雨傘
※「雨傘」というお題で※
駅から出るとポツン、と滴が落ちた。と思ったらダダダダダだっと一気に雨が落ち、僕は慌てて駅構内に戻った。
天気予報で雨とは言ってたけどこんなにひどくなるなんて思わなかったなぁ。
「もしよろしかったらどうですか?」
!!と振り変えると、シバだった。相変わらずモサモサとした髪の毛に、前よりも濃くなった髭。
彼は昨年末に剣道部の顧問も警察の剣道部の監督も辞めてしまった。離婚もして今は一人暮らしというのは聞いてはいたが。
会うのは久しぶりである。
2回目の成人式も誘ったが、断られた。どうしたんだろうか……と李仁と心配していたところである。
「久しぶり」
「久しぶり……元気にしていた?」
「ん?病院帰りだ」
「何か悪いの?怪我?病気?」
シバは俯く。
「精神科、だ」
「……シバは図太そうに見える」
「そうか?意外と豆腐みたいに弱っちいよ」
服もヨレヨレっとしている。手にはビニール袋。薬が入っているのだろう。
もう片方には大きな蝙蝠傘。だらっとした身なりの割には傘をちゃんと持ち歩くしっかりものだな。
僕なんて天気予報確認したのに忘れちゃったんだもの。
シバと出会った頃は5、6年以上前だが……最初はぶっきらぼうの男だと思ったが剣道を通じて芯から強い男と知り、唇を交わし、身体も交わして……彼の繊細さを知った。
いつも目の奥は黒く、淀んでいた。でも彼は磁石のように引き寄せる何かがあった。もちろん他の女性や李仁と関係を持っているのは知っていたが、それでも構わない、抱いて欲しい、愛して、と不思議にそう思えてくる。
雨はまだ止まない。
「雨、止まないな……」
「うん、あ……」
メールが来ていた。李仁からだ。
『お疲れ様!ミナくん、傘持って行ってなかったでしょ?今営業先からでてそのまま直帰だからむかえにいくけど、どこ?』
……。
「李仁からか?」
「うん、迎えに来てくれるって……」
「じゃあ俺はここで……」
シバ……もう行っちゃうの?連絡先も変わってメールも電話もつながらない。今日、ここで逃したら……もう会えない。
また狂おしいほど愛して欲しい……李仁とは違う形で僕の中に激しく入ってきて欲しい。
けど……。
『うん、お願い』
と僕はメールを李仁に返した。
スマホから目を離し、隣にいるシバの方を見たらもう彼はいなくなっていた。人が行き交う駅、どこに行ったの……。
僕の足元にシバが持っていた大きな蝙蝠傘が。これなかったらシバ、濡れちゃうよ。僕は拾った。
「ミナくん!」
この声は李仁……意外と早かったなあ。
「すぐそこが営業先だったから……あれ、傘持ってるんじゃん?」
……どう見ても使い古されている傘。
「拾ったんだ」
「こんな雨の時に落とす人もいるのね」
「そうだよね……」
僕は持っていたタオルを鞄から取り出し、李仁のスーツの水滴を拭いてあげた。
「ありがとう。……ミナくん、目が赤いわ……泣いてた?」
えっ……。
「傘あるなら相合傘できないわね」
李仁が持っていた大きなお洒落な傘……僕は蝙蝠傘を駅の傘置き場に置いた。
「相合い傘、したい」
「はいはい」
李仁の傘に入った。
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