第82話 さあ、肉食推進ギルドの開店よ! 【ジャスミンの場合】
「ほあぁぁぁぁぁぁぁ……」
湧き上がる熱気。
時折吹き上がる炎。
盤面にずらり並べられた串肉。
ジャスミンの眼前には、3mに渡った即席の焼き場が広がり、幾十人もの腕が欲望のままに突き出されて来る。
瞬間瞬間、その光景がジャスミンの脳裏に焼き付き、脳髄が最適解を即座に3肢へと伝えるのだ。ラミアだから、腕と尻尾の3肢である。
「はい! はい! ははい! はい!」
掻っ攫う様にまとめて何本もの串を持ち上げ、半ば放り込む様に大小様々な掌の中へとすっぽり、くるり返す手で撫でる様に幾十もの串をずらららっとひっくり返す。
最早、ジャスミンの腕からは産毛が焼失し、つるつるてん。
それでも流れる様な動きは止まらず、空いた場所へ肉が補充されるや、まるで楽器の鍵盤を撫でるかの様にたらららっと返して回る。
「流石、ジャスミン姉さん!
半端ないわ~!」
すかさず左脇から肉を補充したゼロが。
「流石、ジャスミン姉さん!
男がほっとかない訳だわ~!」
すかさず反対側からもワンが。
「あんたら、もっと手伝え~!」
くるり頭を巡らし怒鳴るジャスミンに良く見える様、2尾は空になった大皿を持って、ぴゅうんきゃははとハルの元へ。
すかさず、お代わりの大皿を持つ彼の腕に左右からまとわりついて見せる。
「「や~ん、こわ~い♪」」
「こら、ゼロワン!
あんたら~!」
もう面倒なので、一々分けて呼んでらんない。
こんな2尾はゼロワンで十分!
「あははは……」
困った顔のハルだが、可愛い2尾に絡まれて、まんざら悪い気はしない。
鼻の下が自然と長くなるのは、男として当然の反応で、後でちゃんと謝れば赦してくれると信じている。
本当に、彼女ら姉妹はその面立ちが良く似ていて、姉妹だから当たり前だろと言われるかもだけれど、このゼロとワンはちょっと見分けがつかないくらいにそっくりだ。
着ているワンピースの色が同じだったら、ちょっと困ってたかも。
「おいおい。
近付き過ぎだよ。
危ない危ない」
「え~、大丈夫ですぅ~」
とゼロは、えへらへらとハルの左の二の腕に頬をすりすり。
「全然、問題無いですぅ~」
とワンは、うふふのふとハルの右の腕にその胸を押し付けてみたりみたり。
「ぶっとばす!」
時折前を向いては、未来予測を更新して、その奇天烈な焼き場回しを継続するジャスミン。
「貴様らの肉の色は、何色だあ~、こらぁ~っ!!」
「や~ん、額の青筋がとってもお似合いよ~」
「じゃあじゃあ、ハルさんに調べて貰おっか!?
ジャスミンのそれと比べて~」
「「や~ん!!」」
と2尾が揃って、くいくいっとスカートの裾を上げ、ハルの顔を見上げるのだから、ジャスミンもブチリ。
見えない尻尾を繰り出して、3尾でびびびと激しい攻防を繰り広げ出した。
「ジャ、ジャスミンちゃん。
いけないよ」
止めに入ろうにも、肉が盛られた皿を持つ両腕をゼロワンに抱かかえられているので、動きようが無いのだ。
焼き場の攻防、ここに極まれり。
正にその時である。
「見つけたぁーっ!!!」
甲高い少年の声が響き渡った。
「げっ!?」
びっくりしたのは焼き場に向き直ったジャスミン。正に二度びっくり!
「おやぶんだぁーっ!!」
「げげっ!?」
目の前に、頭ぼうぼうの半分浮浪児みたいな子供が一人、汚れで真っ黒な顔をひょっこり。その両手には、肉の串がしっかり握られていた。
「ほんとだ!!」
次の瞬間、人の間から飛び出す様に、似た様なのが増えた。
「お、おやぶ~ん!」
「に、肉ぅ~っ!!」
「俺にもっ!!」
わらわらと蚤をぴんぴん飛ばしながら汚いガキが湧いて出たのだ。さあ大変!
「なあ~、頼むよぉ~!
俺達の、おやぶんになってくれよぉ~!」
しっかり自分の肉をキープしながら、まとわりつく様に哀願する、十数人の子供に囲まれ、すっかり逃げ場の無くなったジャスミンの運命や如何に!?
「「「「「「「「「「おやぶぅ~ん」」」」」」」」」」
「きゃ、きゃ~~~~~!」
「「あらあら、とってもお似合いだわ、ジャスミン姉さん」」
その光景にぷぷぷとなるのは当然のゼロワンだった。
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