「アイ」をなぞる

希望ヶ丘 希鳳

第1節「黴たパンでも切れ端ならまだいけるだろ? そういうこと」

 夢というものには消費期限があるのだと、昔誰かに教わった。


 努力は嘘をつかないだとか、夢は叶うものだと成功者は皆そう語る。信じる者は救われる……というのであれば、信じて信じて信じた末に何者にもなれず、何も成せなかった者一体何だというのか。


 頑張れと人は言う。必死に、ひたむきに、辛く険しい道のりを歯を食いしばって歩く者に、皆「頑張れ」と言う。その言葉がどれほど無責任で、どれほど重みのある言葉か、考えも無しに。


「もういいんだ」と。

「お前は十分頑張った」と。

「一度立ち止まっていいんだよ」と。


 どれほど待ち望んでもその言葉をかけてくれる者はいない。


 努力とは、それほどの価値あるものなのか。

 頑張ることは、夢を見ることはそれほどまでに高尚で素晴らしいことなのか。


 腐り堕ちた未来に価値など無い。

 夢というものの消費期限は思うほど長くはないのだ。


 それでも人は夢を見る。

 黴た未来の一欠けらだとしても。

 人はそれを食い尽くし、立ち上がり、戦うのだ。


 なぜならそれが

 人が人としてあるための、最後の縁なのだから。

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