プリンの日

 数年前の話。

 僕はプリンをひとさじ掬って食べる。甘いカラメルの味、自分で作ったとは思えないほどの出来だ。


「なに、ニマニマしながらプリン食べとるん」

「いや、我ながら上手にできたなって」

「スイーツ男子、か」

「スイーツ好きには男子も女子も関係ないよ」

 と、会話する相手は李仁ではない。


 ラブホテルのベッドの上で僕の横に座っているのは……シバである。

 まだこの時はシバと僕で高校の剣道部を引率していた。警察時代に剣道日本一の腕前だった彼がここに来て何年経つか。

 彼が来てからも、亡くなった大島先生と同じくらいのレベルを保つことができて、当初男子だけの指導が女子剣道部も引き受けることになり、国体の常連になっていた。

 そして僕とシバは当然のように同じ時間を過ごすことも増えて、李仁という伴侶がいながらもシバとの身体の関係は続いていた。


 今日は李仁が東京の支店に出張だから部活動の休みとも重なり、シバとラブホテルに来た。

 最初は僕の作ったプリンを渡すだけだったのに、一緒にいたくて、わがままでホテルに行った。そう、僕から誘ったんだ。


「味は悪くない」

 相変わらず素直じゃないんだから。パンツ姿で、しかも激しく乱れあった後の火照った体にホテルの冷蔵庫で冷やしたプリンは美味しい。



 次の日、出張から帰ってきた李仁にも同じレシピでプリンを作った。

「ねぇ、知ってる?昨日はフリンの日って」

 !!! と僕はのけぞる。


「どうしたの?」

「いやその、なんな日っ?」

 僕はシバと会ったことは李仁には言ってないのに。


「ん? プリン、の日よ」

「なんだ、プリンか……」

「なんだって、おかしな子ね。ミナくん」


 プリンを不倫と聞き間違えた僕。



 昨日よりもカラメルが苦く感じた。

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