あの頃のわたしたち

凜架

第1話 嵐の素顔



ここどこ?・・・


どうやって此処まできたんだろう・・・


浜松町の

いつもの店で

圭司と

飲んでたよね・・・



それから・・・?


うつむきながら、考える。



あっ。

私フラれたんだ・・・

そうだ。

フラれた・・・


30才、目前で

4年半付き合った男に

フラれた・・・


笑っちゃうよね~

ハハハ・・・・・・・


もう笑うしかないよ・・・

とひとりで笑う。


順調だったよね・・・


SEXの回数は減ったけど・・・


順調だった。

そう思ってたのは私だけだったのかな?


わかんないよ・・・

頭の中でいろんなことが、ぐるぐると渦を巻いてる。

視界の中に、見覚えのある光景が入ってきた。


あっ!

レインボーブリッジ


こんな日もキレイだなぁ~

去年のクリスマスに圭司と船から見て

シャンパン飲んでたよな~


クリスマスの事を思い出した。

なのに・・・

3ヶ月後・・・

ひとりで見てる・・・


フラれた・・・んだ。

改めて、フラれた事を実感した。

じんわりと目頭に涙がにじんできたて、レインボーブリッジの光が滲んで見えてきた。


頭の上にポツリ、ポツリと雫が落ちてきた。

うん?雨?

帰ろ・・・

タクシーで帰ろ。


少し、車の少なくなった道路をキョロキョロしながら、タクシーを探した。

なかなか捕まらない。

圭司から、28歳の誕生日にプレゼントしてもらった時計を見ると、深夜の2時に差し掛かろうとしていた。

それでも、キョロキョロしながらタクシーを探した。


それから、数分、一台のタクシーが、目に入ってきた。

尽かさず手を挙げた。


目の前でタクシーが止まってくれた。

よかった。

ガチャりと扉が開いたタクシーに足早に乗り込んだ。


「すみません。三軒茶屋方面へお願いします」

とドライバーさんに告げた。

「三軒茶屋ね~三茶のどの辺ですか?」


「茶沢通の太子堂3丁目のファミリーマートあたりまで」


「ファミマね・・・」

確認するように言ったドライバーさんは、続けて、

「降ってきちゃったね~」

と話しかけてきた。


「・・・はい」

そう返事すると、


「春の嵐ってやつですかね~」

と返してくる。


「・・・嵐・・・ですか・・・」

正直、話す気にはなれないけど、なんとなく、返事をした。


「いや~うちのばーちゃんがよく言ってたんですが、

春に大雨が降って雷が鳴るのは暖かい春の訪れだ。って」

ドライバーさんが話してる間、よくしゃべる人だな。と思いながら聞いていたが、嵐て言葉に反応してしまう自分に、少しびっくりしていた。

「ふぅっ。ハハハ聞いたことあるも・・・」

正しく、今の私の心の中も嵐かもしれない。

さらに、ドライバーさんは、話を続けた。


「そろそろ、花見もしないといけない季節だしね~それに、私たちタクシードライバーにとってこの季節の突然の雨は稼ぎがあがるんでね」と楽しそうに話していた。なんとなく、自分も気持ちが軽くなってきたような気がしていた。


