第21話謁見の間
家出したボクは都市国家ダラクで、憧れの冒険者のなることが出来た。
ある日、騎士ハンスさんの依頼で、治療のために城に行くことに。
なんとかクルシュ姫の容態は安定した。
でも王様に呼び出しをされてしまう。
◇
騎士ハンスさんの案内で、城の中を進んでいく。
先ほどの豪華な屋敷とは、別の建物。
こちらは堅牢な雰囲気だ。
要所には警護兵が立ち並び、城の厳重さが感じられる。
そんな城の中でも、ひときわ警備が厳重な部屋に。
――――謁見の間に案内されてきた。
(ふう……このポーズでいいのかな?)
隣のハンスさんに
一緒に膝を付いているのは、隣の騎士ハンスさん。
後ろにゼオンさんとマリア。
合計四人だ。
「う……う……」
後ろのマリアは真っ青な顔で、変な呼吸をしている。
かなり緊張しているのだろう。
彼女の気持ちは分かる。
何故ならこれから謁見するのは国王。
この国で一番偉い王様なのだ。
(王様に会うのか……)
もちろんボクも同じ緊張している。
何しろ今までの人生で、王様に会ったことなどない。
心臓がバクバクしている。
どうすればいいのか混乱してきた。
(よし、こんな時は、頼りの冒険譚の内容を思い出して、予習をしておこう……)
愛読書の“冒険王リック”には、色んな場面が描かれている。
全て彼が実際に体験したことだ。
えーと、王様に会う時はたしか……
・目線を直に合わせない。
・こちらか話しかけていけない。
・向こうから質問された時は、要点だけを答える。
・絶対に口答えをしない。私見を提案しない
うん、よし。こんな所かな。
予習はばっちり。
あと事前にハンスさんから、言われていることがある。
ボクが王様に何か質問されても、最初はハンスさんが答える。
その後にハンスさんが、ボクに話をふる。
それから答える形式だという形式。
隣には騎士ハンスさんがいる。
何か困ったことがあったら、小声で聞いてみよう。
「――――陛下がいらっしゃいました!」
近衛騎士の人の声が、謁見の間に響き渡る。
しばらくして上座の高い椅子に、人が座る。
顔はよくみちゃいけないけど、たぶんあの人が王様なのであろう。
「ふう……」
隣からも深呼吸が聞こえてきた。
ハンスさんも緊張しているのだ。
もしかしたら王様は怖い人なのかな?
ボクも更に緊張してしまう。
「さて、どの者が、ハリトという冒険者だ?」
いきなり名指しできた。
でも教えもらったとおり、ボクの出番はまだ。
「はっ、陛下。恐れ多くも、この隣にいる者が、冒険者ハリトでございます!」
ハンスさんは顔を上げて、ボクのことを紹介してくれる。
すごく立派でハンスさん、頼りになる感じだ。
「ほほう? その少年がハリトとやらか? 面を上げろ、ハリト」
「はい! 失礼します!」
道中でハンスさんと練習したように、元気に返事をして顔を上げる。
王様の顔が見えた。
(おお、この人が王様か!)
初老な人だけど、体格はかなり立派。
おそらく剣の使い手なのであろう。
あと威厳ある真っ白な
あっ、まずい。
顔は直視しちゃ、駄目だったんだ。
「ふむ、ハリト。歳はいくつだ?」
「はい、十四歳です。こう見えて成人を済ませています。ダラク冒険者ギルドに属する、駆け出しの冒険者です!」
「ほほう? 若干十四歳で、【
「えーと、はいであります!」
今のところは何とか無難に答えられている
ボクの対応を聞いて、隣のハンスさんは、ちょっと顔が青い。
けど、たぶん大丈夫なのであろう。
「そうか。話によれば先ほど、我が娘クルシュの命を助けてくれたとか。何か褒美を取らせよう。何が望みだ? 何でも申せ」
えっ……褒美と望み?
