公爵の地下室
年寄りの公爵がいた。
いつもにこやかで領民にやさしい公爵だった。
その公爵が王都にいる間は、代官が領地を治めていた。
代官は公爵の使用人であり、公爵の家に住んでいた。
◆
ある時、王都の公爵から連絡が来た。
そちらに旅人が来る。
彼を私と同じようにもてなすように。
ということだった。
やがて旅人がやってきた。
彼はみすぼらしい平民の姿だった。
代官は彼を客室に泊めるのを嫌がった。
そこで彼を空いている使用人の部屋に泊めた。
たかが平民だ。
翌日、旅人は出立した。
公爵は自領に戻るとそのことを知った。
「お前はどうして私の言いつけに背いたのだ。あのお方に…なんということをしてくれたんだ…」
公爵はそうつぶやいて黙った。
代官は公爵が見たこともないほど怒っているのがわかった。
代官は真っ青になった。
「ついてきなさい」
彼は地下室に連れていかれた。
そこには棍棒を持った二人の大男がいた。
自分は野良犬のように打殺されるのだと代官は知った。
彼は泣いて命乞いをした。
公爵は青い液体が入った小瓶を代官に渡した。
「それを飲めば楽に死ねる」
逃げ出すのは不可能だ。
代官は命令に背いた日の自分を呪いつつ毒をあおった。
彼は死ななかった。
毒と思った液体はただの酒だった。
「やればできるじゃないか」
公爵がそう言うと、代官は今度は安堵して泣きだす。
公爵は続ける。
「だが帳尻はあわせないとな」
街のごろつきが連れてこられた。
みんなに迷惑をかけているロクデナシで知られた男だ。
後ろ手に縛られた男は悪態をついていた。
二人の男たちが彼を撲殺する。
公爵はそれをじっと見ていた。
何度も棍棒は振り下ろされ、ぐちゃぐちゃになったごろつきを見て代官は吐いた。
あの液体を飲まなければ自分がああなっただろう。
◆
公爵はいつもにこやかで領民にやさしい。
だが代官はいつも神経質だ。
彼の声と指は公爵の前では震えてしまう。
部下の不正を見つけたときは、そのふとどき者を絞め殺さんばかりの剣幕だった。
そして代官は決して青い酒に手を出さなかった。
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