、あとはどうしよう?」


 目の前の膨大な素材と、武具の山々。

 どう対応すればいいのだろうか?


 ――――そんな困っていた時だった。


「「「ハリト! 大丈夫か⁉」」」


 街の方から、誰からがやって来る。

 無数の騎馬隊だ。


「あっ、みなさん! ボクはここです! 元気ですよ!」


 向かってくるのは精鋭部隊の人たち。

 王様を先頭に、近衛騎士団長のバラストさん、守備隊長ハンスさん。

 あとギルドのゼオンさんもいた。


 各部隊の責任者の人が、こっちに来るのだ。


 ボクは全身のほこりを払って、出迎える準備をする。

 よし、変なところは無いな。


 そうしている内に、騎馬隊は到着する。

 馬から降りて皆は、膨大な量の素材に目を丸くしていた。


 最初に話かけてきたのはゼオンさん。


「おい、ハリト。もしかして、これは全部アバロンの素材か?」


「はい、そうです。何かよく分からないですが、ボクが爪を剣で迎撃して、その後に気がついたら真っ二つになって、消滅しちゃいました。不思議ですよね、ゼオンさん?」


「ふう……そういうことか。まぁ、お前が無事で良かった!」


 ゼオンさんに髪の毛をぐりぐりされる。


「えっ? はい、ありがとうございます」


 良く分からないけど、すごくボクのことを心配してくれていたみたい。

 感謝する。


 次に来たのは守備隊長ハンスさん。


「ハリト君、無事で何よりだ!」


「ハンスさんもご無事で何よりです。街の方は大丈夫ですか?」


「ああ、キミのお蔭で火蜥蜴サラマンダーも消滅した。街の方も今は、消火作業をしている。市民に被害はない」


「ああ、良かった。こちらこそありがとうございます、ハンスさん!」


 火蜥蜴サラマンダーのゲリラ攻撃によって、街の建物には多少の被害があった。

 だが人的な被害はないという。


 今は精鋭部隊で消火作業を行っているのだ。

 本当に良かった。


 次にやって来たのは……王様だ。

 背後の近衛騎士バラストさんを従えている。


「ハリトよ。見事であった。よくぞダラクの長年の宿敵、アバロンを討伐してくれたな」


「えーと、はい! こちらこそ、ありがとうございます、陛下!」


 本当はボクが倒した訳じゃないはず。

 でも王様には口答えをしてはいけない。


 だから返事をして感謝を述べる。


「あと報酬に関してだが、アバロンの残した素材と武具の数々は、お主が貰うがよい」


 王様は今回の褒美を、全てボクにくれると言ってくれた。

 たしか王様のからの褒美は、断ってはいけないはずだ。


「ありがとうございます、陛下。ありがたく頂戴します! そしてボクは寄付します。そこにある素材の全てを、ダラクの復興に使ってください!」


 ボクは全ての寄付の意思を伝える。

 何故なら今回の手柄は、全員で勝ち取ったもの。


 集結したダラク精鋭部隊。

 あと迅速に避難して、人的被害をゼロにしてくれた市民たち。


 全員の勇気と行動力があったからこそ、手にした勝利なのだ。


「ハ、ハリト殿、陛下の好意を、無駄にするのか⁉」


 近衛騎士バラストさんは顔を青くしている。

 何故なら普通は王様の褒美を、その場で寄付はしない。

 場合によっては侮辱していることになるのだ。


「申し訳ないです、バラストさん! でも本当に寄付します! あと、城の中庭も壊してごめんなさいです、陛下!」


 アバロンを止めるために、【究極石壁エクス・ストーン・ウォール・極大】を城内発動。

 大事な中庭を破壊してしまったのだ。


 だから全額寄付は、当たり前。

 城の修繕費も含まれていたのだ。


 でも寄付は、やっぱり王様は怒っちゃうかな?