これはハンスさんとの予習には、なかった質問だ。
ということは、臨機応変に答えていいのかな?
『なんでも申せ』って、言ってくれたからね。
それなら気になっていたことを、王様に頼んでみよう。
姫様の呪印を治す許可についてだ。
「えーと、それならクルシュ姫の身体に直接、触れることを許可してください、陛下!」
「なん、だと? 娘のクルシュの身体にだと?」
「はい、そうですございます! あと出来たら姫様の全身の肌も見たいです! それと肌に直接触れることも、許可して欲しいです!」
「なん……だと……?」
ん?
どうしたんだろう?
謁見の間の空気が、一瞬でピリピリしてきたぞ。
それに王様の声が、かなり怖い。
あと隣のハンスさんは、更に真っ青な顔になっている。
みんな、どうしたんだろう?
そんな謁見の間で、怒声を放ってきた人がいた。
「キ、キサマ! 冒険者風情のクセに、クルシュ姫殿下の身体を所望だと⁉ 無礼すぎるぞ!」
叫んできたのは、王様の脇に控える騎士。
怖そうな近衛騎士の人だ。
しかも、なんか誤解をしている。
ボクの言い方が悪かったのであろう。
もう少し説明をしないと。
「えーと『お姫様の身体を所望』では、ありません、ただボクはクルシュ姫の全身の肌を丁寧に確認して、この手で優しく触れていくだけです、騎士の方!」
「な、なんだと、キサマ……もう許せん! その首、討ち取ってやる!」
顔を真っ赤にしながら、近衛騎士の人は剣を抜く。
ボクに向かってゆっくりと近づいてきた。
かなりマズイ状況だ。
誰か助けて欲しい。
こんな時こそハンスさん!
……は、更に真っ青な顔で、口から泡が出そうだ。
こっちも別の意味でマズイ。
他に誰か、助けてください。
――――そんな時だった。
ボクの前に
「恐れ多くも陛下。それに近衛騎士団長バラスト殿。このハリトという者、言葉足らずで大変失礼いたしました」
助けに出てくれたのは、ゼオンさん。
いつもと全く違う口調で、
しかも非礼を詫びるポーズが、凄くピシッとしている。
「ほほう? その声はやはり、ゼオンだったか? 久しいな。元気にしていたか?」
「ゼ、ゼオンか……貴殿が、そこまで言うのならば、この場は耐えてやろう」
ん?
王様と近衛騎士の人の、ゼオンさんに対する態度が何かおかしい。
知り合いというか、王様からはかなり親しげ雰囲気。
ゼオンさんは一介の冒険者なのに、どういうことなのだろう?
顔色が落ち着いてきたハンスさんに、小声で聞いてみよう。
「あの……ゼオンさんって、どういう関係なんですか、この城の人たちと?」
「ふう……ハリト君。ゼオンの奴は、元ダラクの騎士なのだ。しかも爵位もあった由緒正しき男なのだ」
「えっ……ゼオンさんが⁉」
今日一番の驚きだった。
この熊のような顔で、一歩間違えたら山賊団の頭のような風貌のゼオンさん。
その人が元騎士?
しかも爵位持ちの貴族だった?
初めて聞いた情報に、また混乱してしまう。
そんな中でも、ゼオンさん冷静に話を進めていく。
「陛下、恐れ多くも、元臣下である
「ほほう? お前ほどの男から提案か? 面白そうだな。申せ?」
「はっ! それでは。先ほどのハリトからの願いを、次のように変更を。この城の警備を、このハリトにさせてくださいませ!」
えっ……ゼオンさん?
ボクがこの城の警備を、する?
何を急に言っているの?
そんなこと王様に急に言っても、無理に決まっているでしょう。
ねぇ、王様?
「ふむ。そういう事か……面白そうな話だな? 続きを申せ、ゼオン」
しかも王様も乗り気だ。
どうなるんだろう……ボクは。
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