第4話~山本航太朗~2
『アルケミスト』を読んだのは中学生の頃だった、羊飼いの少年は心の声を頼りに旅をはじめ、不思議な男に巡り会う、そこでウリムとトムミムという占いの石を手にする
神様から唯一許されている占い石を手にしながらもそれに頼ることなく心の声を頼りに旅を続け、やがて
「人生に起こるすべてが前兆」という助言を元に一緒に旅を続ける。
2度も無一文になりながらもエジプトへ辿りつき宝と愛する人をも手にする。
世界で読まれてる本の中でも上位に入る本だった。
何故、この本に夢中になったのかは分からないが、僕を救ってくれた。
風は世界中を吹きわたり、誕生した場所もなければ死ぬ場所もない。
風のように生きたいと思った。
その頃の母親は最悪だった。
暗い部屋に帰り、コンビニのものを食べ、飲んだくれている母さんに少しの優しさも持てなかった。
そんな息子に、母親は毎日のように酷い言葉を放った。
「あんたなんか生まれて来なければ良かった、あんな男の子どもなんて産むんじゃなかった」
その言葉は僕の心に消えない傷を作った。
そんな腐った毎日に、微かな光を
与えてくれたのは和羽だった。
僕達は毎晩のように、部屋を抜け出して真夜中の公園で語り合った。
2歳下の和羽は中一、僕は中三
恋と呼ぶには幼いふたりだった。
元々母親同士が友人だったために小さな頃からいつも一緒にいた。
その関係も父親がいなくなってから、少しづつ変わっていった。
幸せそうな夫婦を見るのが辛いのか母親は和羽の母親との関係を遠ざけるようになった。
でも、僕は和羽の言葉から幸せなんて表面だけなのだと知っていた。
繊細な心を持っている和羽の心も傷だらけだったのだ。
だからこそ僕たちは惹かれあった。
高校受験を控えた寒い夜、母親は家を出た。
小さなメモと少しのお金を置いて。
僕が風になりたいと思った瞬間はきっとそのときだったのかもしれない。
それから僕はじいちゃんと一緒に暮らし始めた、和羽とも時おり会ってはいたが、和羽は高校に入った頃から僕にさえ秘密を持つようになっていた。
その事は僕を悲しくさせたけれど、いつかその秘密もきっと話してくれる時が来ると思っていた……いや、思いたかった。
彼女はずっと孤独だったのかもしれない。
ひとりぼっちの僕と同じように、和羽もずっとひとりぼっちだったのかもしれない。
あの夜僕の目の前で和羽は風に舞うように天使になった。
一緒にいた僕は取り調べの間もずっと泣き続けていた。
スマホに遺書が残されていたことからその日には警察から解放されたけれど、僕はあの時一緒に死ぬべきだったんだ。和羽の母さんからは酷い言葉で責められた。
「どうして一緒にいたのに止められなかったの?なんで見殺しにしたの?
あんたが殺したも同じ」
きっとそうなんだと思う、僕が和羽を見殺しにした、救うことが出来なかった、自分はいつも救ってもらっていたのに。
和羽は学校でイジメにあっていたこと、毎日が辛くていつも死にたいと思い続けていたことなどスマホのメモには悲しい言葉の欠片に溢れていた、その中にたくさん僕の名前も書かれていた、航太朗が好き、航太朗と一緒に遠くに行きたい。
僕も同じ気持ちだったのに、伝えることが出来ないまま和羽は天使になった。
2人で一緒に風になりたかった。
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