第2話
「ああもう駄目だよ。あの子は狐にでも憑かれちまったのさ」
「気が狂ったに違いねえ」
「昼夜問わずにまるで狼の遠吠えみたいな声を出してさ」
「挙句に鼠を食ったんだろう」
「何でも死人の腕を咥えて走ってたって話だ」
「可哀想だが置いてこよう、鳥辺野に」
井戸端に集まった人々は口々に噂した。
小夜という、今年十四になったばかりの村娘の様子が先日からどうにもおかしい。
いきなり、まるで魂が抜けたかのようになったかと思えば突然大声で叫んで走り出す。呼んでも返事はないし、人の言葉を忘れたかのように言葉を話すことがなくなった。そして野良犬のように唸り、吠え、走る。
ある者は台所で鼠を食っているのを見たと言い、ある者は行き倒れた死人の腕を口に咥えていたと言う。
それは人間ではない。
娘はきっと何か悪いものに取り憑かれたのだ、そうでなければ説明がつかない。助けてやりたくても手に余る、都で高名な陰陽師なら何とかしてくれるのかも知れないが、誰もその顔すら知らない。
所詮雲の上の方々の話、下々の民にはあまりにも遠く手の届かないものだった。
しかし理解の出来ない、不気味なものを身近には置いておけない。仕方なく鳥辺野へ娘を連れて行くことにした。
鳥辺野は無縁仏の多い場所、魑魅魍魎が湧くとされる地だ。人間が住まうことは出来ない。あるのは死体と、それに群がる鴉、跋扈する魑魅魍魎だけ。
恨まないでくれと願いながら、人々は娘の腕を引いて行った。
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