第33話 新たなる移住者
陽は真上を越して少しずれ落ちた頃、迎者達はトマトマ伯爵領からの移住者を護衛して、砦のパンパ側の東門前に要約近づくと、かなりの幌荷車が門の前に並んでいるので、ハービーハンの騎馬隊十名程が、門に向かって駆けていった。
しばらくのちにハービーハンの騎馬一騎だけが引き返してきて、
「族長、豊潤の森の同族だけでなく、紅葉の森、緑豊かな森の同族長等が来訪してきています。」
「豊潤の森の同族だけなら、家族合わせても一万人だが、紅葉の森、緑豊かな森の同族全員だと、三万人は優に超えるね。なぜ急に移民してくると?」
「人間種族の避難民の流入が激しく、彼等との争いが激しくなったのと、安全であると確信した、闇の樹海の豊かなパンパに憧れての事と思います。」
「親父殿達は、来ていますか?」
「親父殿達長老は来訪して来た族長等に、亜人協力国のルールと国是を説明しています。」
ハービーハンはパトラへの報告が終わると、再び門の方へ駆けていった。
急な移民は、パトラ達一族の計画をも上回ってしまったらしい。
「予定してないエルフ族の移住ですか?」
「移住を呼び掛けては居ましたが、あまり乗り気でないと聞いていました。」
「防壁内に、三万の人口全員分の放牧地を確保するのは、難しいと思いますが?」
「防壁内の放牧地を区画すると、二万人分だけでしょう。残りの一万人分は、パンパ側防壁の外になるしかありません。あと、街区画に入り商売するか、職人区画で職方に振り分けなければなりません。」
「エルフ族にも職方は、多いのですか?」
「どのような種族でも、商人はいますし、亜人族は人間種族よりも自給自足の考え方ですので、全ての亜人は職人であるかもしれません。」
「出来れば、軍人も職人も欲しいですね。」
鹿島はパトラに魔法話も聞きたいが、門に着いたのでパトラと運転を変わり、パトラを降ろして、丸太門に向かうと、猫亜人のマティーレとトドが耕作人達を待っていたようで、丸太杭の外で手を振っている。
耕作地の割り振りの采配は、マティーレとトドを任命してある。
マティーレには残ってもらい、トマトマ伯爵領の耕作人達を耕作地の住居予定地に案内と、彼らへの食事の用意をトドに頼んだ。
トドは鞍付きエミューにまたがって、耕作人達の幌荷車を丸太抗外側沿いに先導して行くようである
耕作人達はテテサを見取ると、一人一人がテテサを崇める様な挨拶した後、幌荷車でトドの後を追った。
さらに鹿島はマティーレに、ムースン等二五名を輸送艦に案内して、街区割の説明をするよう指示した。
テテサはカサチーを伴い、厳粛な衣を着用して、聖騎士団を迎えに来たようで、
「聖騎士団長殿、ようこそガイア様降臨の地へ、お越しくださいました。」
「聖者テテサ様、お初にお目にかかります。聖騎士団長を務めるヨーコー.ガイア.サンシーと申します。聖者テテサ様護衛の聖騎士二十名を、連れて来ました。」
「ガイア様に愛された人について、あなたの見立てはどうですか?」
「勇者の剣を発動出来ましたので、勇者の資格を持っていると、確信しました。使徒だと思うには、まだ、確信まで至っていません。」
「そのことは、これからじっくりと話し合い、目撃者の検証をしましょう。」
「目撃者は、猫亜人の子供達だと、伺っていますが?」
「だから信用できると思います。」
「猫亜人は、噓を付かないと?それは伝説でしょう。」
「伝説でも、人間種族不信のエルフ族は、猫亜人を信用して亜人協力国建国に同意しているのです。亜人協力国の守り人と呼ばれるたったの二十名で魔物を倒した事も、ガイア様の使徒達か勇者達なら可能でしょう。」
「本当に魔物を倒したのですか?」
「猫亜人とエルフ族が目撃して、皮も鱗もあります。団長殿、彼らの強さは尋常ではないのです。特に提督閣下に置かれては、眷属のごとく強さの上に動きは見止めきれない迅速です。千也二千の重甲冑でも、倒すことは出来ないでしょう。」
