公爵の地下室

年寄りの公爵がいた。

いつもにこやかで領民にやさしい公爵だった。

その公爵が王都にいる間は、代官が領地を治めていた。

代官は公爵の使用人であり、公爵の家に住んでいた。



ある時、王都の公爵から連絡が来た。

そちらに旅人が来る。

彼を私と同じようにもてなすように。

ということだった。


やがて旅人がやってきた。

彼はみすぼらしい平民の姿だった。

代官は彼を客室に泊めるのを嫌がった。

そこで彼を空いている使用人の部屋に泊めた。

たかが平民だ。

翌日、旅人は出立した。


公爵は自領に戻るとそのことを知った。


「お前はどうして私の言いつけに背いたのだ。あのお方に…なんということをしてくれたんだ…」


公爵はそうつぶやいて黙った。

代官は公爵が見たこともないほど怒っているのがわかった。

代官は真っ青になった。


「ついてきなさい」


彼は地下室に連れていかれた。

そこには棍棒を持った二人の大男がいた。

自分は野良犬のように打殺されるのだと代官は知った。

彼は泣いて命乞いをした。


公爵は青い液体が入った小瓶を代官に渡した。


「それを飲めば楽に死ねる」


逃げ出すのは不可能だ。

代官は命令に背いた日の自分を呪いつつ毒をあおった。

彼は死ななかった。

毒と思った液体はただの酒だった。


「やればできるじゃないか」


公爵がそう言うと、代官は今度は安堵して泣きだす。


公爵は続ける。


「だが帳尻はあわせないとな」


街のごろつきが連れてこられた。

みんなに迷惑をかけているロクデナシで知られた男だ。

後ろ手に縛られた男は悪態をついていた。

二人の男たちが彼を撲殺する。

公爵はそれをじっと見ていた。

何度も棍棒は振り下ろされ、ぐちゃぐちゃになったごろつきを見て代官は吐いた。

あの液体を飲まなければ自分がああなっただろう。



公爵はいつもにこやかで領民にやさしい。


だが代官はいつも神経質だ。

彼の声と指は公爵の前では震えてしまう。

部下の不正を見つけたときは、そのふとどき者を絞め殺さんばかりの剣幕だった。

そして代官は決して青い酒に手を出さなかった。

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