「うふっ。そうですね。

でも、私は雷苦手なので雷鳴る前に家までお願いしますね。」


「ハハハ。雷鳴らない内に・・・がんばります」


それから、

着くまでの間、話つづけてくれたドライバーさん。

たわいない会話をした。

あんまり、記憶にないけど…


だけど

今日の私にはありがたかった。



「そろそろファミマだけど・・・」

そう言ったドライバーさんに、

「ファミマの交差点左に曲がったライオンズマンションのところで」

そう告げると、「わかりました」と返事をして、指示機をカチカチと出した。



あれから雨は本格的な雨に変わった。


すぐにタクシーが見つかってよかった。

そして、このドライバーさんでよかった。

そんなことを思っていると、

「ここでいいのかい?」とドライバーさんに声をかけられて、しっかりと窓の外を見ると、マンションの真ん前だった。


「はい。ここで。」


「雨本降りになってきたし大丈夫かい?」と娘を心配するお父さんのように、訪ねてくれた。

「ありがとうございます。私の家このマンションなんで。」

そう言って、マンションを指差した。


「へー!若いのに・・・すごいね」と少し声を裏返した。


そういえば話てるときに一人暮らして言ったけ。と思い出し「いえ。伯父さんの持ち物で借りてるんです。」

そう言うと、納得したように、

「そういうことか・・・」

料金の支払いをすませ、足早にタクシーを降り、ドライバーさんに、

「ありがとうございました。」とニッコリと笑顔を向けた。


「いいえ。毎度あり」とニカッと笑って、深夜の街に走り去った。



その時、少し離れた空に稲妻が走った。

うわっ!思わず声が漏れた。

手際よく、オートロックを解除して、

エレベーターで最上階の8階へ・・・


結構な年季が入ってきたマンション

まー管理は行き届いているから快適だ。




ガチャりと部屋の鍵をあけてた。


あったかい。


外はまだ寒い。

雨が降ってるせいもあるけど

3月はまだまだ夜は寒いな。

まー今日はいろいろあったし特にそう感じるのかもしれない。


そんなことを考えながら

お風呂の追い焚きスイッチを押して

冷蔵庫から缶ビールをだす。


プッシュ


ゴクゴクーーーーーー


「はあぁ~」とおじさんのように声をだした。正直、今は味なんてどうでもいい。

いや、味なんてわからない。

キッチンの上に飲みかけのビールを置いた。

「お風呂はいろ・・・」と独り言をいい、風呂場に向かった。


手早くお風呂を済ませ、

ミネラルウォーターを飲みながら窓の外を眺める。

たたきつけるような雨・・・

強烈な風でガラスにたたきつけるような

雨粒の雨音は激しく

ハードロックみたいだ。

雷も激しさを増してるよな・・・


「ドライヤーしなきゃ。雷で停電とかしないよね~」


ひとりでブツブツ言いながら

髪を乾かす・・・


髪を乾かしながら

ふと。

口ずさむ・・・


♪空が落~ちればいいの~


あれ?

なんだっけ?この歌?

考えながら、ドライヤーをかける。

あっ。

お母さんたちとカラオケ行ったときに誰だっけ?里奈ちゃん?だっけが歌ってお母さんたち全員で踊ってたよな。


グッグてみよ。


ドライヤーを終えて、スマホを手にした。


あっ。出てきた。

嵐の・・・・・

くど・・・


「YouTubeで見てみるか」と独り言を言う。


♪~~~


「あ~これこれ。お母さんたちがやってた振り付け♪」


一緒にやってみた。


笑える。

夜中にひとりYouTube見ながら、それも、あまりよく知らない歌の振りをする自分に、ほんと笑える。


♪君はすてきだから・・・・・・・恋がめばえるはずさーーーーーー♪


勝手に決めんなよ・・・

て歌詞につっこんでみた。


そう言えば

「梓は素敵だと思うし、逞しいから大丈夫」

て圭司も言ってた・・・。

素敵‼て何?

私って逞しい?

女に逞しい。て褒め言葉じゃないよね?


窓から鋭い光が差し込んできた。


ピッカッ!!!!!!

ドンッ!!!!!!

ゴロゴロ~~~~~~~~~~~ォ~~~~~~


「きゃー!」


て私か弱いじゃん…

「ハハハハ…」

4年半も圭司は私の何を見てたんだろ?

私は圭司の何を見てたの?


♪空が落~ちればいいの~

歌ってるよ!私。

アハハ!

今日が春の嵐でよかったのかもしれない

この曲に今日は救われた。

あまりよく知らないこの曲に救われた。



もう一度

窓の外に目をやった。


「本当に空が落ちればいいのに・・・」




徳永 梓 29歳7ヶ月





【嵐の素顔】



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