インタビュー

(※音声は変えてあります)


——どうしてなんでしょうか。「別れたい」「距離をおきたい」て訴えると「ほかに男ができたのか」て言われるんですよ。まず「自分が嫌われてるのかもしれない」て発想がごっそり抜けるんですよね。


——理由ですか? もう、シンプルです。小さな「嫌い」「信じられない」の積み重ねです。それがほら、こんなふうに大きな塊になって、もう無理になっちゃって。こういうのって、相対的なものでしょ。長い時間かけてゆっくり嫌いになったものには、もう関心のかけらもなくて。二度と元には戻りませんよ。


——いいやつ? ああ、そうですね。パブリックイメージ作るの上手なんでね。あれは才能、というか本能ですね。自分に利害関係発生する存在とかには、素直で従順。気配り目配り完璧ですよ。意識的にじゃなくて、ナチュラルに嗅ぎ分けることができる。それを仕事ができる、懐が深い、漢だ、なんて勘違いさせるスキルは、天性のものだと思います。


——根はいいやつ、とかよく言うじゃないですか。根がいいやつは、誰かをこんなふうにしないです。


——話し合い? もっとコミュニケーションとるべき? あ、そういうの大丈夫です。いわゆる正論ですよね。はい、それまったく正しいんですよ、わかってますから。だけどね、そもそも正論て、なんですかね? 


——語尾に「べき」付けりゃなんとなくいいことっぽくてぴしっと角が揃ってるみたいな文脈になるじゃない? それでどこにも触れずにきれいにまっすぐ結論までいっちゃって。あとは異論はぜーんぶ悪者だっていって拒絶して結局、なにひとつ解決してくれないじゃないですか、あんなもの。


——頼んでもいないのに火の粉のかからない距離から正論かまして自分だけ気持ちよくなってる意識高い系? ていうの? あれもうざいですよねえ。関係ないでしょ、あなたのことだなんて誰も言ってませんよ、ってね。


——いやあのね。話し合いなんて、これまでに何度も何度も、何度もしましたよ。それこそ最初だけはお互いがんばろうとするでしょ、昨日よりいいことしてる自分いいじゃん、的な。けどやっぱり、無理してるから続かない。しばらくしたらもとどおり。他者のためには変われないんです。


——歩みより、なんてかっこつけてみたところでどうしたって相手は変えられない、じゃ自分が変わろうかっていって結果、終始あっちに合わせることになっちゃってね。で、どうなったか。あっちの都合ばっかりがよくなって、こっちが毎日毎日すり減ってくだけなんですよ。ほらね?


——で、今度は自分を主張してみるわけですよ。そしたらまあ、あっちは自分より格下と見下げてたのが急に刃向かってきたって一旦ビックリして、それから激怒するんです。そこに理屈なんてないですよ、もう無茶苦茶、矛盾だらけ。誰しも自分が気持ちいい状態を崩したくないですからね。これまで自分がさんざん相手にしてきた同じことを自分がされた途端、半狂乱ですよ。笑っちゃう。


——共有財産を持つとか独立して共同経営するとか、今思えばほんとやらなくてよかったです。のらりくらりとはぐらかしましたよ。どこかで直感が働いてたんでしょうね。


——これから? そりゃ今すぐにでも縁を切りたいですよ。けど、こういうタイプって面倒なんです。プライドがなにより高いから、こっちからまともにぶつかっていったりなんかしたら、あっちは自分が不利になると極端な理屈ぶち上げて叩きのめそうとしてくるんで。自分だけじゃ足りないと思ったら、被害妄想ふくらませて自分を大きく正当化してみせて、周囲を巻き込んでくるんでね。面倒でしょ?


——はい、何度も経験したんで。いくら周到に準備しても、こっちも少なくないダメージを受けることはわかってるんです。


——いやもう、わかってもらおうとか平和的解決とか望んでませんまったく。ただ、離れたい、関わりたくない。強いていうなら無難的消滅? だから、少しずつね。右にひらり、左にふらり。上手に嘘ついて、自分のなかでバランスとって、ニコニコしながら後ずさりしてます。


リモート取材協力:雌ライオンのファティマさん(仮名・10歳・タンザニア在住)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る