屋敷に行く前に、後編

「おーいマール行かないのか?」

「はい、私、やっぱり人の多い所は苦手なんです……」

「まぁ、分かるぞ。その気持ち」

「簡単に分かるって言わないでほしいです!」


 マールが珍しく俺に怒り気味で言ってきた。


「ああ、ごめん。でもさっきの反応でやっぱり分かったんだ。昔の俺とそっくりだなって」

「ショウさんは、明るいじゃないですか。私なんかよりずっと」

「それはな、新しいところに来たから、暗い性格を直そうと思ったんだ」


異世界に来たとは言えないし、……まぁ、嘘は言ってないよな。


「そうなんですか! 意外です。……でもそんな簡単に治るものじゃないですよ」

「俺の場合は一つ直したら、結構改善するようにはなったぞ」

「たった一つですか!」

「ああ、人目を出来るだけ気にしない事だ。人見知りな人は周りを気にしすぎなんだよ」

「それは……あるかも知れません……」


 マールもそれを肯定した。人見知りって意外と似るもんなんだな。


「もし、これをやって嫌われたらどうしようとか、こんなことを言って変な人って思われたらどうしよう、とか、色々考えてしまうんだよな」

「はい! そうなんですよ」

「だけど俺やシエラには違うだろ? 結構強気になる時もある」

「そうなんでしょうか?」

「うん。最初にあった時には思えないくらい強気な時もあったな」


 (靴を試しに行った時とか結構強気だったな)そんなことを思いながら。


「確かに……そうかも知れませんね」

「でも、それでマールを嫌いになる事は無いんだ。それだけは絶対にな」

「ショウさん……」

「アルルに言われたんだ。「ショウ様って鈍感だからもっと女性の仲間が増えそうな気がします」って」

「それはなんとなく分かる気がします」


 マールが少し笑ってくれた。


「マールもそう思うのか。でもな、そういう時には仲良くならないといけないと思うんだ」

「はい。それは分かってます」

「その時に人見知りだったらしんどいだろ。だからな。こういうところでちょっとずつ練習するのも、大事だと思うんだ」

「それは……」

「大丈夫。マールは可愛いから嫌いになる人なんてそうそういないよ。それにいつでも助けてやるからさ」

「マール!」


 俺はうつむいているマールの目をこちらに向けさせた。


「はい……」

「無理に来いとは言わない。でもマールが来てくれると嬉しいんだ。来てくれないか」

「どんな時も助けてくれるんですよね」

「ああ」

「私のこと嫌いになりませんよね」

「ああ」

「ずっと一緒ですよね」

「ああ」

「……分かりました! ちょっとずつ頑張ってみます。ごめんさない迷惑かけて……。でも、もう大丈夫です」

「全然大丈夫だ。急いで行くぞ。遅れるかもしれないしな」

「はい!」


 俺とマールは部屋から出るとシエラがマールに飛びついた。


「マール!」

「ごめんね。シエラ。迷惑かけて」

「全然良いわよ。マールがめんどくさいって知ってるし。まぁ、そういうところも含めて好きなんだけどね」

「ありがと」


 二人が楽しそうに話しているとレオンが横から口を挟んだ。


「喜んでるところ悪いんだけど、そろそろ行かないと」

「ああ、ごめん」

「ごめんなさい……」

「おお! マールちゃんが話してくれた」

「昨日は喋れずにすみません」

「うん全然良いよ。——ショウくん」


 喜んでいた顔を真剣な顔に戻し話しかけてきた。


「なんだ?」

「もう、間に合わないし、一か八か試したことがあるんだが」

「ゲートか?」

「よく分かったな。一人じゃまだ無理だったが二人でなら出来ると思うんだ」

「試してみるか」

「え! レオンさんも無属性魔法を使えるんですか?」


 二人でゲートを出そうしているところにマールが効いてきた。

「まぁね」

「へー珍しいわね」

「まぁ、また後から話せるし今は急ごう」

「あ、ごめんなさい」

「ごめん、ごめん」

 二人に少し自重してもらってゲートを出すことにした。

「じゃあ、行くぞレオン」

「うん」

「「ゲート!!」」


 結果はもちろん成功して屋敷の門の前についた。


「よし! 成功だな」

「良かったよ。これで間に合う」

「凄いですね」

「これがゲートなのね……。移動が楽ね!」

「だな」

「よし、じゃあ入ろう」


 俺たちは屋敷の中に入りバンさんのところに行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る