野球部

 寝起きの頭で文章を書きなぐるのはとてもいい。まず、寝起きは眠いから理性があんまり働いてない。そのため文章の抑制が効かないから、駄文が量産できる。普段なら頭で思うだけで書かない言葉が書かれる。自分が隠しているものがあらわになる。

 

 夢の中で体育祭をやっていて、みんなで行進をしようと椅子の後ろに並んでいた。僕のぶんの帽子がなくて、ナップサックの中を何度見ても変な帽子しかない。その帽子も次に手を入れると消えてしまう。黒い野球帽を探し求めているが見当たらない。近くで友人がチャンピオンを広げドカベンを読んでいる。顔に傷があるとても怖い人が現れ黒い帽子を貸してくれる。そのまま僕は列に並ぶ。黒い帽子の他に、藍色の帽子をかぶってたり、なにもかぶっていないやつがいたりしてまとまりがなかった。名探偵コナンの謎解きゲームをすると頭がよくなると言っているやつがいた。


 夢は見た映像を思い出すだけだからすぐ書ける。映像のストックがあればいつまでも書けそうな気がするけどどうだろう?

 

 光の中で水滴が落ち、その水滴がグラウンドにしみを作るたびに光がきらめいた。私はサイダー瓶が結露して垂れる水滴を見ていた。

 誰かを待っている時間はどこまでも引き伸ばされているように感じる。その間に私の人生は一度終わって再び戻ってきたような気分にさえなる。

 冷たかったサイダーは手の熱を奪い取り、少しずつ暖かくなろうとしていた。からからと中のビー玉を鳴らして回転させたりしていた。

 このサイダーを渡そうと思ったのはほんの気まぐれで、なぜそう思ったのかわからなかった。感情に私の理解がまだ追いついてなかった。このまま一生追いつかないでいて欲しい。

 野球部の練習試合が終わり、正午になった。みんなお弁当を出してお昼ごはんを食べはじめる。「弁当忘れたんで、おれコンビニで買ってきます」野島康平が大きな声で言うのが聞こえた。野球部というものは常日頃大声を出すことを強制されている。

 コンビニまでは歩いて5分。市営グラウンドから正面の車道を渡るとある。私は康平がコンビニに入るのを見届け、コンビニの外に移動した。康平はなかなか出てこない。覗くのもなんとなく嫌だったから、私は頑なにコンビニに背を向けてサイダーを持っていた。「お、佐倉じゃん。なんでこんなとこいるの?」やっと話しかけてくれた。

 康平は右手の人差し指と中指にビニール袋を引っかけて持っていた。

「重くないのそれ?」

「野球部だから問題ない」

「全然理由になってないし」

 私はつい笑ってしまう。底抜けに正直でまっすぐなところが嫌いじゃなかった。

「ん」

 サイダーを差し出すと康平は受け取った。

「へぇ、瓶のサイダーって久しぶり。喉乾いてたし助かる。ありがとう。あれ、開いてる」

「開けといた」

 康平が笑顔を浮かべ、身体をそりながらサイダーを喉に流し込んでいった。そう、この光景が見たかった。

「佐倉すこし、ぬるくなってる。でも、このシュワシュワは身体が再起動するって感じで最高だな」

たしかにそうだなって私も笑った。



1300字 35分  

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