第12話 「全星系統合スポーツ連盟ってのは、何でウチばかり目の敵にしやがるんだろなあ」
ダイスは皆の関心が自分に一斉に集められていることに、心臓が跳ねるのを感じた。
確かに一応、最初の自己紹介の時や、新入メンバー歓迎パーティとかでも「公式に」言ったことはある。
だがどうも、ここで問われているのは、そういうことではないらしい。彼は思う。
「まあ、あの、学校に、スカウトが来たし」
それはそうだろ、と誰かしらの声が飛ぶ。
「で、結構おだてられたのと違う?」
ししし、とテディベァルは笑う。
「……おだてられもしましたけど……」
「はっきりしないですねえ」
ミュリエルはにっこりと、しかし「答えは何ですか?」と追求する時の姿勢で詰め寄った。
「んー…… やっぱり、ベースボールが、好きだからです」
うんうん、とそれには皆納得した顔をした。
「好き、は好きだろうがな、それだけか?」
「え?」
「だから、ベースボールで有名になってやろうとか、そういうことは、お前、考えなかったの?」
やや意地悪げにストンウェルは訊ねる。すると。
「あ」
ダイスは声を上げた。
「何、ダイちゃん、もしかしてそんなこと、全く考えてなかった?」
「な、無かったです……」
まあ彼の場合、既に中等/実業学校リーグで、星系内に名をはせていた、ということはあるのだが。
「プロだとね、それこそ全星系、レベルだからねえ。俺も昔は大好きな選手が居たものよ」
「ストンウェルさんにも、居たんですか?」
「おーよ。俺がプロになってやろう、って思ったのは、そのひとが居るチームで、一緒にプレイしたいって思ったからだぜ…… ま、そのひとは、俺が入って、結構すぐに抜けてしまったんですげえ残念だったんだけどさあ」
「あ、それ、俺もあります」
ほほう、と皆の目がきらり、と光った様な気がした。嫌な予感が、彼の背筋をざっ、と駆け抜けた。
「おーい、オーナーからの通信だぞ、昨日のお騒がせ集団、ちょっと来い」
監督の声が食堂に響いた。助かった、とダイスはほっと胸を撫で下ろした。
*
「本当に昨日のことは、申し訳ないです」
代表してマーティが、深々と画面の彼女に頭を下げた。
『……まあいいわ。どうせいつものことだし。私が言えるのは、暴走しすぎないように、くらいでしょ、どうせ』
男達は、この女性の指摘にぐ、と言葉を無くした。
『遠征から帰ってから、そのあたりの罰はまとめて、何か考えておくから。覚悟しておきなさいね。罰は罰なんだから。ふふふ』
はあい、と皆神妙に返事をした。
あの「自由奔放」がモットーの様なテディベァルすら、余計に小さくなっていることにダイスは驚いた。
実際、皆この女性に関しては、頭が上がらないようだった。しかし何となく、ダイスにもその気持ちは分かる様な気がした。オーナー、社長、その顔の他にもう一つ、その女性の年代には、感じる一つのものがあるのだ。
母親。
確かにまるで境遇が違うというのに、何処か皆、この故郷を離れたメンツは、この女性に怒られた時に、何処か母親に叱られたような顔をするのだ。
『あ、そうそうところでダイちゃん』
は、とダイスは口を開けた。
俺? と思わず近くに居たヒュ・ホイに彼は確認してしまった。その呼び方をされるとは、さすがに彼も思っていなかったのだ。そうだよ、とホイはあっさりとうなづく。
『居眠りは誉められたものではないけれど、あなたの聞いたことは、全く無しにしておいていいものではないわ。もう少し詳しく話してちょうだい』
はい、と彼は皆に話したことを繰り返した。
「だけど、一つ、気になることがあって」
『気になること?』
「おい、お前昨日そんなこと、言ってなかったじゃないか」
端末の向こうの夫人の声と、慌てるストンウェルの声が重なった。
「や、その時何となく、気になっただけで……」
『材料は幾らあってもいいものよ。言ってごらんなさい』
「あ、はい。……えーと、俺達、あの時、ジャガー氏に会ってしまった訳ですけど、…… 何か、声が、似てるんです」
「声が、ってお前がその、爆弾の話を聞いたときの『男』のほうか?」
ええ、とダイスはうなづく。
「ただその時には、おかしいな、と思っただけで、似てる、という発想が無くて」
「お前鈍感すぎーっ!」
ぱこん、とテディベァルは飛び跳ねてダイスの頭をはたいた。
『やめときなさい、テディ。これ以上お馬鹿になってはいけないでしょう?』
あんまりな台詞だとはダイスも思ったが、はーい、とテディベァルが素直に返事をしたのでまあいいことにする。
『で、マーティ、この惑星にテロの起こる可能性はあって?』
あー、と振られた男は眉を寄せた。
「そりゃあヒノデ夫人、何処の惑星だって、可能性ゼロ、なんて言えませんけどね。でもアルクなんかよりはずーっと可能性は低いですよ。何たって『爆弾』あられがあるくらいですから」
『あら、それ面白いわね。ちょっと後で資料取り寄せてみましょう』
さすが食品産業の社長だ、と皆感心する。
『でも、そうね。ゼロではない。それが問題なのよね。いつもあなた達が動いてしまうのは』
「ええ」
いや、と彼は首を横に振る。
「ああもう、全星系統合スポーツ連盟ってのは、何でまあ、ウチばかり目の敵にしやがるんだろなあ」
ふう、とトマソンは腕組みをする。それに対し、マーティはそうだな、と真剣な顔になる。
「まあ、向こうにも何か理由はあるんでしょう。ともかく、無いなら無しでいいですが、あったら困りますから、少し動いてもいいですか?」
『試合は勝ってね』
ぴしり、と彼女はその一言で皆を押さえ込んだ。
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