文章を書くハードルを下げるための文章

寮ノ一

ひととき

 確かにあった、あの時間を空間ごと思い出す。思い出の中のイメージはもう二度と再現できない。思い出すことはもう戻れないことの確認でもある。寂しさとノスタルジアをただ感じてしまうその行為は、呪いであり祝福だ。

 また、思い出してしまった。忘れることができるのならいくらでもきみの言うことを聞くよ。 

 まだ、思い出せる。この記憶を思い出せなくなって誰もあの時間を知らなくなることが死より恐ろしい。


 気づくと頭にこびりついて離れない思い出というものが誰にでもあると思うが、僕の場合そいつがひどい。よい思い出、わるい思い出、自分が思い出にしたいものだけが思い出になるわけでもない。


 誰かが死んでも記憶の中にその人は残る。今は外部記憶装置に写真や動画を残しておくこともできる。しかし、その外部記憶装置を見ても、その人の思い出を持っている人がいなくなってしまったら、その人はほんとうの意味で死を迎える。リメンバー・ミーもこんなテーマな映画だったと思う。

 すべての人に忘れ去られたときが本当の死だ。

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