「聖者テテサ様は、ガイア様に愛された人の戦いを目撃されたとの報告は、受けています。神の眷属でも、千、二千の重甲冑はいくら何でも無理でしょう。」
「亜人協力国の守り人の強さは、あなたもそのうちに目撃するでしょう。」
コーヨーは納得行かないとの思いだが、
「エルフ族長の物理学剣を試しました。魔法の剣と思われるほどの切れ味鋭い刃で、甲冑ごと切り裂くほどでした。」
「提督閣下の剣は、甲冑ごと身二つに切り分けました。」
「物理学の剣は、如何程所有しているのですか?」
「私が知って限りの本数、守り人二十振り、エルフ族四十振り、猫亜人四十振りと聞いています。」
「猫亜人は争いをしないと聞いていますが?」
「短剣なので、生活用や作業用に使っているようです。」
「エルフ族長の申し出があり、勇者剣と族長の物理学剣を交換したいとのことですが、これについて、聖者テテサ様はどう思われますか?」
「聖騎士団長殿にとり、理がありますか?」
「エルフ族長の剣を持てたなら、重甲冑百は無理だが並甲冑相手なら百や二百なら、私一人で相手できます。」
「聖騎士団長殿がエルフ族長の剣に出会い、エルフ族長の剣に魅入られたのなら、ガイア様の導きでしょう。
聖騎士団長殿の理と利に適うのであれば、お心のままに。」
チェーンソー剣に魅せられたコーヨーは、交換することの理由を探しているようである。
「教会からの査問がありましたら、私は聖騎士団長殿の正当な行いであると弁護出来ます。」
「正当なことだと思いますか?」
「聖騎士団長殿が正当と思えるのなら、弁護出来ます。」
テテサも教会を敵に回してでも、勇者の剣と聖騎士団長を取り込むような誘導で、かなりの戦略家である。
「物理の剣を持てるなら、なお一層ガイア様教の信者を守る事が出来ます。」
「理にかなった、正当な理由です。」
白色甲冑聖騎士団一同が、
「団長殿、物理学の剣は、団長殿に相応しいと思います。」
と、皆が賛同しだしている。
聖騎士団長の気持はチェーンソー剣を願望していると、白色甲冑聖騎士団一同は感じている様子である。
「聖者テテサ様、物理学の剣は、聖騎士団に相応しいと思いますが如何でしょうか?」
「エルフ族長の剣以外は、手に入れることも、造ることも不可能だと思います。」
パトラの剣だけでなく、亜人の持つチェーンソー剣をも欲しがっているようで、テテサは聖騎士団長の隠された魂胆を見抜くと、悪寒を感じたような素振りで話を遮った。
テテサはそれ以上の話をしないで、聖騎士団を教会建築現場に案内するように、カサチーの運転する軽機動車の助手席側に乗って、エミューに乗った聖騎士団を従えて教会建築現場に向かった。
鹿島は丸太杭の門を離れて、パトラたちの方へ引き返すと、全てのエルフ族が膝を地につけ、下賜づくように迎えてくれた。
パトラは膝を地につけたまま、
「閣下、皆が亜人協力国に忠誠を誓いますので、亜人協力国の住民にしていただきたいのです。」
「亜人協力国の国是に従うのであれば、亜人協力国は全ての人を守ります。」
皆が安堵の歓声をあげたのは、パトラ達の交渉の旨さによる結果であろう。
「牧畜組合の運営は、パトラとハービーハン等一家の長によるので、それには必ず従ってください。」
鹿島は新しく移住希望者を見回して、鹿島に似合わない顔で念を押すように語り掛けた。
「薬製造と牧畜業に関しては、合意を得ていますので御安心ください。」
と、パトラは満願笑顔で答えた。
鹿島は久しぶりの監視モニター室に出向くと、マーク技官、グレン技官が控えていた。
二人は鹿島に気づき、直ぐに席から立ちあがったが、鹿島はそれを制止して、
「状況は如何ですか?」
と尋ねると、
「今のところ妨害もなく、工事は順調です」と答えた。
三ヶ所のモニタースクリーンに、工事画面が映し出されている。
ほかのスクリーンでは、エルフ族の住区も猫亜人の住区も、今夜は宴会に様子で多数の亜人と灯火を確認できた。