 そうしたら、また謝るしかないな。


 だが、王様の反応は違っていた。


「はっはっは……まさか戦で壊れた物を弁償したいとは、初めて言われたぞ! 謙虚すぎると、ハリトよ! はっはっは……」


 なんと王様は高笑いする。

 厳格な王様が、声を上げて大笑いしていたのだ。


 よく分からないけど、謝っておこう。


「ご、ごめんなさいです。勉強不足で、こうした時は、どうすればいいのか分からなくて」


「気にするな、ハリトよ。さて、皆の者! これより城に凱旋するぞ! 宿敵である古代竜エンシェント・ドラゴンアバロンを討伐したと、市民に知らしめるぞ!」


「「「はっ!」」」


 王様の合図で、皆は帰還の準備をする。

 街の復興もあるけど、とにかく市民を安心させるのが先決なのだ。


 そんな時、近衛騎士バラストさんが、王様に声をかける。


「ところで陛下。あの膨大な素材と戦利品はいががします? 城の解体所に運びたくても、乗せられる荷馬車がありません」


「うむ、そうであったな。さて、どうしたものだ」


 何やら竜の素材の運搬方法で、困っているようだ。


 よし。ここはボクが名乗りでよう。

 少しでもお手伝いするんだ。


「あのー、バラストさん。良かったら。ボクの方で、素材を城まで運びましょうか?」


「ん? ハリト殿? それは有りがたいが、どうやって運ぶのだ、この山を?」


 了承は得られた。

 言葉で説明するのは難しいから、実践して説明しよう。


「とりあえず今から、やってみます……【空間収納】!」


 ポワン♪


 生活魔法の一つの【空間収納】を発動。

 アバロンの素材と戦利品を、全て収納する。


 よし、バラストさんに報告しよう。


「終わりましたよ! こんな感じで大丈夫ですか?」


「…………」


 だがバラストさんから返事はない。

 口を開けて、目を点にして、唖然としている。


 いや、おかしいのはバラストさんだけはない。


「「「…………」」」


 王様と守備隊長ハンスさん、他の騎士たちも全員、唖然としている。


 唯一、大丈夫なのはゼオンさんだけ。

 でもゼオンさんも頭を抱えている。


 かなり気まずい雰囲気だ。


 もしかしたら収納の仕方が、悪かったかな?

 もう少し綺麗に収納した方が、よかったとか?


 未熟なもので申し訳ないです。


 そんなボクにバラストさんが口を開く。


「いえいえいえ! な、何を言っているのですか、ハリト殿⁉ あ、あの山のような素材と戦利品は、どこに消えたのですか⁉」


「えっ? ボクの魔法で収納しました。城で出しますが、もしかしてマズかったですか?」


「えっ? あんな大量の素材を、収納? そもそも収納魔法とは、たしか勇者の……」

「バラスト、よい。そこまでじゃ」


 混乱しているバラストさんに、王様が声をかける。


「ですが陛下……」


「ハリトのことは詮索してはならない。それがダラクのためだ。ここにいる者たちも、他言は無用だぞ!」


「「「は、はい!」」」


 何やら王様のお蔭で、全員の混乱が収まってくれた。

 流石はカリスマ性のあるダラク国王だ。


「よし、それでは改めて凱旋するぞ! 我らがダラクの街へ!」


「「「はっ!」」」


 王様を先頭にして、精鋭部隊は出発。


 さて、ボクも戻るとするか。

 そんな時、馬に乗ってゼオンさんが声をかけてくる。


「今日だけは乗せてやるぜ、ハリト? それとも歩いた方が速いか、お前だと?」


「いえ、乗せていただきます! 実はお腹がペコペコで、もう走れないんですよ」


「はっはっは……こんな時に飯のことか。相変わらずうちのスーパールーキーは大物だな」


「えっへへ……面目ないです。では、後ろ失礼します」


「それじゃ、オレたちも戻るとするか。クソッたれなオレたちのギルドへ」


「はい!」


 こうして“古代竜エンシェント・ドラゴン”アバロン討伐戦は、全てが無事に完了。


 ボクはダラクの街へと帰還するのであった。


 ◇


 ん?

 でも、誰かの視線が、ある?


 あれ、ボクの気のせいか。


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 そんな光景を遠くから、見ていた者がいた。

 赤毛の女剣士だ。


「ふう、危なかった。ハリトに見つかるところだったわ」


 彼女の名はエルザ=シーリング。


 大陸最強の剣士の一人【剣聖】であり、ハリトの実の姉。


 王都からダラク地方まで走ってきたのだ。


「さて、ハリトを連れ戻さないとね!」


 こうしてダラクの街に新たな危機が訪れようとしていた。

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