猫な彼女とゲームセンター

@山氏

猫な彼女とゲームセンター

 俺と咲弥は休みの日にゲームセンターに来ていた。

「啓人、こっち」

 咲弥は俺の手を引いてクレーンゲームの前まで連れていく。

 立ち止まったところは、猫の大きめなぬいぐるみが置いてある場所。

「これ取って」

 咲弥はぬいぐるみを指さして、目を輝かせて俺の方を見た。

「取れるかな……」

 クレーンゲームは得意ではない。そもそも、俺も咲弥もゲームセンターに来ることなんてほとんどなかった。

 咲弥が突然ゲームセンターに行きたいと言い出して来たわけなんだが、その理由は目の前のぬいぐるみが欲しかったからなんだろう。

「頑張ってみるけど、あんまり期待しないでね」

「……期待してる」

「ええ……」

 俺は財布を取り出して、お金を入れる。ボタンが光り、操作が可能になった。

 慎重にクレーンを動かして、ぬいぐるみの中心くらいに動かす。ゆっくりとした動作でクレーンは下がっていき、ぬいぐるみを掴んだ。

「あっ」

 咲弥は少し嬉しそうに声を上げる。

 クレーンはぬいぐるみを掴んでほんの少し持ち上げるが、ぬいぐるみの重さに負けてか、するりと落としてしまった。

「ああ……」

 残念そうに咲弥は肩を落とす。

「頑張れば取れるかも……」

 そんな咲弥を少し励ましつつ、俺は次のお金を入れた。

 次はぬいぐるみの後ろの方を狙う。少しずつ移動させて落とす作戦だ。

 しかし何度か挑戦するものの、ぬいぐるみが取れる気配はない。

「うーん……」

 少し財布の中身が心許なくなってきた。咲弥のために取ってあげたいのだが……。

「あの、よければ位置ずらしましょうか?」

 どうしようか考えていると、横から店員が声をかけてきた。

「え、いいんですか?」

「全然大丈夫ですよー」

 にこやかに笑って、店員はぬいぐるみの位置を触れば落ちるくらいの位置まで移動させる。

「頑張ってください!」

 店員は拳を作って俺を応援すると、その場から離れてしまう。

 俺はお金を入れてクレーンを動かした。

 

 

 

「ふふふ」

 幸せそうにぬいぐるみを抱きかかえて、咲弥は笑っていた。

「よかったね」

「ん、ありがと」

 俺は笑う咲弥の横顔を見ながら、家に帰った。

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