憑つうらうら

ひなた

第1話

狗。

いぬだ。

犬ではない。

暗闇に浮かぶ、あれは狗。

黒銀の毛並みが暗黒の中にゆらゆらと揺れている。同じ色なのに分かるのは、青い炎の様なものが狗の体の周りから噴き出ているからだ。

大きいのか小さいのか、狗との距離感が分からない。

分かるのは、立ち上がった狗がゆっくり速度を上げて此方へと向かって来ることだけ。

怖い。

逃げようとするのに体が動かない。竦んでいる訳ではない、身体自体がない。

身体がない。

ああ、夢か。此れはきっと夢なのだ。夢なら早く醒めてくれ。

狗はもう目の前に迫っている。

青い眼、真っ赤な口を大きく開けて、真っ白な鋭い牙が剥き出しになった。

あと三歩で届いてしまう、だが足が動かない。

二歩、不思議なほどに空気が冷たく感じる。

一歩、狗の炎が指先に触れる。

逃げられない。

高く跳躍した狗が、細く白い頸筋にずぶりと深く噛み付いた。

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