石積み外壁の上を見渡すと、等間隔でソシアル航宙技官個人所有物のオートバイと、二台の軽機動車輌が警戒のため快走しているようである。
何か異常事態が起きると、監視衛星の通信が配信されるシステムなのにかかわらず、トーマスの用心深さには敬服させられる。
監視モニター室を後に戦略作戦室に入ると、マーガレット総司令官、トーマス、ビリー、ヤン、ポール シーラー、機関部からアマヤモとサーサデの面々がそろっている。
鹿島が席に着くと、マーガレット総司令官が立ち上がり、
「今回の議題事項は、陸戦隊の装備に関して、輸送艦機関部を改めて、工業製造部としました。
ある程度の武器を製造できる目途が付いたので報告してもらいます。」
アマヤモ元機関長が立ち上がり、
「地球星型三八式歩兵銃の製造に入れます。三八式歩兵銃の特徴は、ほかの銃より製造が簡単で、銃身が長くて銃剣を装着すると槍の機能にも適しています。
銃身を短くしてボルトアクション無しの騎兵銃にも改良できます。
原銃の装着は五連発ですが、二十五連発に改造できます。」
鹿島も希望が叶う限りと思い、注文してみた。
「魔物の鱗を加工した、防御アーマーと同じ機能の甲冑を、できるだけ多く製作してほしい。馬、オートバイ、荷台付き自動車、ヘリコプター、火炎放射器、双眼鏡、手榴弾、魔物の尾刃から作れるであろう、超波動刃の製造もお願いします。」
「超波動刃がどの様な剣なのか解りませんが、それ以外はコーA.Iの知識と亜人たちの協力で、直ぐに取り掛かれます。」
マーガレット総司令官が立ち上がり、
「超波動刃とは?騎士団長ヨーコーが所有している、勇者の剣の事ですか?」
「そうです。」
「騎士団長ヨーコーは、一振りだけでなく、かなりの数を欲しがっていつようですが、それはどのようにいたしますか?」
「チェーンソー剣は、亜人協力国の物です。私物では無いので、手放す事は私の許可が必要であると、亜人たちに通達することにしましょう。」
「しかしながら、勇者の剣は閣下が持つことに意味がございます。」
「確かに、勇者の剣はチェーンソー剣より切れ味鋭い。勇者の剣を造る魔物の尾刃は保管されているので、加工してみんなに持たせたいと思います。手に入れましょう。」
「閣下以外は発動しないのでは?」
「何故に俺に発動できたのか?解らないが、全員が使えるように、コーA.Iに解明してもらわねばなるまい。」
「テテサに是非とも手に入れて貰います。」
「話は変わりますが、テテサと俺にチャンスが来たら、テテサを聖人になってもらい、俺がガイア様に愛された人だと言うことを、ガイア教会に印象図ける必要がありそうだね。」
「どの様に?」
「軌道上からレーザー砲でも使って、監視衛星に神様になってもらいましょう。」
「監視衛星を使ってですか?」
「騎士団長ヨーコーはいつか敵対するでしょう。その時がチャンスです。」
「その件も、テテサと打ち合わせしておきます。」
トーマスが手を上げ、
「きな臭くなりそうなので、石壁の上に大砲を設置しては、如何でしょうか?」
との意見に、全員が賛同した。
魔法については、皆が知らないと危険が有るだろうから、実在する懸念ある魔法を知らせなければと思い、鹿島は調査の必要性を強調する様に語った。
「航宙隊と陸戦隊の皆に、知らせたいことがある。この惑星では、魔法が存在しています。
水魔法、光魔法、火魔法、伝説では、爆裂魔法等があるようです。」
「それは何ですか?ほかに風魔法とか、あるのですか?」
とシーラーが、怪訝に尋ねた。
「明日の昼頃、運営委員会の皆と、客人、ムースン等に集まって貰い、詳しく聞いてみましょう。総司令官、段取りを頼みます。」
と言って、解散することにした。
皆は、魔法の実在に半信半疑なようで、首を曲げながら、怪訝そうな顔で退出して行った。
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