口の中は雑菌だらけなのよ

男の子は母親に叱られていた。

ジャムの瓶にスプーンを突っ込んで舐めていたところを見つかったのだ。


「いい!口の中は雑菌だらけなのよ。

あなたの汚いお口に突っ込んだスプーンをジャムにつけたら、

ジャムにばい菌が付いて、瓶の中で大繁殖するでしょ。

ジャムがばい菌の塊になっちゃう。

そんなもの食べられないわよ。

わかった!」


叱責はこれで終わりかと思って子供はうなずいたが、

今度はいかに口の中が汚いか、スプーンで直接ジャムを食うのがどれだけだらしない行為か、説教の種には終わりはない。

どうやら母親の口の中は説教があふれかえっているらしい。


さて、世の中には精霊というものがいる。

そして森の精霊はよく果実の中で寝ているのは知られた話だ。

精霊が瓶に閉じ込められる話は多いが、それは大方ジャムの瓶であるというのが定説である。

この時このジャムの瓶の中にも精霊が閉じ込められていた。

そしてその精霊はかなり高位の精霊だった。

精霊はジャムとともにスプーンですくわれ、少年の中に入り、少年の目で世の中を見て楽しんでいた。

そこにこの説教だ。

精霊はうんざりした。

そしてあろうことか、彼はその母親の口の中のものを数万倍の大きさにした。


母親は子供を叱っていた。

すると突然口の中が何かでいっぱいになった。

悲鳴とともに彼女の口から、ぶよぶよしたもの、くねくねしたもの、ガサガサはい回るものが飛び出した。

彼女は悲鳴を上げ、さらにそいつらが飛び出す。

子供はヒエッと叫んで逃げだす。

出てくるやつらの気持ち悪いことと言ったら…


精霊はその魔法を解かないまま、森に帰ってしまった。


以来、少年はそれなりに満足した日々を送っている。

母親はマスクをつけ、決してしゃべらなくなってしまったから。

母親が彼に終わりの見えない説教をすることはもうない。

今でもスプーンでジャムを食うことはやめられない。

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