キラーズ・トリップ・地獄変
カムリ
ビジター・C
最初に驚いたのは、この世界ではサメが空を飛ぶということだ。
次に驚いたのは――それを倒さなければならないと理解できたことだった。
すべて懐かしい。ネコがこの異世界にやってきた、五年前の出来事だ。
そして今。ネコの目の前で、再びサメが空を飛んでいる。
しかも台風のおまけつきだ。
王都の依頼でしぶしぶやって来たが、なかなか乗れる依頼だ。
サメ狩りの時間だとネコは思った。
髪はぼさぼさ。ひん曲がった背。ぎざぎざの歯。その中で目だけが、暗闇の猫のように、妖しく煌めいている。
生前ネコにとって
ネコは、右手をサメが舞う曇り空に翳した。
「いただきまス」
瞬間。
一匹のサメの腹が、見えない怪獣に喰われたかのように――ばぐりと裂けた。
ばぐり。ばぐり。
ネコが手をうごめかすたび、鮮血が嵐にかき乱されていく。
王国一の漁獲量を誇るターセム村の港は、まばたきの間に微塵の紅い嵐に変わりゆく。死の暴風のなかで、ネコは笑っていた。そうあるのが当然とでもいうように。
+
キラーズ。ネコたちはこの世界の住民から、そう呼ばれている。
生前にひと殺しの罪を犯した者たちは、ひとつの異能を与えられ――そして彼らが元居た現実とは異なる世界の、戦いの輪廻に組み込まれるのだという。
キラーズについてネコがわかっていることは少ない。
どれほどの数をどのように殺せばこの世界に飛ばされるのか、なぜこのような力が与えられたのか、そんなことを考える頭は野良猫にはなかった。
美味しいごはんと暖かな寝床、そしてたくさんのマトがあるこの世界をネコは案外気に入っていた。
嵐が終わる。サメの死骸と血液がどばどばと滝のようにネコの頭上から降り注いでくる。シャワールームみてえだナとネコは笑った。
腹にはどっぷりとした満腹感が広がっている。舌にはサメ肉のサメっぽい味だ。
ネコの異能で――サメはまるごと「食い」殺された。
頭の中で、「食べる」の残弾を測る。事前に村人から「食べる」を徴収してきたおかげで、大量のサメを容易く片付けることができた。腹も膨れた。ネコは幸福だ。
「ウヒヒ。今度もこれ使っちゃオ」
少しずつ、雲の緞帳を斬り込むように、光が差し込んできていた。晴れと血のにおいがする。もう、サメが飛ぶことに驚きはしない。この世界にはもっとすごいことが起こるとネコは知っているから。”
彼女はサメの遺骸を背にし、王都に向かって歩き出す。今回もまた彼に遭えなかった。それでも気にしない。彼は彼女に、「いつかまた」と言ったのだ。
サメが空を飛ぶのだ。どんなすごいことが起こってもいい。
「カザンのアニキ、また会えるかなァ」
”
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