ブラン
坂井 傑
童話 「ブラン」
その猫の名前は、「ブラン」といいました。
白くてとてもきれいな猫でした。
ブランはやさしいオスの猫でした。
ある朝、ブランの前に天使があらわれました。天使はブランに言いました。
「おはよう、ブラン。あなたにお願いがあるのです。ブラン、かなしみを食べるのです。あなたにしか見えないかなしみを。かなしみを食べるたび、あなたのからだは黒くなるでしょう。それでもブラン、これはあなたにしかできないことなのです。誰よりも愛する心にあふれたあなたにしか。ブラン、かなしみを食べてみんなを苦しみから開放してあげてはくれませんか」
ブランはゆっくりうなずきました。
天使はほほえんで光になりました。
それは、青い空の朝のことでした。
大人の女の人が公園のベンチにいました。
ブランには、見えました。
その女の人は、黒いくさりを足にまきつけているのです。
黒いくさりは、モヤモヤとしていてこわい感じがしました。
その黒いくさりは、かなしみでした。
ブランには、すぐに黒いくさりがかなしみだとわかりました。
ブランの瞳に、涙があふれて行きました。
ブランは大人の女の人の足もとに行き、黒いくさりを食べはじめました。
黒いくさりは苦くて苦くてブランはふらふらしてきました。
それでもブランは黒いくさりを食べ続けたのです。
ブランは、かなしくなりました。
かなしくて、ブランの涙は止まりません。
大人の女の人は、大切な恋人を病気でうしなったばかりだったのです。
黒いくさりを食べているあいだ、ブランには大人の女の人のかなしみすべてが見えていました。
黒いくさり、初めてかなしみを食べたブランはその場所から動けなくなりました。
大人の女の人は、ブランを見て言いました。
「変な黒猫ね。あっちへお行きったら!」
ブランのからだは、黒くなりました。
とてもみすぼらしい猫に、ブランの姿は変わって行きました。
町のカラスたちは、ブランを見てクカクカ笑いました。
しかし、ブランは町の人らのかなしみを、黒いくさりを食べ続けました。
「気持ち悪い黒猫だこと」
「不吉なんだよ。あっちへ行きな」
「えい。石を投げてやる」
人間たちはブランにつらいしうちを続けたのです。
黒いくさり、かなしみは町のたくさんの所にありました。
かなしみを食べて、黒いくさりを食べて、どんどんからだが黒くなるブランを、人々は悪魔の猫と呼ぶようになりました。
ブランは、どこへ行ってもつらいしうちをうけました。
なんでかな。からだが黒くても、ぼくはぼくだよ。どうして、どうしてなの。ぼく、わるいことをしているの。こわい。こわいよう。
かなしみは、たくさん。まだぼくに、かなしみを食べろと言うの、天使さま。
ぼくは、なんなのだろう。
ブランが考えているときのことでした。
バイクがブランをはねとばしたのです。
「やっほう。悪魔をたおしたぜ!」
わかい男の人は、バイクをとめてそうさけびました。
ブランはぼろぼろになってこの世をさりました。
ぼく、黒いからだ。好きだよ。
ブランが最期に見た空は、泣き出しそうな夕暮れの空でした。
ブランは、とてもあたたかな光の中にいました。
「ブラン。あなたの姿を見てごらんなさい」
ブランは虹色の水面に自分の姿をうつしました。
ぼく、とっても美しい黒猫だ。
「見て。音楽の妖精が、あなたを祝福していますよ」
うわあ。なんて、ステキな音楽だろう。
ブランは、聞こえてくるステキな音楽にうっとりしました。
ぼく、ぼく、もう眠りたい。
「つらかったですね。あなたは、強い。とても強くあたたかな心の持ち主です。ブラン。ありがとう。あなたはたくさんの人を助けたのです。ブラン。わたしたちの仲間になってくれませんか。世界はあなたを必要としているのです」
その声は、いつかの天使の声でした。
黒猫のブランは、美しい天使になりました。
そしてブランは、いつまでも人間を愛し続けました。
~おしまい~
ブラン 坂井 傑 @sakai666suguru666
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます